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終焉001

「あのバカ」

 地上に出る前から既に轟音が響いていた。方角は北。つまりNT005への戦争を選んだということだろう。南へ行けと言ったにも関わらず。

「くそ、あいつの基盤を考慮しておくべきだった」

 北を恨めしそうに見つめる。行ってしまったものはしょうがない。今から行っても邪魔になるだけだろうし、間に合わない。それにNT000は止まらないだろう。一度始まった戦争は終わらない限り止めない、昔から彼女はそういう存在だった。

 なら今何かをする必要はない。落ち着いて彼女の帰りを待つことにしよう。

 部屋に戻りカウンターにある椅子に座り肘をつく。いつ終わるかはわからない。今の内に移動のための準備をしておくべきかとも思ったが、急いで駆け上ってきたんだ、少し休憩してからにしよう。

「マスター、ビール」

「馬鹿野郎、お前に必要ないだろうが」

「ちょっとはのってくださいよ」だって「恥ずかしいじゃないですか」

「俺を巻き込むな」

 一緒に駆け上がってきた男がカウンターの向こう側にいる。相変わらず店には誰もおらず、ここ数日いたような跡もなく、床にたまっている埃には僕とNT000の分しか見当たらない。それでもグラスを磨き続ける男は一つまた一つと使われていないグラスを手に取っていく。

「毎回それしてますけど、意味はあるんですか?」だって「お客さんなんてこないでしょ?」

 男は変わらず次のグラスを手に取り、丹念に磨き続けている。

「俺には意味のあることなんだ」それが「他人にとって意味のないものであっても」

「そうですか、ちょっとわからないです」

「そうか」

 最後のグラスを磨き終えた男は布巾を畳んでカウンターの上に置いた。意味のない行為だということは分かるが、それが必要になるときもある。今僕がしようとしていることも、どちらかと問われればソレと同じことだから。

 北の戦争は引き続き行われている。それを傍観することはできないが、響く轟音が戦争が続いていることを教えてくれる。先に五番の彼女を抑えたとしても問題はないが、優先順位の問題であっただけ。共和国が攻め込んだとしても本当は関係ない。たとえ攻め込まれたとしても現在の四番でも問題なく追い返せるはずだ。その成功率をあげるために行こうとしていただけなのだ。

「俺に迂闊なことを言わないようにといいながら、お前がヘマするとは」

「休止状態を命令したことで気を抜いてしまいました。彼女が抵抗することは読めていたのですが」ため息を一つ「すいませんでした」

「構わない」それより「あのまま放置していていいのか」

「今更介入なんてできませんよ」それに「無理に介入しようとすると拗ねられるうえに」

 ため息をもう一度。昔のことを思い出す。

 一度戦争に介入してきたときのことだ。あの時は大変だった。なんせ戦争が終わった後、僕の命令を自分の意思よりも下にして逆らい、僕が本当に危険にならない限り襲われようが知らん顔されたのだから。もちろん本当に危険なときは誰よりも何よりも早く僕を助けてくれたのだが。それ自体は問題はなかった、問題があったのは介入したときだ。彼女は僕を第三勢力として定め、本来危害を加えることができないはずの僕に危害を加えた。せめてもの救いは殺す気ではなく捕虜にしようとしたことだが、それでも彼女の攻撃行動は一歩間違えれば僕を殺していたかもしれない威力であった。

 寒気がしてきた。忘れようと頭を振る。あんなことは二度と経験したくない。

 とりあえず、彼女の戦争中はそのことについて考えないでおこう。余計な危険は避けるに限る。

「――あんな思いはもうたくさん」

「何があったか知らないが大変だったみたいだな」それで「お前はどうする?」

「すぐに準備をして北へ向かう」その後「彼女を拾って南へ向かう」

「時間は大丈夫なのか?あれはほっといても南にくるだろ。あれはお前や車よりも速い、先に南に向かったほうがいいのでは?」

 確かに男の言う通り、その方が効率がいい。だが、その絶対条件として一つのことがあげられる。

「彼女が負ける可能性がある」そうなれば「彼女を拾わなければならない」

「お前が戦闘するということか?」それは「五番と」

 目を向けると二つの視線が重なった。こちらに向けられたのは無機質なもの、ものを見るかのような目だ。しかし、僕はそれを見ても何も感じない、何も感じれない。

「僕が行っても負けるだけだよ」でも「彼女達がぶつかればどちらもただじゃ済まない。なら回収する隙くらいはあるかも」

「はは、そうかもしれんな」だが「それはないだろ」

「そのときはそのときということで」

「あぁ、そうなればいいな」

 男は次にナイフやフォーク、といったシルバー類を磨き始める。布巾の一角を濡らしまずはそこで磨き、次に乾いた部分でもう一度。それを一つ一つ丁寧に行っていく。時折汚れがないかを灯に照らしながら確認する。汚れがないことを確認すると棚に戻す。

 意味のないことを意味のないと知ったまま継続される作業。おそらく決めている作業をすべて終えれば、また最初からすべての作業を開始するだろう。だが、この男は機械ではない。これ以外にすることがないのだ。

 世界が、というより帝国が戦争状態に移行して以来、この国にやることはなくなっている。国を守る九機の兵器はそれだけで他国に対する脅威であり戦力であった。軍隊は必要ない、むしろ邪魔になる。

 戦う必要が無くなったことで兵士達は職を失い、戦争の傷跡として人がいなくなった。一度放たれた兵器達はその勢力圏内にいるすべてを殲滅する。帝国はその対処として、すべての帝国臣民すべてを地下へと逃がした。死んだ人間も生きた人間もすべてがいなくなった帝国の地上、そこにある店にくる人間などいない。

「五番はNTシリーズの中でもトップレベルの戦闘力だ。なんせ『平和』を基盤にする固体、そのために彼女は相応の戦闘力が必要にとされたからだ」しかし「そうならないかも」

「と、いうと?」

「NT000――めんどくさいから零番っていうけど、零番は危険すぎたから凍結したんだよ?」だから「その彼女の戦闘力が他の固体に劣るわけがない」

「なら彼女を戦争に使えばよかったのでは?」

 たしかに、彼女を戦争に使っていれば帝国の今の状況は回避できたかもしれない。彼女の戦闘は敵に相対することを是とし、被害は一点に絞られる。地下に逃げる必要がなくなっていたことだろう。

「彼女は戦争を愛している」だから「戦争に彼女を使えば、そこに待っているのは絶え間ない戦争の時代になる」

 首をかしげる男。それがどういう意味なのか理解できないようだ。いや、言葉は理解できているが、彼女を理解できていない。

「彼女はいずれ帝国へも牙を剥く。戦争をするために」

「ばかな!NTシリーズには帝国に害することを禁止しているのではないのか!それはプロトタイプとて同じはずだ!」

「確かに帝国に害することを禁止されているけど、国民を殺すことは禁止されていない。可能な限り生かしておくように設定はしたけど」それはつまり「可能な限り生かされるからこそ帝国にとってNTシリーズが天敵となるよ」

 可能な限り生かされる。ということは次の戦争が可能になるということだ。仲間の仇、家族の仇、帝国の仇、どれかかもしれないしどれもかもしれない。戦争の理由を残して彼女に戦争を望むだろう。そして戦争であるならば彼女は確実にそれを受け、負の連鎖が続くことになる。

 終わることのない戦争で帝国がうける被害は想像もできない。

「帝国は無期限の戦争、しかも敗戦の渦に自ら飛び込むようなものだよ」

「敗戦の渦、か」なぁ彼我「今の状況、本当に帝国は戦争に勝ったのか?」

「どうだろうね。僕にはそれを判断することはできないよ」ただ「彼女達がいなければ敗戦していたのは確実だ」

 椅子から立ち上がる。準備は地下の協力者に任せてある。そろそろ完了するころだろう。北から聞こえてくる轟音もいつの間にか遠くになっている。この分だとつくころには勝敗は決していることだろう。

 地下から地響きのような音が響いてきた。つまり作業が完了したことを表している。

 立ち上がり店を出た。目の前にある土地が少し陥没し、開かれる。下から競りあがってくるものは大きな荷台を持つトレーラー、横にはデカデカと描かれた帝国国旗。

「彼我、一つ聞いていいか?」

「なんですか?」

「お前はどうして零番に固執するんだ?」

「どうしてですかね」強いていうなら「――親心、ですかね?」

「そんなものがお前にあってたまるか」男はやれやれと首を振り「お前らしい答えだがな」

 もう行け、とでもいう風に男が手をふる。手を振り返してからその車に向かう。

 長いこと使われてきたのか、車の所々に傷があるが、それでも未だ現役で走り続けているのだろう、そのタイヤには固まった泥などはついておらず、払えば落ちるような砂だけがついていた。

 親心か、先ほどいったことについて考えてみる。決して的外れなことを言ったとは思わない。だが言いえて妙でもある。

「親が子を喜んで死地へと向かわせるのかな?」もっといえば「殺させるものなのかな?」

 車へと乗り込み鍵を回す。エンジンが起動し、全機能が活動を開始した。

 まずは北へ向かう。零番を拾った後は南へ向かい、そこにいる四番を抑える。それで計画は元通りだ。

 アクセルを全開まで踏み込み発車。次第に早くなっていく車は彼女達のいる北へ進み始めた。

タイトルについてはとりあえず保留ということで。

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