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戦争003

 君はあそこで凍結状態を維持。以降、僕の命令がない限り絶対に目覚めることは許さない。たとえ、どんなことがあろうとだ。

 人間がそう言っている。

 すまない。僕には君を壊すことができなかった。

 辛そうな瞳が私の目の前にあった。

 目を開ける。凍結しておいた記憶の一部、ノイズがない部分を繋ぎあわせただけのもの。完全ではないが、思い出すことに意味があるとそう考えた。記憶の中の人間は確かに彼我だった。だが、彼の姿はあの頃と一つも変わっていない。そんなことができるというのか、私の中にある記録ではどのような手段をもってしても不可能だ。

 思い出すのではなかったと後悔があった。これでは彼我に対して不信感を抱いてしまう。それは今後の私には不必要なことであると考えが思考の邪魔をする可能性がある。これはそういった危険のある記憶だ。

 だが――、

「彼我、あなたは一体」

 回る思考を強制的に止める。無駄なことに時間をさくことはない。

 私は服を脱ぎ捨てる。下着を含めて着衣しているものはこれから邪魔だ。

 左腕。そこには確かに先ほどの戦闘で傷ついた箇所がある。損傷はかなり酷い状況ではあるが、問題なく動かすことができる。そこはすでに修復を開始している。理屈や原理は私の知るところではないが、問題はその進行状況である。

 遅い。この機能を使うのは初めてだが、この進行は明らかに遅すぎる。何か問題があるのだろうか。今すぐこの問題に対処したいのだが、彼我は今交信不可能な状況にある。しかし、地下に入ることを私は拒否している。埒があかない。一先ずこの状況は後回しにしよう。彼我はここは安全であるといっていた。しばらくはこの状況で良いとしよう。

 ここから地下の話を聞けるか、試してみる価値がある。全機能を聴覚情報に集中、いや、振動も感じるように設定する。あとはその情報に集中、開始。

 地下の空間が私の中に入り込んでくる。広大な、蟻の巣のように張り巡らされた空間には動く物体がいくつも存在している。おそらく人間であろう。だが目的とする人間ではない、今はそれらから発生する音、そして振動を無意味としていく。何百かそれを繰り返しようやく目的とする声を発見した。ほかの情報は不必要、すべて自動記録に切り替え、意識の向く箇所をその二つへ。

「使えるか?何年も凍結させていたんだろ?」

「大丈夫だ。たとえNT000が完全な状態でなくても彼女の戦闘能力に問題はないよ」

 聞こえてくる。二人の声が。

「なんせ彼女は兵器なんだから」だから「NT005は彼女が倒す」

 なるほど、それがあれの番号か。後で記憶の中を探ってみよう。今は、二人の声だ。

「NT005か、あれはまだ戦争を終えていないのだな」

「ああ、私達がそうしてしまった」

「終わらせられるか?」いち早く「あいつの戦争を」

「終わらせるさ」なぜなら「僕にはその責任がある」

 理解できない箇所が多い。が、今必要なことではないだろう。

「『平和』の五番、あれにあそこを死守するように命令したのを後悔しているのか?」

「いや、そんなんじゃない。おかげで僕は生きているし、彼女も無事だ」ただ「優しい彼女に辛い任務を与えてしまったなと」

「それを人は後悔というのだよ」

 次の言葉は聞き取れなかった。彼我の声が割り込んできたからだ。

「やめろ!!」怒声「おそらく彼女は今僕たちの声を聞いているはず、ここでその言葉を使わないでくれ」

「そうだな」少し間が空く「お前は彼我英知だったな」

 ここからでは彼がどういう顔をしているのかわからない。だが、これは記録しておく必要があると判断した。

「それで、勝算はあるのか?」

「確定することはできない。相手がNTシリーズだからね」

「勝敗ではない、勝算だ」つまり「倒せるのか?」

「倒せる」

 簡潔な答えだ。それが私を嬉しくさせた。不覚にも表情にも出してしまいそうになる。それを必死に抑える。彼我は倒せるといった。ならば倒せる、早く彼我には帰ってきてもらいたいものだ。私は早くあれと、NT005と戦争がしたい。

「NT000」

 声が聞こえた。かなり遠い。

「君はまだ万全な状態ではない」だから「余計なことはせず休止状態に移行」

 しまった、と思ったころにはすでに遅い。声が急速に遠のいていく。体が休止状態に移行しようとしていた。機能への割り込みができない。ならばしかたない。機能の制御は構わない。だが、聴覚情報への干渉にのみしぼり、命令に逆らう。成功。休止状態に移行。抵抗は続行。

「本当に聞こえているのか?」

「大丈夫。彼女は僕の命令には逆らえないよ」でも「抵抗してるかもしれないから迂闊なことは言わないように」

「わかったよ、彼我」それで「最初に抑えるのは五番か?」

 二人の声だけが聴覚が刺激する。

「いや、彼女は後回しにする。真っ先に抑えるのは四番」つまり「NT004、『恐怖』。彼女の支配区域を解放する」

「『恐怖』の四番か。確かに、あれを抑えればこれからやりやすくなるだろう」だが「居場所はわかるのか?」

 声を荒げることもなく、淡々と会話がなされている。

「彼女に命令したのも僕」だから「どこにいるかはわかってる」

「どこだ?」

「ここから南に下った場所」そこは「不落城」

 不落城。検索する機能が使えない状態であるから、それがどういうところなのか知ることはできないが、敵の居場所がわかるならすぐに攻め入ればよいのではないか。

「南か」

 相手の人間がもらす。

 何があるというのだろう。彼我達の会話の内容から考えると何かあるのは確かだというのに、それを考えることは今の私には許されていない。思考というものをしようとした瞬間強制的に切断が行われてしまう。休止状態である今はそれをすることも許されていないということか。

 命令の撤回はまだしてくれないのか。それとも彼我は私が完全に休止状態に入っていると思っているのだろうか。私のことを完全に知っているような素振りを見せておきながら、今の私が求めていることはわからないというのか。

「とりあえず移動用の車と持って行けるのは全部持って、積み込みが終わればすぐに向かう」

「すぐにか?そんなに急ぐ必要がなくても」

「いや、4番は今すぐ抑える必要がある」

「それは何故だ?」

「南の共和国に軍備が整いつつある」しかも「おそらく戦争の目標はここ、帝国である可能性が高い」

 戦争という言葉に私の思考が再活動を始めようとしていた。理由はわからない、だがこれは好機と考えるべきか、今なら彼我の命令を下位にして自分の思考を上位に持っていくことができる。ならそれを実行する。

 全身を休止状態から再活動させる。思考がよみがえり、再び地下の細部までも頭に入ってくる。彼我がこちらを見上げながらしまったという顔をしている。相手の人間がそんな彼我にどうしたと声をかけている。

「いや、やってしまったなって思って」だからと、顔を私の方に向けたまま「すぐに準備を済ませるから、何もせずに待ってて」

「それは、嫌です」

 こちらの声は彼我には聞こえていないだろう。私の足は地下への入口から離れて、店から出る。どちらへ行こうか。北へ行けば五番との戦争、南にいけば四番との戦争。どちらも心躍る戦争が望めそうだ。それとももっと南へ行って共和国と言っていた場所へ行こうか、戦闘規模はわからないが楽しめるかもしれない。

 索敵。地下では彼我が結構な勢いで走ってこちらへ合流しようとしているが、時間にして約三十分といったところか、この時間は広げることができる。

「安心して、彼我。目的は記録しているから」だから「一人でも構わない」

 選択だ。北か南か、どちらへいけば面白い。

「南だ!南へいけ!」彼我の声が索敵中の脳に響く「先に南を抑えて、共和国に備えるぞ!」

 なるほど、おもしろい。

「決めました」私は足を「北へ」

 五番を最初の目標に決める。足枷がない今、もう少しマシな戦闘行動をとることができるはずだ。楽しい戦争になることだろう。

 力を込める。最初を最速、景色が後ろに流れていく。ここへ来るときよりも速度は出ている。この分なら後二歩であれの戦闘圏内に入る。望遠、こちらの動きを知るはずがないにも関わらず、すでにそこにあれはいた。

 ――なるほど、ずっとそこにいたのか。

 人間も他の生物も全てを撃ち殺し、この木も生えていない砂漠のど真ん中でただ一人。一体どれほどの戦闘活動を行ってきたのだろう。考えると興奮する反面、残念だ。

 あれは戦闘を知っていても、戦争を知らない。私の後継機が戦争を知らないとは悲しい限りだ。だから、私が教えてやろう、――戦争を。

「こい、NT005。戦争開始だ」

 爆音が轟いた。

あれ?エロ要素をいれる隙がない。

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