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戦争007

 四番は私室を使っていいと言って部屋を去った。彼我は気持ち悪そうに部屋に一つだけあるベッドに寝転がり、私は入った位置から一歩も動かずに直立していた。体は動かそうと思えば動ける、しかし動こうと思えなかった。

「彼我、生きていますか」

「気持ち悪いが死ぬほどじゃない」

「では彼我、質問してもいいですか」それは「四番は私の何ですか」

 問いかけというより確認の意味あいが強い。そして望む通りの答えが返ってくることになる。

「敵だ」しかし「今はあいつが必要だ」

 横になっていた体を起こし、私の方を見る。

「お前はどうしたい」まっすぐに私を見つめて「満足しているお前は何がしたい」

「知っていたのですか」なぜなら「ここは戦争しているのと同義です」

 ただ無残な殺戮だけが横行しているというものが戦争であるとは限らない。ここは明確な敵がいて戦う人間がいて諦めた人間がいて利用されるだけの人間がいる。戦争に必要なものはすべてある。それは逆説的に言えば必要なもの全てがあるここは戦争をしているということだ。

 私が出る隙も与えないほど戦争が成り立っている。むしろ私が出ていくことで戦争がなくなる。そうであるなら私はどうすればいいか理解できない。はっきり表すなら私はここに関わることを拒絶している。

「そうだな。五番もそうであったけど、お前の同型はすべて戦争する。これは宿命といってもいい」それゆえに「そこにいるだけでそこは戦場だ」

「なら私は何です」今ここで「私だけが戦場をしていない」

 もっとも戦争をしなくてはいけない私が、どうして戦争していないのか。今こうして彼我と問答をしているのも、その代償行為でしかないような気がしている。こんなもので私が満たされるとは思えないのだが。それしか今のところすることが思い浮かばない。

「彼我、命令してください」唯一の状況打破は「四番を殺せと」

「残念だがそれはできない」なぜなら「彼女がここからいなくなれば、共和国が攻めてきても対処できない」

「私がいるではありませんか」

「確かにお前がいれば共和国など楽に打ちのめすことができるだろう」しかし良いのか「お前はここに囚われることになる。そうなれば他のNTシリーズと戦争ができなくなるぞ?」

 それは困る。共和国が私にとって楽に打倒できるものであるなら面白くないものだろう。だが先の五番との戦争から考えると他のNTシリーズと戦うことは面白いものになる、それは確実なことだろう。それができないのは耐え難い。

「では私はどうすればいいのですか」わかりません「何も思いつきません」

「お前達は自ら考えて行動できる」ゆえに「何をするか考えてみるといい。考えても思いつかなければまた俺に聞きにくればいい。その時は俺も教えよう」

 もう少し休むと言って彼我は寝なおした。私はそのまま彼我を見続けた。

 どうしたものかと、私は思考し思索し続ける。一向に思い浮かべることができない。

 ビリッと全身の神経が暴れる。四番の攻撃ではない、これは自分の警戒からくる防衛反応であるということがわかる。だがその理由が思い浮かばない。ためしに全域において策敵を開始する。

「おほほほ無駄なことはよしなさいなあれの電波は適当に放たれる分距離がでるのでございますわおほほほほまだあなたの策敵範囲には入らないと思いますわ」

「何があるのですか?」

「二番が近づいておりますわおほほほほあの裸幼女は相変わらず適当に振りまくものですわ」

 私以上に電波を飛ばすモノがあるということが面白い。これが全て私に向けられた時にどれだけ興奮するのだろうか。

「私が出ましょうか?」なぜなら「あなたでは身にあまるでしょう?」

「それには及びませんわおほほ」高らかな笑い声を挟み「二番はここには近づきませんわおほほほここは彼女が入れない数少ない場所でありますものおほほほほ」

「あなたの攻撃があるからですか?」

「おほほほほ単純に私彼女に嫌われているのですよ」それに「もし私の攻撃を食らっても二番は止まりませんわ」

「それはどういうことでしょうか?」何故なら「あなたの攻撃は避けられないでしょう?」

「避けること事態は不可能ですわおほほほほあなたでもできたでしょう」それとは別に「二番は何をしても無駄になるのですわおほほまったく厄介なことに」

「無駄?」

「どんなに神経を弄っても行動を書き換えても受け入れてしまうのですわおほほほほまったく面白くないですがただ寝る行為ですら殺しにきますわ」四番は部屋の椅子に座る「でも不快感はあるみたいでそれが二番には耐えられないみたいで近づかないのですわおほほ」

 なるほど。そういうものなのか。私は直立不動で考える。どんなに行動を歪められようとも自分の行動をするにはどうすればよいか。それが分かれば今のこの状況をどうすればよいかを知る方法となる。それは私にとっても有益なものであることは明らかだ。

 四番は相変わらず椅子に座ったままだ。油断しているのか、それともこれが待機状態というものなのか分からないが、何を考えているか分からないのが恐怖を煽る。

 だがこの状況を打破する方法を本当は理解している。だが今はそれをすることはできない。こちらもできないというよりする理由がないのだ、私だけではどうすることもできない。彼我からの命令があればそれを実行することができるのだが。

「今のあなたは城壁に貼り付けた鉄屑と同じですわねおほほなんと無様なんでしょう」

「確かに。今の私はそのようなものです」しかし「敵に塩でも送っているのですか?」

「おほほほそうでありますわね塩を送っておりますわおほほほいつか来る日のためにです」知らないでしょうが「私達はNTシリーズは全員望んでおりますのおほほほ壊されることを」

 それは初耳だ。理解できない。

 体一つで戦争できる体を破壊されたいなど、どうしても理解できない。

「私達はもう既に兵器としての役目を終えているのですわおほほほ今あるのはそれが自らでは破壊できないからでありますわ」脚を組む「役目を果たし終えてまで生きながらえている現状不本意ですが楽しんでいるだけに過ぎませんわおほほほほ」

 ただの道楽でさえ戦争と同義であるという存在。それは存在を否定されてしかるべきであるのだが、いかんせん私の同型は強すぎた。誰も破壊できぬほど。唯一対抗できる姉妹機は同士討ちできないという縛りがある。ゆえに誰一人壊されず、壊れることも許されず、機動し続けているのだ。

 なら私がすべきことはなんだろう。私に何ができるというのだろうか。結論はでない。だがすべきことは聞いた瞬間に決まっていた。

「私には理解できないことですが、一つ決定したことがあります」聞いてください「私が全てを壊す。四番のことも私が壊します」

「おほほほほ」脚を解いて立ち上がると胸を揺らして歩く「楽しみにしておりますわ」

 四番とすれ違うとき、彼女は笑っていた。人を恐怖させる笑みではない、本当に心からの笑みであるようだった。自分の終わりが見えたからだろうか。

「彼我。一つ宣言します」

 おそらく聞いているであろう彼我に向けて声をかける。顔だけ起き上がらせてこちらを見てきた目をまっすぐに見返す。

「今から戦争を始めます」それで「よろしいですか?」

「相手は誰だ」それが「四番や共和国というのなら止めるぞ」

「いえ、四番や共和国ではありません」相手は「二番です」

「負けるだけだ」

「構いません。もとより戦争とは勝者はいません」ゆえに「敗戦であろうと私には十分です」

 私にとって戦争とはそういうものだと思っている。

 こちらを見ていた彼我は顔を下ろして言った。

「条件は二つだ」二本指をこちらにだし「生還すること。それと俺にソレをしろと言わせないこと。後は好きにすればいい」

「承知しました。私はもう行きます」何故なら「私の索敵に二番がかかりました」

 手を広げて行って来いと合図される。これで決まった。次の行動は二番との戦争だ。

 窓まで歩き淵に足をかけ、外へ身を乗り出す。二番の位置は特定済みだ。どれくらいの距離なのかもわかる。どれくらいの力加減で飛べばいいのか、初めてのことなので分からないが近くまでいければいい。

 足に力をためて跳躍。目指すはこちらへ向かってくる二番のところ。

 戦争を始めるために。

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