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戦争001

 いつか夢見た場所にいつかいけたらいいのにな。

 ノイズの奔る記憶の奥底で声が響き続けている。それが誰の声なのかわからない、思い出せないということはきっと大切なことではないのだろう。そう結論付けてノイズの奔る記憶の奥を凍結し、深奥の部分に凍結した記憶を保存しておく。

 全起動機能を作動、全身のメディカルおよびフィジカルの調整を開始する。異常個所はその都度修正し、軌道に向けての準備を着々と進めていく。

 全機能正常、――起動。

 体を起こす。内面の問題に異常はない。目視での表面の異常を精査する。衣類は身につけていない。顔を下ろすと真っ白な二つの山がある。柔らかいそれを両手で掴み手の感触が正常であるということを確認し、指の先までそこにめり込ませながらその二つの山を分けて腹を見る。傷一つない綺麗な腹だ。山から手を離してそこをなぞる、感覚に異常はない。

「ふむ」体に目を落としていた顔を上げる「まずは状況の確認ですね」

 周りを見る限りここはどこかの一室のようだ。煉瓦で造られた壁以外はこの部屋が立方体ということ、自分の今横になっていた円柱状のベッドのようなモノの他にものがないということくらいだ。

 とりあえず起き上がることにしよう、ここはどうにも居心地が悪い。

 筒から抜けて降りると足の裏から床の冷たさが伝わってきた。足裏の温度感覚を一時的に無視するようにしてしっかりと立つ。出口のようなものはないし、入口のようなものもない。どこから入ってきてこのような状況になっているのか理解できないが、とりあえずこの空間から出ること目標にする。

 壁を確認してみるがそこに隠し扉のようなものはない。五感すべての情報を精査してみても出口になりそうなものは見つかりそうにない。いきなりの手詰まりだった。

 つまり、何らかの理由により、ここは私という個人を閉じ込めておく場所であるということが分かった。一瞬ここから出ることにためらいというものを感じたが、それもまた凍結し保存しておく。

 状況の確認が完了し、短期的な目標を思考する。いくつか考え付いたものの中から、最終目的であるこの空間からの脱出にもっとも役立つであろう事柄を選択し、まず必要なことはここで何ができるのかを確認することであると結論づけた。

 まずここにあるものをとる。そう、自らが眠りについていた大きな筒型のベッドの端を掴む。そして力を入れて一気に、――持ち上げた。胸が呼応して上下にゆれる。持ち上がった。瞬間的に現状の確認する。私がこの行動にどれだけの力を必要としているのか、そしていつまで持つのかを計測する。結果はすぐにでる。把持し続け持ち上げ続ける時間は無制限だ。

 ゴトリと重たい音を立ててソレをおろす。おろした瞬間ソレはその見た目の頑強さと裏腹に脆く砕け散った。壊れたことに対して疑問はない。自身の力は把握することができた。次に行うことは決まった。壁に移動する。

「音響の反射からして、ここ」

 壁の一部に反響がおかしなところがあるということは検知していた。この壁はその唯一のおかしな部分である。

 私は脇を締め拳を引く。

 ドゴッと破砕の音が響く。壁が破壊された音だ。部屋の向こうは通路になっていた。出てみると、そこはさながら戦場の跡のように砕けた残骸が散らばっていた。壁には一方向に穴が無数にある、床に散らばる残骸はその砕けた壁の破片と考えられる。

 思考は終わった。歩くと足裏から違和感が感じ取れる。これは温度によるものではない、これは圧力によるものだ。そうか、破片か。圧覚と痛覚の情報を遮断、足が使えなくなる前までの活動強制を足に送る。

 もう一度確認する。ここは通路、どうやら一番奥の部屋のようで、一方にしか進むことができない。その先に足を進めようとしたところで、私は歩きだした足を止めた。その通路の先にいるのは、照合がとれない。最も近いものは人間であるのだが、あれを人間と呼べる存在であるはずなのにそうと認識することができない。

 ただ、不思議な違和感だ。

「やっと出てきてくれた。待ってたよ、NT000。君で最後だ」

「話が見えません。もっと正確に情報を要求します」

「そうか、君は保存期間が長かったから記憶が混乱しいるみたいだね。といっても、ここで保存しておくように命じたのは僕だし、君が必要になったから保存期間の終了を命令したのだけどね」

「私が必要になった?どういうことでしょうか」

 目的が見えない。歩いて近づく。人間はそれを見るとついてこいと手まねきするように踵を返し、反対方向に歩き出す。

「まずは服を着ようか、君の姿は刺激的すぎる」

「私は気にしません。説明を最優先とします」

「僕が、気にするのだ。着衣を最優先におくんだ」

「わかりました」

 命令に従う。そのことに対する違和感はなかった。

 連れてこられたのは廊下の先にある大きなエントランス、そこから光が差してこない一室。中に入るとそこは狭い空間に服が所狭しと並べられていた。その中にはもちろん下着類も含まれる。私はその中でも一番表面積の薄い下着を選び、それをはく。そして出た。人間がいた。

「だと思った」人間が伸ばした腕が私の頭に触れる「記憶から普段の君の姿を再現しろ」

 頭を持つ手が私を引き返させる。再び服だらけの部屋に向き合う。

 記憶の中にある私自身の姿、その言葉は私には意味はない。なんせ記憶にないのだから、私がどんな姿をしていたのか、そんなこと読み取ることはできない。しばらく熟考したのち、一番自分に合うような服を選択する。上はぶかぶかの白いTシャツ、下はデニムのショートパンツ、それだけを着て再びでる。人間は満足したように頷くと、ついてこいと言ってまた違う部屋へ行く。私はそれについて歩く。

 ついた部屋は質素なものだ。白い立法形、その中心に椅子と机がおいてあるだけだ。人間は一方に座り、机を挟んで対面の席を私に勧める。私が拒絶の意思として首を横に振ると、やれやれと首を振るだけで座ることを強制はしなかった。

「さて、何から話したものか」人間は顔を上げて考えた後、私に顔を向ける「何かから聞きたい?」

「では、状況を」簡潔に「私を起こした理由から」

「君は君と同じ存在を覚えているか?」いや違うな「君と同型の存在の生産計画があったことを覚えているか?」

 私と同型、その言葉に懐かしいような感情を芽生えさせた。だが、それは今はどうでもいい。重要なのはその計画を知らないということ。そして、それがどういう意味のある話かを理解できないということ。

「覚えていません」ゆえに「最初からの説明を求めます」

「君は人類が考案した次世代型行動学習兵器NTシリーズのプロトタイプ」ようするに「君は兵器だ」

「理解しました」次に「私を起こした理由を」

「もう一つ大切なことを教えた後にね」それは「君の同型は合計で9。今はすべて稼動している」

「それがいかがしたのですか?」

「君の仲間が暴走している」そして「戦争をしている」

 私はその言葉に無意識にときめいてしまっていた。戦争という言葉は私にそれほどまでに意味を持っていた。だがそれを表情にだすことはない。

「理解しました」それで「本題を」

「彼女達を止めてほしい。他ならぬ彼女達と同型の君にしかできないことだ」

「それは可能ですか?」

 私の問いに人間は、あーっと残念そうにうめく。そして、言おうか言うまいかという感じの悩んだような顔をして、それから決めたように言う。

「僕から言えるのは一つだけ」それは「わからない」

 言葉の意味を考え、そして驚く。今さっき出会ってからではあるが、この人間はどこか自信に満ち溢れているような気がしていたのだが、その人間が自分から結果をわからないと言った。この私を、記憶がないのだけれど、起こしておきながら勝敗に検討がつかないと言った。それを何故か許せないと思った。

 感情の制御が許容範囲を超える、その一歩手前までいった。もちろん目の前にいる人間には私の内情を理解することはできないだろう。私は微動もせず直立し、表情に一切の変化はない。

「わからないとは」

「彼女達は同士討ちできない。そう設計してある」ゆえに「彼女達がぶつかりあったときのデータがない。判断材料がない以上勝敗を確定することは難しい」

「同士討ちできない?」では「私であっても適用されるのでは?」

「君は危険すぎた。ゆえに後継機にはそのように設定した」そして「君は後継機ができる前に凍結させたから、その縛りはない」

「なるほど」

「そして、彼女達にも君に対する同士討ち禁止の縛りはない」わかるか「君は彼女達の攻撃を受ける危険がある」

 人間の目は真剣だ。まっすぐにこちらを見つめている。それがどういう意味をもつのか理解できないが、それでも返す言葉は決まっていた。

「覚悟しています。私が兵器であるのであれば、断る理由がありません」であるならば「存分にお使いください」

 人間は頷き一つで答え、こちらに手を差し出した。

「こい!NT000、お前の力が必要だ」

「はい」ところで「名前を教えていただけませんか?なんと呼べばいいのかわかりません」

 立ち上がった人間は差し出した手を私に向けたまま、エントランスへでる。

「彼我英知、呼び方は彼我でいい」

 懐かしい響きに一瞬何かを思い出すような気がしたが、それもまた凍結し保存する。

 腕を伸ばして、人間の腕をとる。

「彼我、連れて行ってください」私を「戦争へ」

 引っ張られながら、エントランスを抜ける。唯一光が差し込む部屋にむかう。近づくにつれてその向こう側が鮮明に見えてくる。そこは螺旋状の階段があった。光はその上から差し込まれていた。

 楽しそうだ。これからのことを考えると、それだけで心が躍るようだ。これから行く場所が私の生きる世界だ。待ちに待った戦争だ。

 そう考えて、首をかしげる。待ちに待ったというのはわからない。きっとこれからそう思うようになると思うと、なんとなくだが思っていた。

エロスが少なめで物足りぬ。

18禁ではいけない。

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