第九話 友達は一人を目標にしよう
「ジック……貴方ももう五歳になるのね。全くはやいものだわ」
「そうだね……母さんが先生を俺につけてから四年も経ってるし」
「ふふ、その先生はどうだった? やっぱり優しかったでしょう?」
「今さら、当たり前のことを聞かないでくれよ。わかってるだろ?」
「えぇ。ジック、私は貴方がどれだけこの四年間で成長したのかもわかっているつもりよ」
「そんなには成長してないよ。俺はまだまだだ」
「そうかしら? 私が見るからにはもう一流の魔法使いを名乗ってもいいと思うわ」
「まだ……炎は使えないし」
「でもそれ以外は全部A級じゃない。すごいことよ」
「本当に……すごいのかな?」
「ん? どういう意味かしら」
「わからないんだよ。俺にとっての世界は……まだこの家と家の庭、近くの草むらくらいだし」
「そういうこと……か。なら安心しなさい。後二ヶ月で五神祭が始まるわ」
「五神祭……?」
「五神祭というのは、この世界には五人の神さまがいるから、五は演技のいい数字であるとして、五歳の子たちがあつまるお祭りよ。私たちの住んでる村と、隣村、あとは少し離れた町の子の中で五歳の子は全て集まるから貴方のすごさが貴方自身、実感できるとおもうわ」
「母さんは……行けそうにないね」
「えぇ。さすがに無理そうだわ」
母さんは妊娠している。
なんと、あと二ヶ月で子供が産まれるのだ。
「ごめんね。ジック。お父さんも私についててもらうから、先生と一緒に行ってちょうだい」
「いいよ……気にしないで」
俺は、ただの五歳児ではないのだから……。
「先生、後一ヶ月で五神祭ですね」
「そうだねジック。君を教えて四年になるがはやいものだよ」
「俺、先生のおかげで強くなれました。とても感謝しています。でも……五神祭が終わって一年経ったら行ってしまうんですよね?」
「うん……そうだね」
「俺! 俺は……先生に行ってもらいたくない! ずっと魔法を教えて欲しい。ずっと優しく話しかけて欲しい。ずっと……一緒にいたいんだ」
俺がそう言うと先生は少し微笑んだ。
そして、俺の肩を優しく掴んだ。
「ジック……君は僕を全てと思ってるかもしれない。でも違うよ。世界には、僕以外にも色んな人がいる。強い人、怖い人、面白い人、優しい人、ジックには少しはやいかもしれないけど可愛い子もいるよ」
そんなの信じられない。
俺は人が嫌いだ。俺は俺を嫌い、避け、傷つける人が嫌いだ。
俺には先生が全てだ。初めて、前の世界も含めて初めて家族以外で優しくしてくれた人。
家族よりも優しくしてくれた人。
それが先生だ。
俺は先生がいなくなるのが怖い。
俺を認めてくれる人が、俺に優しくしてくれる人が、いなくなるのが怖いんだ。
「僕がいなくなっても、君を受け止めてくれる人はいるさ。君は頑張ってるじゃないか! 魔法も剣も頑張ってるじゃないか! 頑張ってるなら誰かがそれを見てくれる。誰かがそれを認めてくれる」
そんなに……頑張ってない。
俺は、先生や父さんに教えてもらってるからやってるだけで、まだ本気になれないんだ。
世界を本気で生きようと思えない。
本気で生きて、頑張るのが怖い。
頑張りが、無駄になるのが怖い。
外に行って、自分か愚かで無価値で無意味な人間だと知らされるのが怖いんだ!
「ジックは賢いからつい考えすぎてしまうのかもしれないけど、世界はそんなに酷いもんじゃないんだよ? 確かに悪い人はいる。悪意で傷つけてくる人もいる。けどね。けどジック。君はそんな時誰も助けてくれないと思ってるのか?」
あ、そうだ。
前の世界でもそうだったじゃないか。
前の世界の先生も、前の世界の母さんも、最初は……優しく、慰めてくれたじゃないか。助けようとしてくれたじゃないか。俺がいつまでとうじうじとしてるからああなっただけで…………俺にも! 優しくしてくれる人はいたんじゃないか!
助けてくれる人もいたじゃないか!
「先生……俺は」
俺は……もう一度、人としてやり直そう。
そうだ。友達でも作ろうじゃないか! ちょうど五神祭なんだ。同い年の男の子と女の子。二人だ! 二人を目標にしよう!
「その表情……わかったようだねジック」
「はい!」
「そう。つまり先生が言いたかったのは、ジックも五歳だしガールフレンドの一人でも作ればどうかな? ってことなんだよ」
「へ?」
え? そんなことなの? 俺なんか凄い励まされたんだけど……。
ガールフレンド? そんな話してたの? 俺が改めて人に向き合ってみようと思わせる為の会話じゃなかったの?
……友達は一人を目標にしよう。
先生の話に落胆した俺は、友達を作るという目標は変えないものの、難易度を少し下げることにして、先生がガールフレンドについてなにかしらを語っているが、それは無視し、部屋に帰って寝ることにした。