第五話 初めての魔法授業
「なぁ、ジック……お前今……」
父さんはダラダラと汗をかきつつ俺を指指した。
「ジック……喋ったわよね?」
母さんは笑顔でこちらを見ている。
なんかその笑顔怖いよ。母さん。
「は、はい。喋りました…………」
俺はそう言った。
ここまで見られては仕方あるまい。
もう正直に言うしかないだろう。
「よっしゃああ! やっぱり俺の息子は天才だったんだあ! 絶対、将来は剣十士だ!」
「やったわ! やっぱりわたしの息子は天才だったんだわ! 絶対、将来は魔帝よ!」
二人はそう言ってわいわいと騒ぎ出した。
もう夜だぞ、静かにしろ。
あれ? 聞いたことない単語があったな……?
魔帝? なんだそれ?
「あ、あの……母さん。魔帝って何ですか?」
俺がそう聞くと、二人はピタリと動きを止め、母さんは笑顔でこっちに近づいてきた。
「魔帝というのは魔術帝の略でS級の魔術師をそう呼ぶのよ」
「へ、へぇ。そうなんですか」
「ジックはどんな魔帝になるのか楽しみだわ」
「どんな……とは?」
「あぁ、あのね。ジック。魔帝でも種類があるのよ。炎、水、草、雷、土、闇、光という感じに。どれか一つでもS級ならば魔帝になれるから、例えば炎がS級ならば炎魔帝、水がS級ならば水魔帝と呼ばれるのよ」
「炎と水、両方がS級ならどうなるんですか?」
「そんなの滅多にいないけれど、多分炎水魔帝とかじゃないのかしら?」
「雑ですね」
「雑なのよ」
ははっ、と二人で笑った。
「な、なぁ? ジック……お前、剣には興味ないのか?」
すると、父さんは不安気に俺を見てそう言った。
「え? 俺は剣のほうが好きですよ」
あの本を見たからね。
「ふっ、残念だったな。母さんよ。ジックは剣のほうが好きらしいぞ」
父さんは自慢気に母さんにそう言った。
「べ、別にいいわよ……。気にしてないから」
母さんはそれに対して拗ねたかのようにそう言い「話の続きは明日にしましょう。もう夜も遅いのだから」と言って、先に部屋に帰っていった。
「あちゃあ、母さん怒らせちゃったなぁ……仕方ない。明日になれば忘れてるさ。俺たちも寝るぞ、ジック」
「は、はい。父さん」
「あ、ジック……聞きたいんだけど」
「ん? 何ですか父さん」
「敬語と本の読み方なんて誰に教えてもらったんだ?」
「えーっと…………寝ましょうか」
俺はそう言い、急いで部屋に戻った。
言い訳を考えねば……。
今日は寝れない日のようだ。
「おはよう、ジック。夢じゃなければ……話せるのよね?」
朝、目覚めると母さんはそう言った。
「は、はい。話せます」
「ジック、貴方はなんで敬語を使うのかしら?」
「えーっとですね」
そりゃあ年上には敬語使うだろ……。
二人共、他人にしか思えないし……。
「いや、理由はどうでもいいわ。とにかく明日からは敬語は無しで」
「は、はい」
「はいじゃないでしょ?」
「うん」
はぁ…………。めんどくせぇ。
「食事の時間よ。ジック」
「わ、わかったよ。母さん」
数分後、食事を済ました俺は、父さんに質問を受けていた。
「なぁ、ジック。お前はどの流派の剣を学びたいんだ?」
「どの流派と言われても……」
「あぁ。ジックはまだ一歳だもんな。知らなくて当然か」
当たり前だろ。俺は心の中でそう言った。
「この世界にある全ての流派の種類は大きく十種に分かれるんだが、それはあの本を読んでいるから分かるよな?」
うむ。剣十士は全員、別々の流派を使っていたはずだ。細かくは明記されていなかったけれど……。
「じゃあ一つずつ言うと……って十種を一気に言っても分からないか」
「うん。だから父さんの流派を教えてよ」
「俺は十流派全てを使えるけど、全体的に弱いんだよ」
え? 器用貧乏ってことか?
「あ、でも、強いて言うなれば一つだけなら得意なのがあるが……」
「ん? じゃあそれ! それを教えてよ!」
「あ、あぁ。じゃあ明日から特訓だな!」
「うん!」
やったね! これで剣が使えるよ!
あ、でも明日からぁ? 一歳の息子にそんなことさせんなよぉ……。
あぁ、めんどくせぇ……。
俺は外に出るの嫌いなんだよぉ!
「ねぇ。お父さん……いえ、クニン。一歳の息子に剣はまだ早すぎるのではないかしら? まだジックは歩けるようになったところなのよ?」
すると母さんはそう言った。
よっしゃ! いけいけ母さん!
「た、確かになぁ……まだ一歳だもんなぁ」
父さんも納得したのか「うーん……」とか言いつつもクルクルと俺のまわりを歩き、
「よし、ジック。剣は二年後だ」
と言った。
「うん! わかったよ父さん」
やったぜ!
「じゃあそれまでは魔法ね。母さんはA級の炎魔法を使えるのよ。だから炎を教えてあげる」
「うん!」
やっぱり魔法だな。
「母さんは凄いんだぞ。父さんは魔法なんてからっきし出来なかったんだが今ではC級の炎魔法を使えるんだ!」
父さんはまるで自分のことのように胸をはりそう言った。
「へぇ、俺も頑張ってみるよ」
「じゃあ一時間後に練習ね。ジック」
「うん!」
一時間後とか早いよ……。
「まずはジック。魔法についての基本を教えるわ」
きっちり一時間後。俺は母さんに魔法を教えてもらうことになった。
「うん」
「うんじゃなくてはいよ。ジック」
「え? でも敬語は……」
「今は魔法の先生です。目上の人には?」
「敬語です」
「よろしい。じゃあ基本について教えるわ」
「はい!」
「貴方の魔力がどれほどかは知らないけれど、まぁ初級魔法くらいなら使えると思うから、まずは基本の火玉を使ってみましょうか」
「あの、母さん。魔力とはなんでしょうか?」
「ああ。魔力というのは魔法の力という意味で、生まれつき人の魔力というものは決まっているのよ」
「決まっているんですか」
「えぇ。つまり才能の世界よ」
「才能」
才能……か。俺にあるのかな?
あ、でもあれだけ凄い、家を凍らしてしまうほどの魔法を使えたんだし、あるかもしれないな!
「一説によれば最初に使った魔法に魔力は左右されると聞くけれど、多分嘘だと思うし、とりあえずは火玉だけ使っていきましょう」
「はい!」
「じゃあ使い方を教えるわ。詠唱を使えばすぐに出来るんだけど、いつか誰かと戦う時、そんなもの唱えていたらその間に倒されちゃうだろうし、詠唱無しということで教えていくけどいいかしら?」
「あの……詠唱無し、つまり無詠唱で魔法を使うのがこの世界では普通なのですか?」
「そうでもないわ。使えるのはごく一部よ。今いる魔帝八人の中でも無詠唱はたったの一人だもの」
「え? そんな凄い技術なのに母さんは使えるのですか?」
「えぇ。その魔帝の一人が私の父だから、教えてもらったのよ」
「へぇ」
それは凄いな。俺は才能のある遺伝子を持っているということになる。
「じゃあそろそろ始めましょうか。まず手に意識を集中させて」
手に意識をか……。
「次にそれを人差し指にさらに集中させるのよ」
手の意識を全て人差し指に…………。
「そして血液の熱量をより熱くするようなイメージで人差し指に力を込めるの」
血液を……。
熱く!
「そして気合を込めて人差し指を魔法を放つ方向に向けながら『火玉!』と言うのよ!」
「火玉!」
出たか……?
「ジック。出てないわよ。やり直しね」
「へ?」
火玉は出なかった。
あれー? 俺って才能ないのかなぁ?
もしかして家を凍らしたのも俺じゃなくて本当に氷竜ってことか?
「いえ、やはりやり直しではなく他の魔法を試してみましょうか。私は炎は得意だけれど、水や草の魔法もC級ではあるのよ」
「土や雷、光や闇は使えないのですか?」
「炎、水、草は基本魔法と言ってもっとも使いやすいのよ。土や雷は炎、水、草のどれかがB級以上でなくては基本的には使えないわ。光や闇なんて使えるのは光魔帝や闇魔帝くらいだし、ジックはまだ初心者なのだから炎、水、草でいいのよ」
「そうですか」
「あ、もうこんな時間。ジック、貴方は天才とはいえ赤子なのだからそろそろ寝るべきよ。寝かしつけてあげるから早く家に入りましょう」
「はい!」
「もう今日は先生終わりよ。敬語はやめなさい」
「うん!」
使い分けとかめんどくせえことさせんなよ。