第三話 異世界だし魔法を使いたい
母の名は、センチ・マキ・イファリイ。
父の名は、クニン・イファリイ。
女神と、ムキムキである。
どうやら彼らはこの世界での、俺の父と母のようだった。
因みに、俺の名前はジック・ウォルド・イファリイ。
異世界でも男として生まれた普通の赤子。
だが、父と母に俺は、普通の赤子とは思われていないようだった。
天才。そのニ文字で表すことの出来る赤子だと、父と母は思ったのだ。
それもそのはず、俺は言葉を発したのだ。
生まれたての赤子にはありえないことであり、それはまぁ天才と思われても仕方がない。
そういえば今思ったのだが、何故俺は彼らの会話を聞き取れたのだろうか?
あの、俺を天才だ天才だとワイワイ騒ぐ彼らの声が……。
ま、その辺はご都合主義なのだろう。訳のわからない内に転生していたのだから、訳のわからない内に言語を理解できていてもおかしくはあるまい。
そんなことはどうでもいいとして、この世界に、異世界に転生して、一週間が経った。
その間、迂闊に話すと天才だ天才だともう本気で騒ぎ出すため、俺は一切と言っていいほど、言葉を発しなかった。
すると、五日目あたりに勘違いと思ったのだろう。彼らは俺を天才天才と騒ぎ立てるのはやめたのだ。
だが今日、安心して少し。
「あー、ちゅきゃれとぅあ」
と言ったところを父に見られ、結局俺は天才だと思われた。
因みに、あー、疲れた。と言おうとしたのだがやはり赤子、まだ満足に話せない。
早く大人になりたいもんだよ。
そういえば一週間でこの世界の情報を、父と母の会話から見つけだそうとしたのだが、天才天才だとしか俺の前では言わないので、全く情報は得られなかった。
だからといって、隠れて会話は聞けない。
俺はまだ歩けないのだ。
いくら前世で歩いていた時の記憶やら経験やらがあるといってもまだ骨が発達してないのである。
こんなこともあったせいで、本当に心の底から早く大人になりたいなー。と高校生の心を持ち、赤子の体を持った俺は思ったのだった。
まぁ、そんなことがあってから一ヶ月が過ぎた。生まれて一ヶ月。うん、まだまだ赤子だ。
最近、本気で話さないようにしていると、彼らは本当に天才と言わなくなった。
でも、もしかすると、まだ天才だと思われているかもしれないので少し気をつけるべきであろう。
そんなことはさておき、この世界について分かったことがある。
簡単に言うならば、この世界は普通に剣と魔法のファンタジーな世界だった。
ということで、やはり使いたいのは魔法である。
剣なら別に元の世界でも剣道習ってればある程度満足出来るだろうし、俺はネトゲでも魔法使いとして活躍していたからだ。
さて、魔法を早速出したいけれど、どうやって出すか全く分からない……。
という訳でもない。俺には前世の知識がある。
詠唱だ。
魔術は詠唱で出てくるのだ。
時には無詠唱を使うチートな主人公もいるけれど、恐らく転生したからといっても、俺が主人公とは思えない。つまり無詠唱なんて使えないだろう。(と言いつつも少し俺もチート魔法とか無詠唱とかに憧れている)
そしてまあその詠唱だが、俺は一つ詠唱を知っていた。
これは、父がモンスターを、イノシシのようなモンスターを、倒して夜ご飯にしようとした日だった。
母に抱えられた俺はそれを見ていたのだが、父は魔法を使ったのだ。
「廻る血液よ、その熱量を高め、より高め、我が右手に炎を伝えよ」
詠唱だ。
と俺は思った。
「炎回!」
ダサすぎる。
とも俺は思った。けれど、イノシシのようなモンスターはすぐに焼け、もう今すぐにでも食べれるくらいだった。
思わず涎を垂らしたくらいである。
まだ歯がないから食べられないけれども……。
まぁこんなことがあったから、俺は詠唱を知っているのだ。
でもなぁ……。
火って怖いんだよなぁ……。
タバコを手とか顔とかにジューっとやられたのを覚えている。
はぁ、体が震えてくるぜ……。
「アイスゾーン!」
適当に技名を叫んでみた。
火が怖いから氷という訳である。
あれ? でも火の反対って水じゃないのか?
…………。
まぁそんなことは気にしない。
とにかく、アイスゾーン! と叫んだけれど、何も起きなかったし、今日は諦めて寝るとしよう。俺は元々引きこもり直前だったのだ。異世界に転生したからといって赤子の頃からやる気も出るまい。
ある程度成長したらまた魔法は学べばいいさ、魔法塾とか魔法学校とかあるだろ。多分。
あと剣もいいかもしれない。聖剣とか魔剣とか使いたい。そんなのがあるのかは知らないけれど……。
さーて、予定を決めたところで寝るとしよう。明日も起きてまた寝よう。
もう眠たくて仕方がない。魔法を試そうと親が寝てる時間を選んだのは少し間違いだったかな? 赤子の時から夜更かしなんて健康に悪いだろうし。
俺はそんな風に思った後、布団にのそのそと入ろうとした。
すると、家が全て凍った。