第ニ話 妄想してたら転生
今の俺の状況を、簡単に、とても簡単に説明するならば……。
明日から異世界に行くことになった。
「まぁ、こんなのただのイタズラだろう……」
それにしても馬鹿なイタズラだ。確かに異世界には行きたいけれど、こんなものに騙されるほどに俺も若くない。
一応は高校生の端くれである。
引きこもり直前だが…………。
まぁでも……光ったよな? これ。
もしかして本当なのか……? いや、そんな訳…………。
うーん、まぁとりあえず持って上がるか。
考えをまとめた俺は、部屋に行くことにした。
「貴方は明日から異世界に転生します。準備はお早めに……か」
紙に書いてあった言葉を口に出し、考える。
あぁ……なんでこんなことに真剣になってるんだろうか俺は……。
こんなの嘘に決まってるだろうに……。あ、でももし異世界に転生するならばどんな準備をするかを考えるのは楽しそうだ。
いい暇つぶしになるだろう。
うーん、異世界、異世界。
剣と魔法の世界とか憧れるよなぁ……。あ、でも剣と魔法の世界とは限らないのか。
例えば銃と兵器の世界とか? 戦争が多発していて、実は俺には銃の才能があるから転生して世界を平和にするとか? 以外とワクワクする。厨二心全開だ。
勇者に転生して、仲間を集め、モンスターを倒して、魔王を倒す。
なんて王道もいいだろう。
「本当に転生出来たら楽しいんだろうなぁ……あ!」
そんな妄想をしていると、夜になっていた。
「どれだけ夢中になってるんだ俺は……」
くっ、こんな紙だけでここまで夢中になってしまうとは俺もまだまだ厨二だと言うのか。
それともアニメや漫画の見過ぎか?
「風呂入って寝るか。明日は朝からネトゲしないといけないし……」
そんなことを一人呟き、俺は眠りについた。
気持ち悪い感覚に襲われ、俺は目を覚ました。目覚ましがなっていないし、暗いから、まだ深夜なのだろう。さて、寝るか。そんなことを思った時だった。
世界が急に明るくなった。
つい目を瞑る。そして、そーっと目を開けてみる。
視界に入るのは男。
たくましい身体に似合わぬとても優しい笑顔で俺を見ている。
続いて視界に入ったのは女。
女も男と同じように俺を笑顔で、まるで天使を見るかのような笑顔で見ている。その女はとても美しく、女神のように思えた。
えーっと……なんだこれ?
とりあえず男をムキムキ、女を女神と呼ぶとして、このムキムキと女神は一体なぜ俺を笑顔で見ているのだろうか?
というか、ここはどこだ? 俺の家ではないことは確かだが……。
木で出来た落ち着きのある家。
ログハウス……というやつだろうか?
俺は別に家に詳しいという訳ではないのでその辺はよくわからないし、どうでもいいことではあるのだが…………。
ここ、まず日本なのか?
見る限りでは、パソコンはおろかテレビも無く、電気も電球を使うのでなくロウソク。
クーラーも冷蔵庫も電子レンジも、俺の知ってる家電が一切といっていいほどに無い。
別の部屋にあるのかもしれないけれど、ムキムキと女神の着ている服も古い感じというか、日本では絶対売ってないような服だし……。
「にゃ、にゃにぐぁ、おくぉってうぃるんどぅぁ?」
何が起こっているんだ? と俺は言ったはずだが、俺の耳に入ってきたのはそんな言葉だった。ろれつが回らないのである。
自分が喋れないことを不安に思った俺は、つい女神を見た。
すると女神は目を飛び出るかのように大きく広げ、大きく開けた口を手で覆っていた。
何を驚いているんだろうかと、ムキムキの方も見ると、ムキムキも同じように……否、正確に言うならば、ムキムキは手で口を覆ってはいなかった。だが、やはり女神と同じように驚いているのは分かる。阿保のように大きく開けた口が、それをよく表していると言えるだろう。
「こ、この子。天才なんじゃないのか?」
「え、えぇ。貴方、この子は絶対に天才よ」
ムキムキがそう言い、それに対して女神がそう言った。
この子? 疑問に思い、俺は思わず自分を見る……と言っても鏡はないので手を見ると、そこには赤子のような小さな手があった。
いや、赤子の手があったのだ。
そして、俺は確信した。
俺は異世界に転生したのだと……。