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万年桜  作者: YUH
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第一章 昔の話

 K小学校にも昔は、タイムカプセルを埋める習わしがあった。

 卒業生が、学校生活の思い出の品や、未来の自分に宛てた手紙などを、金属製の容器に入れて、校庭の(すみ)に埋める。埋めた所には卒業年度と組番号を書いた立て札を立てて、目印にする。十年後の同窓会で掘り起こし、昔話を楽しむ。

 毎年六年生の全四クラスが行っていたので、校庭には掘り返された(あと)がたくさんある。

 けれどこの習わしは、昔起きた奇怪(きかい)な事件がきっかけで禁止になった。




*     *     *




 昭和××年。

 K小学校に、まだ不思議な決まりごとなど無かった頃。

 当時、校舎の中庭に、花の咲かない桜の木があった。幹はしっかりとしていて、青々とした葉を付けるが、何故か桜の花を実らせたところを、誰も見た事が無かった。その姿は味気(あじけ)なく、タイムカプセルを埋めるにはあまりにも殺風景(さっぷうけい)だった。その(ため)、咲かない桜の足元は、毎年更地(さらち)のままだった。


 ある年の卒業生の、あるクラスが、タイムカプセルを埋める場所に、咲かない桜の木の下を選んだ。

 当時(すで)に、校庭の外周は何処(どこ)を見ても穴だらけだった。そこでそのクラスは、皆と同じ場所ではつまらない、と()えて地味な、しかし誰も選ばないこの場所に決めたのだった。

 卒業式が終わった昼下がり、他のクラスが満開の桜の木の下にタイムカプセルを埋めていた頃。そのクラスだけが、物悲しい風景の中庭に集合していた。

 春の日差しが薄い雲に(さえぎ)られ、やや日陰(ひかげ)になった咲かない桜の木の根元。季節はずれのひんやりとした空気の中、ちから自慢の男子たちが硬い地面をシャベルで掘り返した。

 やがて地面が真っ黒な口を開けた。クラスメイトは準備していた頑丈(がんじょう)なお菓子の空き缶をいくつか並べ、楽しそうに物を詰めていった。在学中の写真だったり、図工の時間に作った作品だったり、、実に様々な物が、埋められていった。

 そんな時、クラスメイトの一人の女子が、(ひそ)かに手紙を一通、タイムカプセルに忍び込ませた。

 彼女は昔から体が弱く、欠席の多い子だった。色白で大人しいせいか、クラスから浮いている存在だった。彼女は、クラスのムードメーカー的存在だった女子に、密かに嫌がらせを受けていた。筆箱に昆虫を入れられたり、恐喝され金を取られたり、人目につかない所で暴行を受けたり、休み時間の教室では男子の前で全裸にされたりした。

 そんな女子が、タイムカプセルに埋めた手紙にこう書いた。


「××さんを、ころしてください」


 翌日、ムードメーカーだった××さんが、忽然(こつぜん)行方(ゆくえ)(くら)ました。


 それからというもの、咲かない桜は立派な花を咲かせるようになった。

 (むし)ろ一年中散る事なく満開で、不思議な桜として有名になった。


 ××さんは、とうとう見つからなかった。


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