第五回 始祖 黒田孝高~僕が愛した軍師様~
さて、今回からは歴代藩主の私見をざらっと述べていきたいと思います。
まずは福岡藩の始祖となる、黒田孝高。
NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」で、今一番ホットな人。福岡では、猫も杓子も官兵衛官兵衛。一般的には、官兵衛や如水と呼ばれますが、この項では孝高で統一します。
詳しい彼の来歴は、大河ドラマを見ていれば判ると思うので割愛します(笑)
豊臣秀吉の側近として竹中重治と双璧を成し、後世「両兵衛」「二兵衛」と並び称された武将。
関ヶ原では、中央のドサクサに紛れて九州で暴れた野心家でもあり、慶長五年十月の吉川広家に宛てた書状では
「関ヶ原の戦いがもう一か月も続いていれば、中国地方にも攻め込んで、華々しい戦いをするつもりであったが、家康勝利が早々と確定したため何もできなかった」
と、語っています。
大河でも、高らかに天下取りを宣言していますよね。
個人的には、野望説はどうかな? と、思っています。
だって、息子の長政が東軍の中枢にいるのですからね。勿論、主力も。後継者だって、子どもは長政しかおりませんし、養子の黒田一成も長政に付き従っている。そうした状況で、本当に野望高らかに攻め上がるものなのかな。
書状には
「関ヶ原の戦いがもう一か月も続いていれば、中国地方にも攻め込んで、華々しい戦いをするつもりであったが、家康勝利が早々と確定したため何もできなかった」
と、あるが、これが本心とは限らないし、中国地方には西軍の毛利がいます。
僕が思うに、九州関ヶ原は東軍の為に戦い、出来るだけ領土を切り取り、それを後に貰い受けようと思っていたのではないでしょうか。
或は、もっとメルヘンチックに考えれば、稀代の風雲児が考えた、最後の遊び。
「遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん、遊ぶ子供の声きけば、我が身さえこそ動がるれ(遊ぶために生まれて来たのだろうか。戯れるために生まれて来たのだろうか。遊んでいる子供の声を聴いていると、感動のために私の身体さえも動いてしまう)」
そう、孝高は晩年になり、最後の遊びをしたのです。そうした機会を前に、身体が勝手に動いたと。
ん~、メルヘンチック。でも小説を書く僕には、そう思えてなりません。
その孝高を、僕は好きです。
有岡城に幽閉されて以降、頭から下は不要になった彼は、まさにヤン・ウェンリー(笑)
身体が不自由な分、その手足となる家臣は脳筋軍団を集め、縦横に動かし勝利を手にしてきた。その経歴がかっこいい。
また、晩年のエピソードも良いですよね。
隠居屋敷に身分の低い子供達を入れて遊ばせ、お菓子を配った。時には泥足で廊下を走ったり相撲を取ったりで襖や障子を壊したが、決して怒ったり叱ったりしなかった。戦乱の謀将とは思えぬハートフル。
そのようなハートフル孝高が引き起こした、城井宇都宮氏の謀殺。
これは孝高を責めるより、城井鎮房の先見性の無さを嘆くべきでしょう。時勢を見誤り、秀吉が命じた伊予国への移封と、小倉色紙の引渡し命令を蹴ったのですから、滅ぼすしかありません。しかも城井氏という名門は家臣団に組み込むのは、限りなく不可能ですし。
この謀殺は、双方の犠牲を最小限に抑える最善の策。最大多数の最大幸福を求めるが故でしょう。そこから漏れた方々は可哀想だとは思いますが。
少なくとも、高鍋に行った秋月氏のように生き残る芽はあったのです。家宝を差し出し、国替えに応じていたら。城井一族には支配者としての事情があると思いますので、この判断について故人の判断を非難するつもりはありませんが、武士道ロマンチズムに付き合わされた末端兵士に同情してしまいます。
と、完全黒田目線で語りましたが(汗)
では、何故好きになったのか?
僕の本名が孝高の諱から頂戴したという事、我が福岡の始祖という事もありますが、一番は漫画「黒田三十六計」の影響です。
この漫画の、孝高がかなり可愛い。
頭が良いくせに、自分一人で何も出来ない。
運動や武術はまるで駄目。失敗すると落ち込んだり、人が多く死ぬと悔やんだりする。そして泣く。たった一人の妻を愛し、贖罪の様に基督にすがる。領民を愛し、平民でも自宅に招いて遊んだりする。頭と優しさ意外には、取り柄がない殿様。言わば、脳みそより下は不要の人。そして、「この人のためなら」と思わせてくれるのです。
孝高のイメージは、ほぼこの漫画で形成されたと言って過言ではありません。
そんな彼の辞世。
「おもひおく、言の葉なくて、つひにゆく、みちはまよわじ、なるにまかせて」
※思い残す事は無い。あとはなるに任せ旅立とうじゃないか(筑前筑後訳)
清々しい辞世です。最後に九州で存分に遊んで、後は死ぬだけ、という思い残す事のない心境だったのでしょう。
僕も、こう思える人生を送りたいものです。
◆ 黒田孝高 おススメ関連作品
〔漫画〕
黒田三十六計(平田弘史)
オリジナル・ギャグ・間違いもあるが、間違いなく今一番の黒田漫画。胸を張ってお勧めできます。だって孝高が可愛い。
〔小説〕
風渡る(葉室麟)
風の王国(葉室麟)
黒い孝高が暗躍します。どちらかと言うと、竹中が良い味出しているのですが、たまには野望を抱いた孝高もいい。
城井一族の殉節(高橋直樹)
タイトルの通りです(笑)黒田家が悪役。ま、それはいいのです。視点の違いですし、なんと言っても作品が力作!
群雲、関ヶ原へ(岳宏一郎)
主人公は徳川家康と石田三成。しかし、孝高もチラチラ登場し、良い味を出しています。作品的にも逸品。なお、野望説を採用しています。
〔映像〕
軍師官兵衛(大河ドラマ)
序盤は「う~ん」の連続ですが、三成が登場して以降、急激に面白くなりました。やはりエンターテイメント作品は魅力的な悪役がいなければなりません。憎たらしい三成にブーイングを浴びせながら見ています(笑)ただ、個人的には主演は堺雅人かな。リーガルハイのような感じで。