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そうしつ  作者: 和泉あかね
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そうしつ9

ゆりねこ、という名前で登録を済ませた。

ばれそうでばれない名前にしようと思って色々と登録名を考えたが、思いつかなかったのだから仕方ない。

フォロワーのいない状態で名前を検索する。同じ名前の人が43名ヒットし、くまなくプロフィールを読み、探し当てる。分からない。夫が、パソコンの画面の中から見つけ出すことができない。同姓同名のそっくりさん。

彼女を探すほうが早いのではないか。ゆっくりと彼女の名前を打ち込む。13名の同姓同名のなかから、彼女の飼い猫の写真を見つけた。

そのページを開き、フォローしている相手の一覧を探ると、夫が見つかった。

「見つかった」という言葉に安堵し、その安堵した自分に驚いてしまう。一緒に暮らしている相手が、ネット上にいたことを確認したことが、まるで安否確認が取れたかのような大きな安心感をわたしにもたらした。

 二人のやり取りを何とか探してみようと、幾度もクリックし、会話のかけらをつなぎ合わせた。

「珈琲を毎朝飲むとツイートしたら、コーヒーショップからフォローされまくった。淹れているのは奥さんだから、俺、豆の銘柄とか知らないし」

「奥さんはツイッターやってないしね。よさそうなお店からフォローされてたら、教えてあげたら? わたしは毎朝ドリップするなんて、してあげないけど」

「上野に来たのは久しぶり。しかし変わらないなー。展示は何が面白いのか、さっぱりわからん」

「珍しいね。奥さんに合わせて? お疲れ様ですw」

お疲れ様と返事をしているのは、敦子だ。

お疲れ様、という言葉が胸に刺さった。「w」はなんだろうかと、検索してみる。小さなW。

検索結果を見て、頬が厚くなった。小ばかにされているようにしか思えない。

とるに足らない、そのくせ引っかかる二人のやり取りは、過去をさかのぼるのが面倒なほど頻繁にやり取りされている。


ニシガタさんを検索してみたけれど、鍵のマークがついていて読むことはできなかった。あの夜、福島のお酒を飲みながらわたしが本気でツイッターをやってみようと思っていることを感じたのだろう。

「知らないままのほうがいいことが、山ほどあるんだよ人生にはさ」

私の空っぽにになったガラスのお猪口に冷酒を注ぎながら、ニシガタさんは歌うように言った。

少しとろみのある黄色がかった、しかし透明な魔法の液体はゆっくりと注がれ続ける。

「空っぽ」を埋め「いっぱいのちょっと手前」でニシガタさんの手首がひねられ、止まった。

「そろそろ、やめといたほうがいいよ」そういって、小さく笑った。


あのときの言葉を素直に聞いていれば……。

このやり取りを知らないままでいればよかったのだろうか。ニシガタさんのアカウントに鍵がかかっていることが恨めしかった。また逆に夫と愛人が堂々と鍵もかけずに誰にでも見える形で、しかし二人にしかわからないであろう言葉を交わしていることがさらに恨めしい。


大分遅い更新になってしまいました。なかなか時間がとれずに、反省はしないけど、そんな自分にがっかり(泣)

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