ああ愛しの魔王様!
微下ネタ要素が含まれたりします。
ワタクシの愛しの魔王様は、少々頭が弱い。
仕方ないのですがね、魔王様は王とはいえ人間とは別の存在。
かつて一国をこの身一つで滅ぼした大魔法使いのワタクシの血と魔力を取り込んでいなければ、人型になることすら叶わない魔物なのですから。
ワタクシが手に入れたこの生活はとても大切なものである。
魔王様は最近、ワタクシの話すお伽噺──ではなく人間の国王が作り上げたハーレムの話がお気に入りだった。
それはもうドロドロとした、寵愛を奪い合う女の争いの話が楽しかったらしく、人間の王がハーレムを作るなら魔物の王がハーレムを作ったっていいはず、なんて言い出すくらいでした。
予想外でしたが魔王様が楽しそうなのでそんなことはどうでも良いのです。
胸の内側に燻る黒い炎など彼女の喜ぶ顔さえ見られればなんてことはない。
「というわけで、わらわはハーレムを作る! アドレー、皆の者に命じてわらわの元に捨て人間やら奴隷を連れてくるのじゃ」
「魔王様、貴女は女性ですから、連れてくるのは男で良いのでしょうか?」
「わらわにはよくわからぬ故、すべてアドレーに任せるぞ?」
こてん、と首を傾げる姿に転げ回って悶えたい気分になりました。
なんて可愛らしい!
闇色の長い髪は、ワタクシの手入れもあってさらさらつやつやとしていて金色の瞳はきらきらと、白く滑らかな肌はしっとりと……っ!
少女のように汚れを知らない顔でありながら身体は並みの人間なら涎を垂らすのではないかというほどに魅惑的で!純白のワンピースに身を包む姿は背徳的ですらある!
ワタクシの顔を是非ともその胸に挟んでいただきた──おっと、危うく鼻血を噴き出すところでした。
「アドレー? いきなり止まったりして、どうしたのじゃ?」
「いえ、問題ありません。それでは行って参りますね」
「ま、待つのじゃ。アドレーが行くのか? 他の者ではならぬのか?」
王座から降り、ワタクシに駆け寄る魔王様。
不安げにワタクシを見上げるその姿にワタクシの性欲……ん、んんーんー父性なるものがこう、溢れ出しそうになりました。
「魔王様、この魔界で貴女様の命令をきちんと理解して実行出来るのはワタクシだけなのですよ」
ワタクシが指先に口付けを落とすと、魔王様は戸惑ったような表情でワタクシの服の袖口を握った。
魔界には、魔王様を除けばあまり知能のない魔物しかいない……本能的な恐怖により支配された、簡単な命令ならばこなせる兵士──嗚呼、ワタクシは別枠で、ワタクシからすれば奴等はただの壁、ですがね。壁。
魔王様のために存分に増えればいい。
「スライムではダメなのかえ? あの、この前レッドスライムとブルースライムからパープルスライムが生まれたであろー?」
「我慢できずに食べてしまうか、拐ってくる前に倒されてしまうでしょうね。それに彼らでは人間の美醜を判断出来ませんから止めておくべきだと思いますよ」
「倒されてしまうのは、困る。わらわの大切なオトモダチなのじゃ」
嗚呼、魔王様は人間などよりも余程純粋で清らかだ。閉じ込めて、ワタクシ一人だけで愛でていたい。
とはいえ、魔王様の望みを叶えるのがワタクシの楽しみであり、ご褒美として額に口付けを賜るのがワタクシの至上の幸福!
……まあ、魔王様はワタクシが望めば添い寝どころか一緒に入浴すらしてくださいますが。
男としては全く意識されていないことは後々のワタクシの調きょ……否、教育しだいでしょうね。今後の課題です。
「大切な、なんて妬けてしまいますね」
「アドレー、焼けるとは、アドレーが燃えてしまうのかえ?」
「燃えませんよ」
萌えてはいますが。
「良かった……アドレーがいなくなったらわらわは悲しいのじゃ」
魔王様はうるうると瞳を濡らしてワタクシを見上げている。
嗚呼もうなんて愛らしいのでしょうか魔王様。
これはもうあれですか、食べて良いのですか、性的な意味で。
「ワタクシも魔王様がワタクシ以外を愛でるようになってしまったら悲しいですよ」
おっと、こんなことを言うつもりはなかったのですがね。
「……! アドレー!」
魔王様は驚いたように目を見開いてワタクシに抱き着いた。
「何でしょうか?」
「やっぱり捨て人間も奴隷もいらぬのじゃ。アドレーにはわらわだけ、わらわにはアドレーだけ……」
嗚呼、なんて──。
「魔王様」
「なんじゃ?」
なんて、甘美な言葉なのだろう。
強い力を持っていたが故に誰からも疎まれたワタクシを、ワタクシだけを必要としているなどと。
「ワタクシは永久に魔王様のお傍にいましょう」
堪らなく幸せだ。
──たった二人きりの王国は誰にも崩させはしない。
そう、例え勇者と呼ばれる男が相手だとしても、ワタクシは全身全霊をもって排除してみせよう。
「うむ、ずっーと一緒じゃ!」
かつて求めて得られなかったものすべてが、ここにはあるのだから。