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ゆやの物語  作者: ゆや
9/20

奴隷商人と奴隷

暴力系ヤンデレ王子×奴隷商人

コメディで書いて、ちょいちょいシリアス。んで結局シリアスに戻ったよー!みたいな。

実は、拾った奴隷が王子だったんだよ、どうしようね。幼い頃に王道な大人になったら結婚しようとか話しちゃった!どうしようね。っていう話になっております。

「ねぇ、俺はこれからどうなんの?」

「そうだね。アンタは容姿が上等だから、高い値で売られる。けどその後は知らない」

くすんだ銀色の髪に、不安に揺れるアイスブルーの目の美しい少年が、両手に手枷を付けて鎖で繋がれている。彼は、これから売られる奴隷であった。

世界は混沌としているわけでも荒れているわけでもなかった。だが、富豪が居れば貧民もまた居るのだ。生活が苦しければ、子を売り、生計を立てなければ生きていけなかった。また、なんらかの事故や、病によって親を亡くしたり、捨てられていれば奴隷商人が拾うのだが、奴隷商人もまた商人である事には変わりはなく、売れないと思った者は見もしない。

だから、売る方も考える。女であれば容姿問わず体で売れる。男はとにかく、容姿が良ければ必ず売れる。

そうして出た最悪な結論が、この世界では暗黙の了解だった。

そして、奴隷商人である彼女は親が奴隷商人だった事もあり、必然的に彼女も奴隷商人になった。






サラサラと流れる小川に、馬二頭と、荷馬車。緑色のシンプルなワンピースを着た娘が居た。少女は平凡な顔立ちをしていた。やや小さめの目に、やや小さ目な鼻に、やや薄めの唇に、肩までの黒い髪は、左右に分けて縛っている。どこにでも居そうな普通の少女。

「隣、行っていい?」

「ダメ。早く荷馬車に戻りなさい」

王都に向う道中、少女の持っている荷馬車から絶世の美少女が顔を出した。金色に輝く長い髪は、サラサラしていて触り心地の良さそうな美しい髪を持っている。しかし、その手には手枷が付けられていた。美しい少女はこれから奴隷として売られる“商品”なのだ。

馬に水と餌を与え終わると少女、エルヴァは立ち上がる。

エルヴァは、その(なり)からは想像できないが、奴隷商人の一人であった。

「ほら、早く戻りなさい。閉めるよ」

荷馬車の中を確認してから、開き扉を閉めて錠を掛けた。奴隷達が逃げ出さない為である。

今回、エルヴァの荷馬車に居る奴隷達は七人。どれも美しい容姿を持つ者ばかりでエルヴァは今度の奴隷市が楽しみでならなかった。

エルヴァは、一際美しい容姿の者が嫌いでならなかった。ただ美しいというだけで多くの人が特別扱いをし、愛でた。それの最たるものが、奴隷に売り出されるはずだった美しい義母に、一目惚れした卑しい父が、奴隷を売らなかったという奴隷商人として、ではなく親としてやってはならぬ事をしたからだ。それは娼婦を娶るのと同じ意味だ、とエルヴァは思い、今は幸せそうに暮らす両親を心底嫌った。憎んでいた。

だから、エルヴァは容姿が優れている者達が売られ、泣き喚く姿を見るのが好きだった。自分の性格がかなりひん曲がっている事には気付いているが、今更だ。

王都の関所で、自分証明となるカードを出して、通過する。

「エルヴァ殿、久しぶりですね」

「ん?え、えぇ久しぶりね」

「今度一緒に食事でもどうです?」

関所に居た衛兵は、平凡な顔立ちをしている。が、エルヴァは「会った事あったっけ?」と内心思う。エルヴァは頭が良いわけではなく、単純に商人としての才能が人よりちょっとだけあるというだけの実に平凡な奴隷商人だ。その位の商人ならそこらじゅうに転がっている。

「寝たいから無理」

遠回しに、拒否するとその場から離れた。






同じ時、王城にて。

「は?今、なんて言いました?」

茶色い髪を乱れさせて、書類を作成していた手を止める。今でも頭を抱えたいというのに更に頭を抱えたくなるような事を言う部下に無理難題を押し付けてやりたくなる。

「で、ですから!…王子の行方が分からなくなってしまったんです!途中まで一緒だったんですけど、小さな土砂崩れに巻き込まれてしま」

「は?今、なんて言いました?」

「あ、あの、」

端整な顔をした青年が両耳を塞いで、今部下が言った事を聞かなかった事にした。それぐらいに今言われたそれは、とんでもない程の面倒事だった。一国の王子が行方不明。しかもその王子は王位継承権第一位の第一王子。

銀色の美しい髪に、感情の色を見せないアイスブルーの瞳。冷徹な美しい顔。そして長身という、女の理想を絵に描いたような男が王子である。隣国の王女や、国内のご令嬢に大人気な王子は、後二月程で婚約発表するってのに、相手は全然決まってなく、将来の宰相である彼に、負担が圧し掛かる。本当に、何をやっているんだと、今、ここで、問い詰めてやりたい。

「どこに居るか検討はついているんですか」

「は、はいっ!奴隷市場です」

「は?今、なんて言いました?」

思わず自分の部下を睨み付けてしまう未来の宰相は、疲労が溜まりすぎて優しさを他人に分け与えるという事が困難だ。むしろ自分にくれと言いたい未来の宰相は比喩ではなく、頭を抱えた。

「もう、いやだ。ぜったいにさいしょーなんてなってやるもんか。ぜんぶあのくそおーじにおしつけてやる。わたしはもうはたらかないぞ。はたらくものか。ぼいこっとばんざい。おうじしね」

つらつらと愚痴を零しながらも、奴隷市場に行く準備を済ませた、未来の宰相、シエルは暗黒よりも深い深い闇を背負って部屋を出て行く。最後に重たくどんよりとした溜息も忘れない。





そして、彼は奴隷市場に着くなり、即座に挫折し、膝と手を地面に着いた。

「よぉ。遅かったじゃないか」

「ふっざけんなぁあああ!!!」

檻の中で踏ん反り返っている王子を前にして罵倒してやりたい。しかも、王子が居る檻には無数のメモが貼り付けられている。奴隷はオークションの商品である。欲しい奴隷が居れば、檻に名前と住所と、買い取り価格が書かれている。王子であるクオリアには、多額の金が入札されていた。

「アンタの癖にこんなに入札されているとは思わんでしょ!!」

「お前、つくづく失礼な奴だな。嫁探しはしたぞ」

「一応でしょ!それ一応でしょうがあああ!!」

「……………ま、まぁ、旅の途中でな…」

「アンタが王になったら私は実家に帰って領地を継がせてもらいます!」

「諦めろ。お前が宰相にならないで誰がなるんだよ」

「知るかー!!」

ガタガタと檻を揺らしながら、シエルは涙目になった。彼が宰相になる事は決定事項だった。市井出身の彼は、元々素行が悪かった。だが、頭の回転の速さは並み以上だった。それを現宰相に買われたのが始まりだった。

シエルの母親は売れない遊女だった。毎日が食べる物に困った。それより何よりも子を持っているという事がそもそも男を近寄らせないのではないか、と思い始めたシエルの母は、徐々にシエルが邪魔になっていった。邪魔だと思ったら、今度はそれが止まらなかった。シエルの事を愛している、はずなのに、気付けば暴力を振り、そして、気付けば奴隷として我が子を売っていた。シエルは容姿が端麗だった事もあり、高く売れた。シエルの母は、その金に顔を埋めて、一晩中泣いていた事をシエルは知らない。その事実を知っているのは、国王と現宰相と、そして、王子のクオリアだけだった。

だから、クオリアは生涯絶対に、何があろうとシエルを手放す事はしない。それは、シエルの為であり、シエルの母の為でもあった。

「それにしても、懐かしいな」

「…………」

「ここでシエルを見つけたんだ」

強い眼差しがまだ幼かったクオリアを射抜いた。その瞬間、クオリアは思う。「コイツ以外に誰が自分の相棒が務まるのだろうか」と。彼はすぐさま、隣に立っていた宰相に言う。

「“これが欲しい”。俺が今の宰相に言った言葉だ。お前は宰相に買われ、そして、この世界のルールを変え、出来る限りの富裕層と貧民層の差を無くそうとしている。俺はお前のその思想に共感した。んで、シエル。お前は何がしたい」

「クオリアの嫁を見つけたい」

「げ」

何度となく話をずらされてきたシエルは、クオリアが嫁探しが低迷している事にいち早く気付いた。

「い、いや。実は見つけてある。ちょっと厄介な女で」

「お客さん、そこの人買いたいならメモ張り紙付けて。名前と住所と、買い取り価格」

「…………っく」

苦い表情を作って、震える手でクオリアが入っている檻に張り紙を付けた。

「あ、落札ね」

「え」

クオリアが入っている檻に手を付きながらやってきた少女は普通の町娘に見えた。二つに分けて結った黒い髪に、実に平凡な顔は、どこかで見たようなそんな既視感をシエルは抱いた。

「そんな金額じゃ、他に入札する人居ないよ。いいよ、持って行って。ていうか、持って行ってくれるとありがたい。そいつウザくて」

シエルは自分で貼り付けたメモの額を見る。前に張り付けてあったメモと見比べても、そんな大差はない。

「そいつ、来る客全員にイチャモン付けるの。お蔭で、お客さん怒って他行っちゃった。営業妨害も良いとこ。だから、そいつとっとと買い取って」

憤慨している少女は、目の前にお綺麗な顔があるというのに、頬を染める事もなく淡々とした口調で言っている事で、更に動揺したシエルは、金が入っている布袋を少女に渡す。

「領収書はいる?」

「もちろん」

シエルは先ほどの動揺が嘘だったように冷静を取り戻した。

少女が領収書を作成し、金を数えている間に、渡されていた鍵で檻を施錠した。随分と簡単に開いた錠前を檻の上に置いて、シエルは檻から出てくるクオリアを見る。

「で、嫁探しは?」

「さっきの女だ」

「は?今、なんて言いました?」

「冗談じゃないぞー。あの女、結構可愛いとこがあってな。本当は寂しがり屋なのに、自分が奴隷商人だからって、いつも夜一人で寝ているんだ。しかも外で、だ。俺達は奴隷だから逃がさない為、なんて素直じゃない事言って、荷馬車に入れてくれるんだぞ。しかも、だ!」

ここから少女が戻ってくるまで、クオリアは延々と少女、エルヴァの自慢話を一方的にしていた。シエルはそんなクオリアが信じられなかった。何が信じられないって、その溺愛加減が、だ。アンタ奴隷として売られそうになってたんだぞ。ていうか、今し方、まぁ国の金ではあるが買い取られたではないか。

シエルの脳内は今、正常に作動していた。そうして出てきた最終判断は、あ・り・え・な・い!だ。

「王子、城にとっとと戻ってちゃんとした嫁探しをしましょうね」

「エルヴァがいい」

「誰ですか。見合い話はわんさか来ているんですから、城に戻りましょう」

「エールーヴァーがーいーいー!!!」

「いつまで駄々捏ねているんですか!恥ずかしい!!」

傍から見れば、母と駄々を捏ねる子供の図式が出来上がるのだが、残念な事にそれをやっているのは、成人を迎えた美青年二人である。注目を集めに集めているのは、勘定をし終えて、領収書も作り終えてしまったエルヴァでもわかっている。

「わかった。おい、そこの奴隷商人!エルヴァを捕まえて、すぐにそこに売り出せ!俺が買う!」

「なんちゅう事言ってるんですか!アンタはバカですか!バカなんですね!わかっていましたとも!!」

「エルヴァを嫁にするんだ!エルヴァを嫁にして、あの未熟な体を好きにするんだ!エロい下着とか着させたいんだよ!!」

「立派な性犯罪者じゃないですか!嫌ですよ!あんたの右腕になるぐらいなら領地を継ぎます!」

「あんの狸がんな事望んでるわけねぇだろ!」

「義父をバカにしますか!」

「現に今、お前は言い包められて将来は俺の右腕確定じゃないか!」

「知るか!」

「あ、あのー…」

ゾゾゾゾゾゾゾゾゾーッと寒気が迸る背筋を撫でたいのをグッと我慢して、エルヴァは二人の前に出てきた。

「エルヴァ!」

ガバッと抱き殺す勢いで、抱きついて来たクオリアを避け切れず、その腕の中に閉じ込められたエルヴァの手には領収書が握られていた。

「絶対に離さないぞ」

「離してあげてください。虫の息じゃないですか」

クオリアは、渋々エルヴァを離すとエルヴァの腕に枷を填めた。それは今の今までクオリアが付けていた物だった。

「…え」

「んじゃあ、行くか」

「全く、王と義父になんと言えばいいんですか…」

「まぁ、なんとかなんだろ」

「ちょっ…きゃっ」

枷に付いている鎖を引っ張って歩くクオリアに着いて行く事が出来ずに転ぶ無力なエルヴァに、クオリアは、無情にも小さな頭を踏ん付ける。

「…っい…!」

「エルヴァ。お前は俺のだ。エルヴァが会話を交わしていい人間は、俺以外には居ないと思え。女と喋るのもダメだ。いいな」

「そ、そん、な…」

「いいな」

威圧的に見下ろしてくるクオリアが、先ほど男と口喧嘩していたクオリアとは思えなかった。

「…はい…」

エルヴァには、別人に見えたのだ。得体の知れない美しい男は、まるで子供でも抱き上げるようにエルヴァを抱き上げた。小さな鼻から流れ出た血を一嘗めしたクオリアは、幸せそうに眼を細め、エルヴァを抱きしめた。

エルヴァにとっての地獄はここから始まった。





「なぁ」

川辺で泣いている子供を見つけた、美しい銀色の髪を靡かせた少年が、ボサボサの黒髪の女の子に近寄る。少女の髪は、無残にも切られ、長さが全くあっていない。場所によっていは切り過ぎて、頭皮さえ見えている。実に水簿らしい子供だった。

「イジメられたのか」

フルフルと顔を横に振る少女は、意地でも口を開かないつもりらしい。

「俺だったら、もっと徹底的にイジメるのになー」

そう言うと、少女はもっと体を震わせた。怯えているのだ。

「もっと大人になったら迎えに来るから、お前、大人しく俺の嫁になってイジメられてろよ」

少年は、少女のその姿に恋をした。

歪んだ、歪みきった恋だけど、最初から大切にする気はなかった。気まぐれに優しくして、虐めて、愛でられれば、少年は満足だった。

だけど、その歪みを知らない少女はただただ怯えて暮らした。いつ迎えに来るかもしれない少年に恐怖し、そして、父に奴隷商人になるように勧められた。だから、少女は思いましなかった。

奴隷商人になれば、会う事はまぁ、まずないだろうと思っていた少年を、少女は拾ってしまったのだから。


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