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ゆやの物語  作者: ゆや
7/20

愛するあなたに目潰しを!

社長×田舎娘のほのぼのとした話。

本当は失恋からの普通のラブを目指したんですが、スランプ中にんな物書けません。

物思いに耽っていると肩をポンっと叩かれた。

(みお)。ぼーっとしてる暇があるならこれも出来るな?」

カタリと机に置かれたメモリスティックに肩が下がった。やってしまった。思わず頭を抱えてしまいそうになる。メモリスティックをノートパソコンに挿して、データを読み込む。

私が勤めている会社は個人の会社である。社員は社長と私の二人きり。仕事内容は、パソコン機器に弱い農家の代わりに通信販売で売り込んでいる会社である。産地直送だから割と安くて、新鮮な野菜が手に入ると消費者からはとても人気なのだが、仕事が入らない時はとても暇であるはずの今日は、なぜか忙しい。

「社長。なんで今日こんなに忙しいんですか」

「そういう書類関係の仕事をこの俺が溜め込んだからだ」

「私、早退します」

「減給な」

一瞬持ち上がったお尻をまた椅子に沈みこませる。

減給は痛い。

社長は、派手な容姿であるが引き籠り気質の男である。学生時代はずっと海外に居たらしいが、向こうのフレンドリーさに早くも挫折してほとんどを家で過ごしていたらしい。なんてもったいない。艶やかな栗色の髪も、切れ長の茶色い目も、理想的な卵型の顎のラインも、その高い身長も、まるで少女マンガに出てくるような女の子が理想としている容姿をしているというのに。





社長と出逢ったのは、二か月ぐらい前になる。

仕事の先輩方のイジメに堪えられなくて、会社を辞めて実家に戻ってきた私に母親はラリアットをかましてきた。元アマチュアプロレスラーの我が母に、ドMな父はプロレス技を嬉々として受け入れている。今でもラブラブな両親を片目に、中学の時から愛用している藍色のジャージを25歳になった今でも着て、テレビ前で寝転がり、日曜の親父よろしくな私はせんべいに齧り付き昼間にやっている洋画を見ていたら、母に海老反りを食らわせられ、渋々広大な畑に出た。私の家は農家だった。トマトと大根とピーマンと牛蒡を育てている。売れているんだがどうだがわからないが、とにかくこうして今の今までやってきているという事はそこそこ売れているのだろう。

さぁて、と。と日除け用の帽子を被って畑に出ると、畑のど真ん中で倒れている男が一人。

私は心の中で叫んだ。「意味がわからない!!!!」と。声に出していたら全力でツッコミを入れていただろう。

「おっかあ!!変な男が畑のど真ん中で寝転がってるべ!!」

「え?」

母はテレビの前に寝転がり、日曜の親父よろしくな状態で煎餅を齧りながら韓ドラを見ていた。血は争えないな。

「やだよー。この子ったら。変に田舎臭い言葉になっちまって」

あらやだー。こんな風にはなりたくはないわね。と言ってまたテレビを見始める母は頼りにならないので父に頼み込むべく、また外に出た。

「お父さーん!!」

「なんだ?大声出して」

「男の人が倒れてる!」

「は?」

口をあんぐり開ける父の腕を引っ張って男が倒れている場所に連れて行く。

それから、慌てた父はとりあえずその男を家に連れて帰れば、母は準備万端と言った感じで布団を引いて待っていた。

顔に着いた土を濡れたタオル拭ってやれば、美しい(かんばせ)が覗いた。母は喜んだが父は、私をチラチラ見てきた。見るなという意味で目潰しを食らわせれば父は喜んだ。

「父さんは、澪が顔だけの男に惚れるんじゃないかと心配しているのに…」

頬を赤く染めて、目潰しの痛みに悶えている父を放っておき、男を眺める。なんとまぁ、綺麗な顔をしているのだろうか。なんか、こう…ムカついて来たので、水性ペンで瞼に「へ」の文字を書いた所で母から卍固めをお見舞いされた。

「母さん、父さんにもやってくれ!」

「嫌よ。めんどうくせぇ」

母は、容赦なかった。

そうこうしている内に男は目が覚めた。そして、一言。

「あぁ、ブスが居るな」

私は躊躇うという言葉を忘れて容赦なく目潰しをお見舞いしてやった。





というのが私と社長の出会いである。出会い頭に何をやってるんだとツッコミは総スルー。

「所で社長。私、未だに失恋の痛みが忘れられないので今日は早退します」

「今月の給料なしな」

一度持ち上がった腰をストンと椅子の上に落とすと、パソコンに向き直る。カタカタと只管指を動かしながら、時間が過ぎるのを待った。ちなみに失恋というのは嘘である。

「おい。AとLしか打ってないじゃないか」

「違います。AとFとLと閉じ括弧です」

「働く気がないなら月々の給料は三千円でいいか?」

「それ給料じゃなくてお小遣いです。しかも最近の子はもっと貰ってますよ」

仕方なくパソコンに向かって仕事を始める。

この仕事は、自分でも吃驚するぐらいに向いていた。なんといっても、人との関わりは基本的にメールだけ。たまに電話が鳴るだけで暢気なものだった。

「社長、彼女とかは作らないですか?」

「お前じゃないのか?」

「…………………?」

「……………」

沈黙が続く。爆弾を落とした張本人は、至極真面目な顔をして事務処理を淡々と熟している。私の聞き間違いだろうか。

「社長、結婚のご予定は?」

「澪が結婚したいというならいつでもいいが」

「…………………?」

あれ?

流石に何かがおかしいという事に気付いた私は、そういえば、と思い返す。ここ近頃、私と社長は頻繁に我が家に帰っている。そう、私の実家に。両親は社長の事を気に入っているどころか、実の息子のように可愛がっている節がある。実の娘の私より可愛がっている節がある。なんかラリアット食らわしたくなってきた。

更に、社長も満更じゃ無いのか父さん、母さんと呼ぶようになってい……あれ?

「社長、私と結婚する気だったんですか?」

「お前…。人の家、仮にも男の家に転がり込んだ挙句、散々ベッドの上でギシアン喘いで、朝になったら朝食と弁当をバッチリ作ってる奴が彼女じゃないとは言わせないぞ。しかも左手の薬指に指輪填めといて…」

「…………」

そういえば、そうだったね…。

先月、社長に指輪をプレゼントされて、何気なく左手の薬指に指輪を填められたからそのままにしといたけど、そういえばこれってそんな意味があったね。なんかもう社長の絶倫具合に付いていくのがやっとで忘れていた。

「え、あぁ、じゃあ、結婚、します…?」

「あぁ。そういえば結婚式来月だったな」

「早いよ!なんで先に言ってくれなかったの!!?」

「義母さんが、澪に任せていたら100年掛かったっておかしくないと言っててな。お前、優柔不断だし、義母さんが娘の結婚式場とかドレスとか選びたいと言ってだな」

「ちょっ!止めてよ!!確かに、私社長の事好きだけど、ドレスの試着ぐらいやりたかったよ!色んなドレス来てお姫様気分味わいたかったよ!」

「迷惑な客だな」

うっさい。パタンとノートパソコンを閉じて、メモリースティックを社長に渡す。

「私の事、幸せにしてくれるんでしょう?」

「お前が俺を幸せにしてくれるんじゃないのか?」

蒸気する頬抑えて、社長に照れ隠しの目潰しを食らわせた。

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