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ゆやの物語  作者: ゆや
4/20

離婚しますか? 「Yes」か「No」で答えてください

「君と穏やかな時間を」のアンジェの恋愛話。

経度のヤンデレ(怪力)×見た目平凡

「離婚しましょう」

「あぁ。そうだね」

そういう訳で離婚しました。





原因はなんだったか忘れ去ったが、とにかく腹黒い夫と別れられて万々歳だ。子供は三人。内、二人は夫似の美形で、内一人が私似の普通の子である。我が子ながら皆可愛いので文句はない。

私はアンジェ・ハルヴァード。父はこの国の宰相で、元夫はこの国の王だった。そして私は王妃だった。だが、今はそんな事は今は関係はなく、幼少時に過ごしていた森に私は今、帰っていた。

ペットのミケという名の虎を連れ帰り、幼子の面倒を見てもらっている。危ない事は全て彼が事前に止めているので安心している。

久々の家事と畑仕事に慣れなくて、最初はかなり苦労したが慣れてしまえばこちらのものだった。子供達もよく手伝いをしてくれて、かなり助かった。






そして、この森に帰ってきて三年の月日が流れた頃に、騎士団長、もとい父のパシリである男の息子が訪ねてきた。彼は、括った銀色の髪を右肩に流し、ひまわりの花びらのような鮮やかな黄色い瞳をした男前である。

「王妃様、城にお戻りください」

「嫌」

「王妃様、王が寂しがっております」

「えぇ。そのままウサギのようにくたばってしまえばいいのに」

「王妃様、宰相様が非常に寂しがっております」

「そうね。父上の隣にあの腐れ王が居なければ戻ってもいいわ」

「王妃様、」

「私、アイツ大嫌いなの」

「おう、」

「それに、私はもう王妃じゃないわ」

「アンジェ様、」

一向に食い下がる様子を見せない、元夫の親友はヴェルセナ・ノウェルツォ。誰に似たのか、彼は感情を表に出すのが下手くそだ。ちなみに彼の父親は不器用の代名詞なので、未だに書類や大事な手紙を綺麗に持ってきた試がないのでいつも父に飽きられている。

「子供達が、荷造りを始めております」

「え!!?」

振り返ると、ヴェルセナが言った通り、子供達が各々荷造りをして時たまこちらをチラチラと見てきては期待の籠った目をキラキラさせている。

「アンジェ様、お戻りください」

「……っ…わかったわ…」

三年という短かった生活にお別れを告げて、渋々城に戻った。






久しぶりの城に、子供達は「パパ、パパ」と騒ぎ立てているのとは逆に私の気分は急降下した。

元夫、レオナルド・フォルセナは腹黒い。レオの方が5歳上なだけあって、私は最初の頃は彼にベッタリだった。金色の髪に、赤い瞳の美しい彼の弟達に苛められた時、彼は真っ先に私を助けてくれた。彼の父が大切にしていたらしい陶器を割った時も彼は私を助けてくれた。勉強が上手くいかなかった時、彼は優しく「よく頑張ったね」と頭を撫でてくれた。彼は、私が最も信頼を置き、そして大好きな兄だった。

私が15歳になった頃だったか、それくらいの時に彼は言った。

「あれだけ助けてあげたんだから、俺の嫁になれよ。なぁ、なるよな?ならないんなら、これからアンジェを埋めて、顔だけ地面から生えてる状態にするぞ」

彼の顔はとてもウキウキしていた。まるでこれから弟達と狩りに行くぞ、と言わんばかりのうっとりした麗しい顔で言ってのけた。それにこれ以上ない程の恐怖を覚えた私は奥歯をガタガタ言わせて、頷いて、そして契約書に震え上がった手で自分の名前を書いた。それを見て、満足したのか彼は私を落とし穴から救い出してくれた。

余談だが、レオの弟達曰く、レオは狩りを趣味としているのではなく逃げ惑う弟達を追い掛け回し、罠に掛け、脅し、苛めて遊ぶのだそうだ。

それを聞いて、私は震え上がった。それは一週間程続くぐらいに、あんなに慕っていたレオを恐れた。彼が私の部屋の戸を叩く度に、私は衣装箪笥の中に隠れ居留守を使っていたが、一週間もすると彼は戸を壊して入ってきたと思えば、衣装箪笥の開き扉を下にして倒し、こう言った。

「アンジェ、俺はこの世の誰よりも君を愛している。なのに、君は俺を避ける。どうしたらこの想いが君に届く?俺は今、とても胸が苦しい…」

どの面下げてそんな世迷い事を言う!

この状況じゃなきゃ私は顔を真っ赤にしているところだ。ちなみに、その時の私は顔が真っ青だった。

「黙ってないでなんとか言えよ」

鈍い音を立てて、衣装箪笥をバリバリ壊して、私を掬い上げた。怖い怖い怖い怖い!!!

「あ、あ、」

震え上がって何も言えないでいる私に、ニッコリと麗しい笑みを浮かべた彼の赤い目は穏やかそのものである。

「この部屋はもういらないね。アンジェの部屋は俺と共有だよ、嬉しいかい」

昔のような喋り方なのに、レオの語尾は疑問形ではなかった。そう、それは決定事項であった。その日から私は一日たりとてまともに立って歩く事は出来なくなった。それをこれから会うと?

私はとある確信がある。それは、レオが私自身に物凄く依存しているという事だ。弟達は、口々に言った。それは、「あれは魔王の化身か何かだ。アンジェ逃げろ!」と。言うのが遅すぎではないか?

そんなわけで私はあの男に会いたくはないのだが、子供達は皆、レオが大好きだ。

「父上ー!」

「会いたかったですー!」

「パー!」

「あぁ、私の可愛い子等。久しぶりだね」

抱き締めたり、頭を撫でたり、と彼は子供達を可愛がっている。

「アンジェ、おかえり」

その一言で追い掛けっこがスタートした。

捕まったら抱き潰される。捕まったら抱き潰される!!

結果は、もちろん捕まって抱き潰され、再び婚姻の書類に私の名前を書かされ、数か月後に妊娠が発覚された。






三年前、アンジェと離婚した時、俺はこの日が来るまで頑張った。

アンジェの父親であるディージェは仕事の鬼だった。天才と言われるだけあって、彼の政の才能は群を抜いていた。だからこそ、父上が王座を退いた後でも彼だけは残ってもらっていた。彼の政の才を受け継ぐ為に。

「ディージェ、変なのが混ざっている」

「陛下、あんまりそれには触れないでください。毒が仕込まれているかもしれません」

「わかっている」

書類に紛れているかもしれない、毒を染み込ませた書類対策に、白い手袋をはめて普段は仕事をしている。これは、ディージェの案である。

怪しいと思われる書類は避けて、他の書類に判を押していく。

「後宮を開け、何人か側室を迎えると言った時、何人手を挙げた?」

「11人です。その内の5人は、裏が取れてますが、残りの6人は取れません」

「なるほど」

裏が取れている、という事は白。裏が取れていない、ということは黒。そういう決め事が俺とディージェとの間で交わされたルールだ。他にも色々とルールがあるがそのせいで色々と誤解されやすいのはしようのない事だろう。

公爵位や伯爵位といった貴族共は権力と金に目がくらみ、こんなバカげた事をする。自分の娘は所詮道具でしかない。だから、平気で自分よりも上の貴族に売り込む。

「七光が」

親の栄光をまるで自分の事のように語る奴等に虫唾が走る。親がどうした。結局自分がやった事ではないのだから、自慢したって自分の能力が劣っているという事を公言しているのをなぜ気付かない。

「どうします?」

「使える者は使う。それが女でも変わらない。お前が、自分の娘に自分の仕事をさりげなく回している事も知っている。アンジェは将来俺の右腕であり、王妃だ。あれ以上に王妃の仕事と宰相の仕事をこなせる者も居るまい」

「我が自慢の娘を褒めていただきありがとうございます」

「ディージェ。お前がもうとっくの昔に終わらせた書類の書き写しは用意出来たか?」

「はい」

「では、即室候補達にそれを回せ。宛がった部屋には誰も入る事を許すなと伝えておけ。彼女達には、その書類の処理をしてもらう」

使える者は使う。その言葉通りである。

貴族の女が暇を弄び、無駄に着飾る時代は終わりを告げるだろう。そして、アンジェが表舞台に立ち、誰も逆らえない女王として君臨する。そもそも、アンジェ以外に宰相になれる者が居ないのだ。それも考え物だが、存分に自分達の無能さを悔いればいい。

「これからが楽しみだな」

「えぇ」

俺達の企みに何人の者が気付くだろうか。アンジェはすでに気付いているだろう。あれは親の七光ではない。ディージェが宰相としての仕事を幼い時から叩き込まれている立派な政治家の一人である。

ふと、窓の外を見上げると、目に痛い程の快晴だった。


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