静かに結婚させてください 2
「静かに結婚させてください」の続編になります。
人目を盗んで、男女は公園の公衆トイレの裏に居た。緑がもさもさと茂っているその場は、路上からも公園からも死角であるので密会にはちょうどいい。
「……圭太…」
「……真琴…」
ひっしと抱き合った二人は、メソメソと泣き始めた。
なんでこんな事に…。
先日二人は、美麗な男女の双子にそれぞれお持ち帰りされて美味しくいただかれそうになったのをなんとか色んな言い訳を付けて逃げたのだ。
「俺が好きなのは真琴だけだ…!」
「私もよ、圭太!」
「「どっから出てきたんだ!お前等!!」」
平凡な男女のカップルの背中に張り付く麗しい男女によって引きはがされた二人は、懸命に抵抗する。
「後を付いてきたに決まっているでしょう」
すりすりと真琴の腰を擦る美男の手の甲を抓ってセクハラをする手を止めさせる。
「痛いじゃないか。ハニー…」
「誰がハニーだ!」
全力でツッコミを入れる真琴は男と距離を取ろうと必死で抵抗を試みるが、如何せん男の力は圭太より強い。
「結婚式はいつがいいかしらね、ダーリン」
美女の華奢な手が、圭太の薄い胸板を撫でる。美女の手を掴んで行為を止めさせようとするが、女の手は圭太の胸板から離れない。どういう事だ。
「ダーリンって呼ぶな!俺のハニーは真琴だ!」
「圭太…」
軽く感動を覚えた瞬間、グギンという不穏な音と共に強制的に男の方に顔を向けさせられた真琴は首に激しい痛みを覚えた。こんな痛みは永遠に体験したくなかった。
「酷いな、真琴の旦那様は俺だろ」
「断言しないでください。違います」
「そうだわ!このままダブルデートしましょう!」
名案だわと言わんばかりに顔を輝かせる女に便乗するように、男も良い考えだと言わんばかりに頷く。どこが名案なのか知りたいような、知りたくないような…
「そうだな。デートしようか、真琴」
「そうだね。じゃあ圭太行こうか」
「「こらこらこら」」
さりげなく手を繋いで、デートに行こう。ついでにプロポーズもしようと策を講じた平凡カップルの思惑はアッサリと破られた。
「ねぇ、今更なんだけど…あなた達何?」
「本当今更だよな」
もうどうにでもなれという感じで視線が冷たくなりつつあるカッパルの視線の先は美男美女。
「俺は、氷空 流星。今年で26歳。氷空企業の会社の一つを任されている社長様だよ」
なぜ様付け?というツッコミをする隙さえ与えずに、今度は美女が口を開いた。
「私は、氷空 星奈よ。流星の双子の妹で、私も氷空企業の会社の一つを任されている社長様よ」
だからなぜ様付け。
氷空企業は、映画、ゲーム、書籍を製作する、今就職したい企業№1の超人気の会社である。二人はその企業の支社を任されているという事だ。どのみち、この双子はエリート様という事だ。ちなみに圭太が勤務する会社は、大手の食品会社で、真琴は印刷会社に勤めている。
「俺と結婚したらセレブの仲間入りだよ?なんせ、俺は将来、本社の社長様になるからね」
「私と結婚したら働かなくていいのよ?私が稼いでくるから」
ダメだ。コイツ等と一緒になんかなったらwelcomeダメ人間。goodbyまともな人間。の図式になってしまう。
「私、セレブとか興味ないし…」
「俺、ダメな人間になりたくないんで」
「「お断りします」」
それから二人は一緒に美麗な男女の双子から逃げ出した。足を止めたら掴まれる。掴まれたらもう元には戻れない。それは何か確信めいたものはなかったが、本能がそう言っていた。
あぁ、もう静かに結婚させてください。