彼女は悪役で、私の友達でした。
女の子同士の友情可愛いなって思います。
所謂悪役の立場にいる女の子の心を支える女の子のお話です
宮条彩萌。彼女は、孤独な人です。
大きな財閥の一人娘で、美人だった。高飛車な性格に、下の者に対し見下すような言い方もする。けれど、それは彼女の事をよく知りもせずに、その見た目だけでそう決め付けただけに過ぎない。
本当の彼女は、天真爛漫で優しくて情熱的な良い女だ。
「酷い!!どうしてそんな事を言うの!皆努力してるのに!」
学園一のマドンナはそう言う。彼女は、今年の春に転校してきた帰国子女だ。美少女で、その柔らかな雰囲気で周囲を魅了する。
最近、学園祭の準備で皆ピリピリしていた。そんなマドンナのクラスは劇をやるそうだ。マドンナが主演の劇なんて、私にとっては魅力に感じない。
「ですから。決められた時間通りに、練習して頂戴と言っているのよ。アナタの都合で、練習を長引かせると他の者達にも迷惑が掛かると言っているの」
「ちゃんと申請書は出したわ!」
「アナタ知らないの?申請書を出して、他のクラスが平等に使えるように生徒会で調整して、各クラスに報告しているのよ」
それは周知されていた決め事だ。彼女が権力で捻じ伏せた訳じゃない。何事も公平に行っている事だ。彼女は何一つとして、間違った事は言っていない。
「だって、私のクラスには通達が来てないわ!」
「そんなの自業自得よ。朝の会議は毎日朝礼の15分前にやっているのよ。アナタはいつも朝礼ギリギリに来るじゃない。準備期間が始める前にも会長がちゃんと言ってたわ。それさえもちゃんと聞いてないだなんて呆れるばかりだわ」
「………っ酷い!」
「酷いのはどっちよ!」
廊下の真ん中で口論を広げている彼女達の騒ぎを聞き付け、生徒会がやってきた。生徒会は所謂美形集団だ。絶対に顔で選んだだろうと思われる面子が揃う。
「廊下で騒ぐな」
「何事です」
「会長!」
生徒会長は、艶々な黒髪でスッと切れ長の眼をしたイケメンだ。そして、彼女の婚約者でもある。
マドンナは、生徒会長に駆け寄りしな垂れる。それは、彼が彼女の婚約者と知っての事ではない。マドンナはそれが素なだけだ。天然男タラシは今日もその能力を発揮している。
「またお前か」
「お言葉だけど、彼女がアナタ方の作ったルールを無視したから注意をしただけよ」
「だからといって、もっと言い方というものがあるだろ」
生徒会長と彼女は犬猿の仲だ。お互い本気で婚約等嫌がっている。そんな彼女は仮にも、その婚約者をマドンナに押し付けているのだから、どっちもどっちだろう。
「そんなんだから、友達も居ねぇんだろうが!」
「なんですって!!」
「お言葉ですけど」
会長の「友達居ない」発言にイラッと来た私は二人の言葉を遮って、間に入った。
「彼女の友人として、言わせていただきます。その子を甘やかすのはそちらの勝手でしょうが、悪いのはその子です。決まり事は守らない、朝の会議にも出ない。なのに、後から卑怯だの、そんなの知らないだの吐き捨てる。自由奔放なのは個人の自由ですが、守らなければいけない事を私達は守っているのに、その子だけ特別扱いなんて、聞いて呆れるだけです」
「そんな!」
「彩萌、行こう。準備が忙しいよ」
「ちょっと!」
ちょっとじゃないんだけどな。
そう思いつつ、人垣をかき分けながら彼女の腕を掴んで教室に戻った。
「全く。今回だけは特別だからな」
そう言った声はもう聞こえなかった。
彩萌は学園の嫌われ者だ。
「ねぇ、彩萌。泣かないで」
本日の学園祭準備が終わり、無理やり彩萌を私の家に連れてきた。私の家は一般家庭で、ローンが後残り云々カンヌンな一戸建ての家だ。その中の、4.5畳一間の狭い私の部屋に居れて、泣きぐずる彩萌を慰めていた。彩萌は生徒会が大嫌いだ。何もかもマドンナに甘い生徒会を心底嫌っている。
「私は彩萌の友達だよ」
「どうして…。私は何も悪くはないわ…」
「そうだね。間違った事は一切言ってないよ。ルールをちゃんと守っている彩萌は偉いよ」
なのに、認められない哀しみを彩萌はこうして人目が付かない場所で泣いて、発散している。
しかし、最近の生徒会はマドンナを構うので必死で周囲を見れていない。当初だったらそれが出来ていて当然だった。だけど、今は強くて凛としていたあの彩萌がこんなに弱って、泣いている。
「私が、彩萌を守るよ」
けれど、その言葉を守る事は出来なかった。
事が起きたのは、学園祭が終わった直後の事だった。
彩萌は、長期留学という名目で学園を追い出されたのだ。彩萌は最後までずっと「イギリスの方には前々かた留学に行く予定だった」そう言っていた。けれど、家にも見切りを付けられた彩萌のその言葉は嘘だ。本当はいつものように私の家で泣きたかったんだろう。だけど、彩萌自身も私に甘える訳にはいかなくなったのか、最後は空元気な笑顔を見せて日本を後にしてしまった。
それから、学園はマドンナの独断場となった。女子達も、生徒会の背後の権力が怖いのか、近寄りもしなくなった。
今日も今日とて、マドンナの周囲には生徒会がたむろしていた。昼休み、生徒会には一般生徒が簡単に入れないように専用のテラスがある。少しでも彼等に休息を与えるために出来たそこ。
憎しみが、膨れ上がった。
彩萌は、泣いてたのに。どうして。
「ねぇ、いい加減にしてくれる?」
仲良く談笑中の彼等に声を掛けた私は随分と異質に見れるだろう。だけど、言いたい事は山のようにあったのにこの場に立って言いたい事はたった一つしか出てこなかった。
「なんだお前。ここは生徒会専用のテラスだ。一般生徒が入っていい場所では……――」
「一般生徒?私は、生徒会の庶務ですが」
ただしそれは、彩萌が生徒会に入る時に、私も金魚のフン同然で付いて来た役職だった。庶務、とは言っても今では完璧に生徒会の仕事を一人で熟している。以前までは彩萌のためにせっせと働いていた。まだまだ至らないとこはある。だけど、生徒会のメンバーさえ私の事を覚えていない、という事は相当いかれている。
「見覚えないですか。そうですか。別に構いませんよ、私地味で目立ちたくなかったので、そのせいでしょうね。だけど、今はそれとこれとは関係ありません。私は、これから全てを放棄します」
そして、私も行くのだ。イギリスに、彩萌を追って。
「それから一つ言わせてほしい事があります」
身構える生徒会メンバーに一歩一歩と近付く。そして、マドンナの左頬を平手打ちした。
「邪魔です。消えてください」
「おいお前!!調子に乗るなよ!!」
「えぇ。勝手に退学処分でもなんでもするといいですよ。あぁ、でも無駄ですね」
「痛い!!何するのよ!私が何をしたっていうの!!」
今のこの光景を見て、随分と滑稽だな、と思った。
騒ぐ生徒会メンバーを置いて、学校を後にした。
自主退学はした。後は、彩萌を追ってイギリスに行くだけだった。心はもう軽くなっていて、先ほど彩萌にメールをすれば怒っていたけど、だけど結局は許してくれた。
だから、
また、
彩萌が笑えるように頑張るから
今からそっちに行くね