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ゆやの物語  作者: ゆや
18/20

姉は怒ると怖い

不良でイケメン三人組と怪力な姉の話。

発端は、友達を家に連れてきてしまった事から始まる。

計三人の友人達は不良であった。赤青紫の頭をした不良達は俺の家に来た時の事を今でも覚えている。「俺達、今金欠なんだよねぇ。金、貸してくんね?」だ立派なカツアゲだった。そうして、家に上がってきた不良達がリビングに入って寛ぎだそうとしたその時だった。

庭にベランダに干されてあった女性物の下着。それは紛れもない姉ちゃんの物だ。姉ちゃんの下着は至ってシンプルの物から可愛らしい物まである。

「あ、それは…」

「お前、これ母ちゃんのか?」

「随分可愛い下着じゃねぇの」

それは脅しにも捉えられる言動。だがしかし、悪夢のような日々はここから始まった。そして、彼等の更生もこの瞬間より始まったのだ。

俺の肩はミシミシと悲鳴を上げていた。小さな手からは全く想像も付かない握力だ。

「それはひとえに婆臭いって言ってるのか小僧共!!!!!」

気配を殺して、俺の後ろに控えていたその時の姉は、この場に居る全員を焼き殺す勢いの恐ろしさだった。現役不良高校生をフルボッコにした姉の怒りは凄まじいもので俺はリビングの片隅でガタブルと震えているだけだった。





それからも赤青紫頭の三人の不良は俺の家にやってきた。

姉ちゃんは怒らなければ、普通の大学生だった。不良達に以前の事を謝り、その謝礼として夕ご飯を振る舞って、調子に乗った不良達が取った行動は以下の通りである。

「本当に謝罪する気持ちがあるんなら、それ相応のやり方があるだろうよ」

「そうだよなぁ。その貧相な身体を差し出すとか、さ」

その瞬間姉の拳が流星の如く真っ直ぐと不良の顔面に落ちた。

「誰が貧相な身体だ!!調子に乗んじゃねぇぞ!!!!!」

その時の不良達の顔からサーッと勢いよく血の気が退いた。我が家の家訓「姉の前では貧相は禁句」から逃れるべく、テーブルの下でガタブルと蹲る俺は悪くはない。





これから姉に対して、「普通」という言葉を使う事を辞めようと思う。

俺は今、お馴染みの不良三人組に放課後の校舎裏に呼び出された。不良三人組は、実は女子に大変人気がある。揃いも揃ってイケメンなのだ。西洋人のような彫の深い顔立ちの赤頭は長身。瞼が一重でクールな顔立ちの青頭は平均的な身長。垂れ下がった眦に甘いマスクの一見チャラそうな紫頭も赤頭同様長身。そして三人の共通点は、イケメン。鼻が高い。細マッチョ。不良である。

「お前の姉ちゃん何者だ」

「あの強さ…。常人じゃねぇ」

「どこの高校の番長張ってたんだよ」

うちの姉ちゃんはコンプレックスを刺激するような事を言わなければ、表向き女子大生である事、俺の高校のOGである事も話したが、一切信じてくれなかったので、また家に不良三人組を入れて、姉の部屋から卒業アルバムを持ち出して見せた。

「な、んだと…」

「マジか」

「クラスに居んぞ。こんなモブい顔の女」

まぁ、俺もモブ顔だけどな。とは言わなかった。何故ならば、俺の肩がミシミシと悲鳴上げている。ご存知の通り姉が俺の後ろに居るのだ。

姉にとっての禁句用語、「モブ顔」は姉がとても気にしているのだ。もうちょっと可愛ければなぁ、といつもぼやいているのを聞いて、俺自身もそう思った。もうちょっと彫が深ければなぁ、と。

「つーか、アレだな。釣り目だ」

「おい」

釣り目も姉がコンプレックスに感じているものである。

「人の卒アル見て何をやってんだクソガキ共!!!!」

その時俺も一緒にフルボッコにされた。なんでも卒アルを出してきた共犯者という事でだ。





日を改めて、また不良三人組に校舎裏に呼ばれた。

「なぁ、あの人の弱みはなんだよ」

「虫が苦手とか、イケメンの男に弱いとかさ」

「虫は特に苦手だけど、アレは見せちゃダメ。最強伝説が」

家にたった一匹のアリが入ってきた。それは俺が丁重に外に逃がしてあげたのだが、姉は酷かった。ぎゃあぎゃあ騒ぎ家の中を破壊する一歩手前まで来た挙句泣き叫んだかと思えば、泣き疲れて寝るのだ。

「ねぇ。俺、思うんだけどさ」

「なんだよ。言ってみろ」

「今なら全ての発言を許す」

なんでそんなに上から目線なのかは気になるが、とりあえず至極真っ当な言葉を投げ掛けたいと思う。

「ガキみたいな事してないで、姉ちゃんの事口説いてみたら?そっちの方が利くと思うけど」

「だったらお前やってみろよ!」

「好きな女口説いて来いや!」

不良達に責め立てられて、好きな女子を口説きに行ったらその日の内に彼女が出来た。





「なぁ、家に来るのはいいけどさ。気合入りすぎじゃね?」

リビングのローテーブルの上には、有名ケーキ屋の苺ケーキ(ホール)。その近くには、今人気のから揚げ店の塩から揚げ。更にその周辺には特上寿司があったりする。

「誕生日じゃないんだぞ。ていうか、お前等何者だよ」

「…………親が政治家ってだけだ…」

赤頭がそう答えた。

「俺の父親、高級レストランのオーナー」

青頭がそう答える。

「うち、弁護士だ…」

紫頭がそう答えた。

俺にカツアゲした理由を問うとしょうもない答えが返って来た。「不良って、とりあえず喧嘩とカツアゲ、サボりだろ」基本であるので納得したけど、カツアゲの理由には納得出来なかった。

「まぁ、とりあえずだ。姉ちゃんの事が好きなのかどうか聞こうか」

「あ?別に」

「特には」

「とりあえずお前の姉ちゃんにギャフン言わせられればなんでもいい」

「帰れ」

不良三人は、真顔だった。

なんで家に来るんだろうとは思ったが、何をされるかわかったもんじゃないから黙っている。

「ただいまぁ」

「あ、」

姉ちゃんが帰って来たので出迎えに行くと、姉ちゃんは緑色のキャミソールに薄手のモモンガカーディガン、デニムのショートパンツを履いていた。見た目普通の女子大生だった。

「ねぇ、姉ちゃんさ。あのカラフルな頭の人達どう思う?」

「どうって?」

「なんか、格好良いとかさ。一応うちの学校では凄い人気の不良なんだよね。不良だけどさ」

悩み始める姉の足は、確実にリビングへと向いていた。そして毎回思うが、玄関に明らかに俺のではない靴が三足もある事になんのツッコミもないのだろうか。

「顔、見てないかも」

「え?」

「いつも出会い頭に殴り飛ばしてるもん。顔なんてまともに見てない見てない」

それは覚えてないだけでは?とは思ったが自分の命おしさに口にはしなかった。

リビングに入って、姉はキッチンに麦茶を取りに行ってしまった。さて、この状態にどんなリアクションが来るだろうか。

「あれ」

一瞬にして不良達の顔に緊張が走ったのが見て取れた。

「どうしたの、このケーキとかお寿司とかから揚げとか」

「………コイツ等が買って来たんだよ」

「そうなの?よくわからないけど、ありがとー」

ニッコリ笑って早速から揚げを突く姉の好物は、から揚げである。

「美味しい!」

ご機嫌な姉は、いつにも増してニコニコして幸せそうだ。それを食い入るように見る不良三人は、姉が食べているのが面白いのかジッとみている。

それはそうだろう。姉の食事を見て二度見しない方が少ない。姉の口は小さくて、その小さな口の中に無理やりから揚げを押し込んでいるのだが、頬袋パンパンにして食べるものだから、皆面白がって見るのだ。

「………おい、お前ちょっと来い」

そう言われて、不良達が座るソファに近付くとすぐに引き寄せられた。ちょっと辞めてほしい。

「なんだあの子供みたいに、頬袋パンパンにさせて」

「悪い男だったら間違いなく良からぬ想像膨らませるぞ。包丁持って来い。姉用に一口サイズに切ってやる」

「あの幸せそうな顔もダメだ。無防備過ぎるぞ」

いきなり過保護な発言をし出す不良達にどうしたものかと、ちょっと動揺する。さっきアレだけ何も思ってないと言っていたというのに、姉にニコポでもされたのだろうか。あり得ん。

とりあえず、果物ナイフをローテーブルに持ってきてすぐに、青頭がから揚げを一口サイズに切る。

「わぁ、ありがとう。食べないの?」

「うん。食べる」

箸を持って、寿司を突く。

不良三人も大人しく箸を持って、から揚げと寿司を突く。ケーキは食後のデザートだ。

「なぁ、姉ちゃんって彼氏とか居んの?」

「え?それはリア充になったからっていう上から目線のセリフ?それならお姉ちゃんへの嫌味?」

「違うっての」

割り箸がバキッと折れ、哀れな割り箸は新しいものに代える。

その間、姉をジッと見つめる不良達は挙動不審だった。割り箸が折れた瞬間のアイツ等の顔は、ビビりまくっている顔をしていた。とてもじゃないが、普通の女子大生に対する不良の顔ではないだろう。

「で、その三人はアンタの友達?」

「いや、」

「はい!友達として仲良くさせてもらってます!!」

「いつもお世話になってます!」

「むしろの心の友です!」

心の友とか、何年ぶりに聞いた言葉だろうか。

青い狸にしか見えない猫型ロボットが主人公のアニメのガタイの良い男子小学生が映画になると頻繁によく使っている言葉だ。最近、聞く度に「なんて陳腐で調子の良いセリフ」なんだと思うようになった俺は、社会の厳しさを見てきた証拠なのか捻くれた感想が出てくるようになった。

「そっかそっか。弟がいつもお世話になってます。ところで、弟から聞いたけど三人共綺麗な顔立ちね。さぞかしモテるんだろうね」

ニコニコと笑っている姉の箸には、大トロが挟まれていた。なおもご機嫌な姉に、内心ビクビクしているであろう不良達に向って、内心嘲笑った。

でもビビる気持ちはわかる。何が起こっても不思議じゃない前触れに思うもんな。

「好みのタイプはなんですか」

なんで、そんな引け腰なんだよ。

「んーとね。お相撲さんかな」

姉は極度のデブ専だった。

この不良三人よりも、総合テレビでやっている相撲中継を見る事にいつも命懸けである。でもまぁ、居ると思う。こういう女の人は。

「今からでも遅くないと思うか?」

「血迷うな。辞めろ」

コイツ等、太るつもりか。世の女性陣に殺される。

主に姉は平気だろう。なんせ怒った時の怪力が半端ないのだ。逆にそれを知っていて喧嘩を売る勇者はこの不良三人のみだろう。

「食べないなら私が全部食べちゃうよ?」

「あ、食べる食べる!」

姉の食欲は極々普通だ。一般女子大生と同じ胃袋を持っている。俺はそこにしか安心は出来なかった。




その日から、不良達は手土産片手に度々我が家にやってくるようになった。

姉は気付いてはいないが、逆ハーレムを作っていた。彼女に言われてよく観察していれば、本当の事で戦慄した。

「なぁ、お前等姉ちゃんの事が好きなの?」

「そ、そんな訳ねぇだろうが!あんな怪力女のどこを好きになれっていうんだよ!」

「男で、しかも不良の俺達をノックダウンさせる女を女とは思えねぇよ!!」

「顔を中心的に殴りつけるとかなぁ、イケメンに何か恨みでもあるのかよ!」

家の中でそう叫ぶ不良達は忘れている。キッチンに麦茶を取りに行った姉が戻ってきている事を。そして、その姉の目が完全に据わっている事を。ここまで言えばお分かりいただけただろう。


不良達は、例の如く姉に絞められたのだった。


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