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ゆやの物語  作者: ゆや
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村娘の姉が帝王の嫁になりました。

村娘の姉が帝王の嫁になった後、取り残された家族の話。

帝都に程近い村には、よく騎士達が派遣される。妖精達が集う村として守護されているのだ。そこには、よく王子達も一緒に来る事があった。そんな時、母と父はいつも家の中に私を押し込めて隠した。

そして、美しい姉がよく王子達の前に姿を現していた。姉は、妖精達の言葉を伝える神子である。姉にしか聞く事の出来ない言葉を王子達に伝えるという仕事をしているのだが、この度、姉は第一王子の所へと嫁ぎます。国の王子達は傾国の美男子と言われている。言いすぎだ。というのが私個人の感想だ。結婚式は、この村で行い、妖精達の祝福を得るのがこの国の定番である。故に、結婚式シーズンはガッポガッポかせ…ゴホン。




その昔、世界は荒れていた。魔物が跋扈し、人々は魔物の食糧だった。被害は村から村へと広がり、村から町、町から国へと拡大した。そんな状況下、人々の唯一の食糧であった作物など育つ訳もなく、飢餓にも苦しんだ。飢餓から次に起こったのは感染だった。作物から感染し、動物から人へ感染し、世界は疲弊していった。高等する物価に、悪政を敷かれ、毎日のように増加されている税金に、下の者は死んでいくしかなかった。そんな時、一つの国が、勇者を派遣した。魔物を倒せる唯一無二の聖剣。そして、その正義感溢れる優しき青年は、魔物を根絶やしにし、悪政を敷いていた国の政治をも徹底的に修繕し、飢餓に苦しんでいた民には、配膳を、感染病に掛かった民には薬と癒しの魔法を。

1つの国を救った勇者は、今度はこの世界全体の本当の意味での勇者となったのだ。

そんな折、勇者は生まれ故郷であるこの村に帰って来た。幼い時から一緒に幼馴染の神子と結婚式を挙げたのだ。妖精達は、それはそれは盛大に祝福を与えた。

そうして、この国は以後、大帝国として世界中に名を馳せる事になったのだ。以来、帝王として将来を約束された王子は神子を娶る、という風習があったのだ。今回もその風習に王子達は乗ったに過ぎない。





悪習、という訳ではない。妖精達の信頼を買うのは帝国存命のためには必要な事であるのは知っている。この帝国は妖精達に守られているのも。私は妖精達の声を聞く事は出来ないけど、他の女の子と同じで、憧れているのだ。夢見る少女のように、王子様との結婚を。ただ、誰もが知っている。憧れているだけで、女の子はとても現実的なのだ。だから、手ごろな村の男性と付き合うし、結婚もする。たまに外国の人に嫁いでいく人も居るけど、所詮、相手は庶民の類になる。

「ティルベも、早く結婚してお母さんに孫の顔を見せて頂戴ね」

「わかってるわよ」

夕飯の準備を手伝いつつ、母も父も知っているのだ。嫁に行ってしまった姉とはもう二度と会う事がない事を。そして、姉の子供を見る事すら出来ない事も。両親にとって、悪習でしかないこの風習は、神子の親になれば名誉な事であると同時に、悪習になってしまうのだろう。姉の結婚が決まった時、誰よりも両親は落胆していた。日が落ちて、夕ご飯を食べ、家の灯を落としてから両親は毎晩泣いていた。ただ、姉との別れを悲しんでいた。

また、姉も姉で、夜になると窓辺に座り込み星を毎晩見ていた。姉には、想い人が居た。ずっとずっと想い合っていた。たまに、泣く所も見た。

「そうだ。結婚しなくてもいいわよ。孫の顔だけ見せてくれればいいわ。後は家に居なさい。寂しいったらないわ」

「………それも、いいかもしれないわね」

祝福ムードの中、私の家族だけは暗い顔をしていた。姉が神子で無ければ、私達家族はただの村人でしかなかったのだ。





村の収入源となる挙式以外に、妖精達の加護がある農作物は特産品でもある。私は、挙式の方で仕事をしているが、神子と第一王子の結婚式以来、予約が殺到している。貴族達もここを挙式に選ぶ者が多い。貴族達の結婚式は注文と文句が多くて気が滅入る。だが、その後にやる一般市民の挙式は気が楽である。

「ティルベ!今日の挙式終わったら、一緒に飲まない?」

そう誘って来たのは友人だった。女の友人であるその子は、気心が知れていて、いつも私の相談に乗ってくれる。友人からの相談事の方が多かったりするが、口も堅くて気が合う友人は、私にとっては親友に当たる。

もちろん、姉の事も相談していた。羨ましがる訳でもなく、妬む訳でもなく、ただ真剣に一緒になって悩んでくれた。そんな彼女は今年、結婚したばかりだ。

「旦那さんがまた泣くよ?」

「泣かせておきなさい」

お前の旦那だって、言ってんじゃん。とは言わない。彼女の旦那はヘタレで妻の事をこよなく愛している。ヘタレだけど。

「ティルベもさっさと結婚しちゃいなさいよ」

「そうね」

そして、早く姉の事を忘れなければ。

もう姉は戻ってくる事はないのだから。




挙式が終わり、友人何人かで唯一の酒場で飲んでいた。その場に居た貴族様のご友人達も飲んでいた。その貴族様方は随分と心が広いのか、酒場は貸し切らずに村人達と一緒に飲んで盛り上がり、出来上がった私は一夜の過ちを犯した。だが、それは他の者も一緒だったりする。酒の魔力とは凄まじかった。

そして、朝になって全く足腰が立たなくなってしまった私は文字通り、床を這い蹲って早朝の宿屋を後にした。腰の痛めた老人よろしく、私はそこら辺に堕ちていた棒を杖代わりにして、家に帰った。なかなかの帰巣本能だったと思う。

帰って来た私を見た母は、「お隣のお婆ちゃまの歩き方と一緒よ」私の何かが失った。

「まぁ、入りなさい。お風呂を用意するわね」

「ありがと」

そう言って、なんとか二階に上がり、自室のベッドに転がりうとうとしている頃に、下から戸を叩く音がした。

「あらあら」

母が出たようだ。

窓を開けて空気の入れ換えをしているので、下の会話が丸聞こえだ。

「朝早くに申し訳ない。娘が居るはずだ。今すぐ会わせてほしい」

「…娘?今は、老人のような子と夫しか居ないのだけれど」

「そうか…」

ちょっと待て。

誰が「老人のような子」だ。男も何か大きな勘違いをしている気しかしない。

母は、天然である。昔私が、母に対して父に「ねぇ、どうしてママのお話はへんてこなの?」と。我ながら酷い事を言った自覚がある。父が用意していた答えは一択だった。「ママはね、妖精なんだよ。だから、少し言動が変でも普通の事なんだよ」と。父も酷かった。姉は母似で、私は父似だった。

「いやちょっと待て。老人のような子ってなんだ。どんな子だ」

「どんな子って、そんな子よ」

その返答はちょっと頭がおかしい。お父さん、お父さんは居ないのか。

「妻が申し訳ございません。話を聞かせ願いますか」

「はい」

タイミングよく、お父さんが起きてきたようだ。寝起きの声は随分と機嫌が悪そうだが、言葉が随分と畏まっている所を聞くと、貴族様なのだろうか。

「昨夜、友人の結婚式があって私はそれに出席していました」

その後、酒場へ行き酒を飲んで、運命を感じた女性と一夜を共にした。手放したくなくて、逃がさないように丹念に足腰が立たないぐらいに抱いたのだが、甘かった。朝瞳を覚ますと彼女は居らず、村中探し回ってここに辿り着いた、という。

私じゃないか。

「申し訳ありません。ですが、私達の娘は帝王の妻です。居る訳がありません」

「……帝王の…では、彼女はアナタ方の…」

「…っ…」

お父さんが私を隠す事にしたようだ。

しかし、腰が痛い。体も清めたいし。そういえば、あのお貴族様は避妊、してないか。

わかってたけど、まぁ、これで子供が出来ればお母さんの望みは叶えられる訳だし、結果オーライと言えば、聞こえはいいが未婚のまま子供を産むとなると、世間体が悪い。

「そうでしたか…」

「申し訳ありません。娘はもう二度と帰って来ません。それどころか、二度と会えもしません。気が病んでいるのです。どうか、私共を放って置いてください。お引き取り願いますか」

渋々といった感じで、男は帰って行った。





それから、数年が経った。

私に子供が産まれた。未婚だったけど、お母さんのために子供を産んだ。お父さんもお母さんも初孫にデレデレで、何よりも幸せそうだ。姉の件以来、笑顔を見せる両親に、私はホッとした。

子供は、男の子だった。緑色の瞳に銀色の髪の天使のような子だ。妖精達と言葉を交わせ、朗らかに笑う我が子は、私には似なかった。あの男の子供である事を知らせるように、産まれた時から端麗な顔立ちをしている我が子は、村の妖精達からも、村の女の子達からも人気だった。

たまに、あの一夜の過ちを思い出す。

銀色の髪に、緑色の瞳をした美しい男。身長が高くて、未婚で、話を聞けば帝王の親衛隊隊長の騎士様だと言う。屈強と言うよりは、しなやかな身体で素晴らしい肉体美だった。

洗濯物を干しながら、鼻歌を歌っていると、息子とお父さんが返って来た。

「お母さーん!お爺ちゃんがね、これ買ってくれたの!」

そう言って、見せてくれたのは刃が潰れた剣だった。

「スフィナ、良かったわね。怪我しちゃダメよ」

とか言いつつ、お父さんを睨む。

「すまない。いつもいつも、厳しくと思っていたんだが気付くと買っていてな…」

森の熊さんのようなガタイの良いお父さんは、背も高くて横幅もある。村の筋肉自慢大会などというくだらない大会にも毎年出ている。だが、天然母にはちょうど良いのである。

お父さんは、お母さんよりもしっかり者なのだ。だけど、孫が産まれてしっかり者が、徐々に崩壊していっている。

「全く、呆れた。スフィナには勉強しなきゃいけない時間もあるのに、なんでもかんでも買い与えないで!」

その時、カンカラカン…ッという音が響いた。後ろを振り返ると蒼い顔をしたお母さんが立っていた。お母さんの足元には、お父さんが買った剣とはまたデザインの違う剣が落ちていた。

「………わ、私も、買っちゃった…!」

「…………」

絶句するしかなかった。





結局、スフィナは両親が買い与えた剣を気に入り日替わりで使うそうだ。気遣いの出来る子というのは気苦労も絶えないだろう。

「お母さん、おやすみなさい!」

今日の分の勉強も済ませたスフィナは私の横に寝転び、スヤスヤと眠る体制に入っていた。ドアの隙間から、私の両親が羨ましそうな瞳で見ているのを無視した。

「おやすみ、スフィナ」

私は、随分と芋臭い容姿をしていると思う。美しかった姉は、蛙から鷹が産まれたぐらいに両親よりも、姉の方がハイスペックだった。姉は、元気だろうか。


その日、私は夢を見た。


銀色の髪に緑色の瞳をした男が、スフィナの剣の稽古をしていて、私はその光景を微笑ましく見ているだけの夢だ。とても幸せで、とても優しい夢は、夢を見ている時でも、夢であるという事がわかった。私は、あの男の事が好きだったのだろうか。少なくとも、スフィナの事に関しては愛している。幸せになってほしいと心の底から願っているからね。





スフィナが12歳になった頃、スフィナは私に「騎士になる」と言って来た。そして、翌日の事だった。

「スフィナ、脇が甘い!もっと締めるんだ。それぐらい出来なきゃ騎士なんてもっての外だ!」

「ご、ごめんなさい…っ!」

スフィナと同じ、銀色の髪に緑色の瞳をした長身の体躯は、あの時から衰えているのかは、わからなかったけど、相も変わらずしなやかな筋肉をしている。

驚きのあまり、私は手にしていた野菜籠からトマトを取り出し、男に投げ付けていた。トマトは見事に男の頭にヒットして、トマトの汁塗れになっても良い男は、腹が立った。

「まさか、出会い頭にトマトをぶつけられると思ってもいなかったぞ」

「何してんのよ。ここで」

「俺の息子が、俺と同じ騎士になりたいと言ったのを聞いて、それならば稽古を付けてやろうと」

「そういう事じゃないわよ。ていうか、なんでそんな事知ってんのよ。言ったのはつい昨日の事よ」

身長が高過ぎて、首が痛い。

「お母さん?」

「スフィナ、知らない人に付いていったらダメよ」

「でも、妖精さん達はこの人は大丈夫って言ってるよ」

妖精共!

初めて私は、妖精に殺意が沸いた。

「噂には聞いていたが、妖精と言葉が交わせるとはな。流石だ」

誰と比べているのかはなんとなくわかった。

もう血筋じゃね?とか私も思ったけど、それは偶然の事らしい。その証拠に村の中で、妖精と話せる子がもう一人居る。その子も男の子だった。

「何が流石よ。アナタ貴族でしょ。もうここに来るんじゃないわよ」

「もう、限界なんだ」

「は?」

色々と話を聞いたが、男はつまりまとめると、13年間もの間、私とスフィナをストーカーしていたそうだ。本人は見守っていたと言い張っていたが、ストーカーです。

それから、私と、私の両親で色々と話し合いをした。結局私が「結婚は出来ない」と言い張ったが、スフィナに甘い三人は、「お爺ちゃんとお婆ちゃんと離れたくない。でもお父さんとも一緒に居たい」というスフィナの鶴の一言で、我が家の隣に騎士様が家を建てて住む。という事に落ち着いた。





話し合いが終わり、スフィナが両親と一緒に夕飯の買い物に行ってしまって、騎士様と二人きりになった。

「ティルベ、本当に愛してたんだ。あの一夜からずっと君だけしか見えていなかった。だから、今度からは一緒に住もう。もう、見てるだけは堪えられない」

何故か、涙が零れた。

久しぶりにしたキスは、しょっぱかった。


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