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ゆやの物語  作者: ゆや
16/20

私の好みの犬種はラブラドールです。

恐怖の大魔王として世界中から恐れられていた主人公はある日、チート過ぎる村人に全ての権力を奪われた。村人はB専。フレンチブルドッグが一番愛すべき犬種で、その次にダッグスフンドである。現魔王×元魔王の攻防戦。

いきなりではありますが、私は世界を恐怖のどん底に陥れる、恐怖の大魔王です。


まずは、私の経歴を紹介しようと思います。

まず、人間の世界へ赴き地を荒らします。気分は「ふはははは。どうだ人間ども参ったか」と言った感じでございます。

次に、とある国の城壁にデカデカと悪戯書きをします。気分は「ふはははは。どうだ人間ども参ったか」と言った感じでございます。

その次は、村を火の海にしてやりました。そのような悪事を次々と行い、従って私は恐怖の大魔王になったのです。





そして、今現在の事です。

私の目の前には勇者でもなく、聖女でもなく、ましてや大国の王子などではない、ただの村人が立っていた。

なんの武装もしているわけでもなく、筋骨隆々な訳でもなく、極々普通の美け…普通じゃないか。この魔王城、実を言うとそこまで丈夫な作りになっているわけではないが、それこそ筋骨隆々の中ボス以上の魔物達が闊歩している。だがしかし、その村人の背後にはなんという事でしょうか。我が下僕であるケルベロスが村人に傅いていた。しかもお手、おかわり一周回ってワン!も完璧に躾けられ、ただの犬と成り下がっている。

何この村人怖い。

「申し訳ございませんが、アンタ何者でしょうか」

敬語が敬語じゃなくなっている。

ていうか、よく村人の背後見たら、他の中ボスのモンスター達もこの村人に傅いていらしゃった。マジ。何この村人超怖い。

「そんなのはどうでもいいから、ここ明け渡してくれませんか」

なにゆえ、疑問形ではないのだ。

「でなければ、」

「でなければ、なんだ」

トテトテと村人は我が城自慢の黒い柱に歩み寄り、ドゴバキィッと不吉な音を立てて、一本の柱をへし折った。

え、何この怪力。茶髪で緑色の眼で長身の超絶なイケメンなのに、それを台無しにするような怪力。容姿的には、田舎で田畑を耕している姿がとっても似合う、爽やか系かつ癒し系なのほほんな子犬な感じのイケメンなのに、え、怪力。

え、なにこのギャップ。誰も求めてなんかいませんけど。え、怪力って。わらわらわらと何か草的なものを言葉の最後に付けたくてしょうがない。

「……………」

パラパラと天井の破片が降ってくるのをただ見守っていた。あ、あれだ。ここは自分の身の可愛さにとっとと逃げて、私も憧れの田舎暮らしに挑戦してみようかな。

覚悟を決めて、グッと顔を上げる。そうだ、いっそ明け渡してしまえ。恐怖の大魔王も尻込みしちゃう村人なんてチート過ぎんだろ。ふざけてんのかこらー←小声。

所であの村人、超絶怖いんですけど。

「んで、明け渡すの?」

首を縦に振る。それはもう凄い勢いで、脳内シェイクをする。

村人怖すぎて、恐怖の大魔王は混乱中ナウ。

「そう、それは良かった。じゃあ、俺の新たな住処となる魔王城の敷地内案内してもらえるよね」

「らじゃ、です」

弱気になるな魔王!私は人間から恐れられる悪の大魔王である。大丈夫。平静を保てばこの村人にいつかは勝てるはずだ。

「俺ね、長い髪の女って鬱陶しくて嫌いなんだよね」

え。爽やかな顔をしてなんか酷い事言いおった。この村人、見た目が爽やか系な美形なイケメンなのに、え。なんか女の大事な部分全否定されたんだけど。え。

「切って」

「あ、あの…」

「ん?」

なんともまぁ爽やかな顔をして、男の背景は黒一色とか、村人の皮を被った何かである事は間違いない。なんだこれ。え、すっごく怖い。尻込みしちゃう。

でも、これだけは言わなければいけない。これすっごく大事。

「私のこの黒い髪には私の全魔力が込められている。髪を切るという事は世界を地獄に変えるぞ」

髪を切った瞬間に、溜まりに溜まっていた魔力が解放され魔力の大爆発が起きる。大地は割れ、天災が起き、魔力に充てられたモンスター達は人間界に放し飼いにされる。その意味がこの男にはわかるだろうか。わかるわけがない。なぜならば、私は恐怖の大魔王でこの男はただの、ただの?恐怖の村人にすぎないのだから。

「え、心底どうでもいい。見苦しいから早く切ってね」

え。

恐怖の大魔王の異名はどうやらこの男に相応しいようだ。

「いやしかし。そうあっては世界のバランスが崩れ」

「あー。どうでもいいよ。自分が良ければ全て」

え。

こいつ引く程自分主義者じゃないか。マジドン引き。

踵まで届く長い艶やかな黒い髪は一種の私の自慢である。私は見た目妖艶な美女だ。しかし、それは魔力によって姿を変えているに過ぎない。本来の私は雀斑があって、寸胴な体に、短い手足。下僕共から、ダッグスフンドと呼ばれていた。呼んだものには問答無用で、世界の星屑にしてあげた。良かったな、下僕共。私が優しくて。

「早く髪切って。鬱陶しい」

「この私の麗しい姿が目に入らないのか!」

「…………確かによく見れば綺麗だけど。それだけじゃん」

ガンッ

私の脳内に衝撃が走った。その衝撃は、父が私に向って「ダッグスフンドと間違った」という衝撃と似ている。どれだけは私はダッグスフンドに似てるんだ。あれだぞ。犬だぞ。確かに可愛いけど、手足短いじゃん。私はラブラドール派なのだ。あの犬犬しさがいい。

「俺B専なんだよね。綺麗な子って確かに綺麗なんだけど、個性ないじゃん」

個性求めんな。

「俺なんか、この力があるだけで個性の塊だよね」

納得しかできないが、それでいいのか。村人。

「…さようで」

「俺の好みはフレンチブルドッグ。あの弄りがいのあるあの顔大好物だね」

心底私は、ダッグスフンドタイプで良かったと安心した。

だがしかし、この男の前で変身を解くのはダメだ。何故か身の危険を感じる。こういう時の勘は凄く当たるのだ。

「……ここが代々魔王の部屋だ」

とりあえずこの城をこの男に明け渡したら、逃げよう。そう心に誓い、城の案内を一通り済ませた所で、客室に行く。そこは毎日メイド達が掃除しているため清潔さを保っている。

部屋に鍵を掛けてから、変身を解いてからシャワーを浴びに風呂場に行った。





翌日、目を開けると目の前には村人が居た。

そのお綺麗な顔は今、見る事のできない緑色の眼が閉じられている。

え。

何、これ。どこの王道少女マンガだとツッコミを入れる。え。ツッコミが追い付かない。

なんか、あれ。

頭、超軽い。

あ、あれ。

なんか村人の髪色が黒くなっている。

あ、あれ。

ツッコミ、全然追いつかないのだけど。

「んー」

ギュムっと、抱き締められる。

忘れてはいけない。この村人は怪力である。甘い妄想抱いているようなら、ホームラン級の飛ばし方で、打ち返してやる。

私の背骨がボキボキ逝ってます。呼吸がまともに出来ません。今にも死にそう。あ、川の向こう岸にお父ちゃんとお母ちゃんが見える。

「生きてますけどっ!」

死ぬ気で村人が寝ているベッドから這い出て、全身が写る大きな鏡に自分を映した。茶色い髪、茶色い眼。雀斑の残る顔。短い手足元の姿に戻っている。なんて事だ。しかも、髪が肩ぐらいまでの長さに切りそろえている。多分あれだ。村人が私の魔王としての力を根こそぎ奪ったのだろう。

こんちくしょー。

家出してやる。

そう思って、魔王の部屋の扉を開けようとするとビクともしなかった。

「………なんで」

「なんでって、そりゃ。お前、魔力で自分の力を補強してたからだろ」

「ひいいいいいいいいい」

「自動的に、お前ここに監禁だな」

驚愕した。

なん、だと…!?

「嘘だああ!」

ドンっバシっドンっバシっと魔王の部屋の戸を強く叩くがビクともしない。元の私どれだけ軟弱なんだ。酷いだろこれ。

「ダックスフンドはフレンチブルドッグの次に可愛いから可愛がってやるよ」

「いーやーだー!」

ドンっバシっドンっバシっと魔王の部屋の戸をさっきよりも強く叩き付ける。

「あー可愛いなっ!短い手足バタつかせて可愛いなっ!」

死ねばいい!!

ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、今度は肋骨が悲鳴を上げていた。結局この日、全身骨にヒビが入って寝込むだなんてありえない体験をした。




別の日、

「ルディ!今日はルディに似合いそうな首輪を買って来たぞ」

「ぎゃあああ!!」

ルディとは勝手に、元村人、現魔王である男が付けた名前である。エミリーという私の本名が気に入らなかったらしい。よし。私の両親に頭を下げて謝れ!

男の手には、黒い首輪が握られていた。それでいくつ目だ。考えて買えよ!無駄遣いめっ!

「きょ、恐怖の大魔王様に首輪なんぞ必要ありませんっ!」

「っは」

鼻で一笑しただけで、男は何も言わなかった。それどころか、イソイソと私の首に新しい首輪を付け始めたのだった。

「ほーら、今度は迷子になった時も大丈夫なようにルディの名前とここの住所を入れといたからな」

デレデレと顔を蕩かせる男の名前はレオンというらしい。なぜこのタイミングに男の紹介をしたのかというと、今私の首に巻き付いている黒い首らにはデカデカとレオンの名前が書かれているからだ。

え。

なにこれ。なんのギャグ。

センス悪すぎ。

「あーやっぱり犬って可愛いよなぁ。癒されるわ」

私は全く癒されませんがね。

ちょっ!どこ触っているんですか!



いつかこの変態から解放される事を心の底より願っています。

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