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ゆやの物語  作者: ゆや
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今日、私は死にます

前世は極悪非道の殺戮者であったヒロイン、キースは、今世は大人しく慎ましく山で一人暮らしていた。そんな折に、前世国の姫だった男がキースを訪ねてきた。元姫の男は、キースの事を前世から愛していた。誰よりも愛し、自分のモノにしたかったのだった。

前世ヤンデレ姫×前世悪党な平凡ヒロイン

盗賊をしていた。


人を何人も殺した。


奪える物はなんでも奪った。


愛した人間は居なかった。




正直どう考えたって死刑になるだろう事を一つの人生を終える中で何度も何度もした。普通の女の服着て、平気な顔をして女だろうが子供だろうが、年寄だろうが関係なく殺してきた。

償いきれるわけのない非道な事もした。

金も奪った挙句に屋敷に火を付けた事もあった。メイド服を着て王宮に潜り込み、国宝級のアクセサリーを奪いうっぱらった事もあった。今回はそれがバレて俺は死刑にあう。

別に未練はない。

俺には親というものがいなかった。物心着いた頃から盗賊に育てられていた。盗賊に育てられ、そして最初に殺したのはその育ての親であるはずの盗賊だった。俺が寝ている時にいきなり襲ってきたのだ。驚いて抵抗した挙句に殺してしまったが後悔は何故かなかった。

「言い残した事はないか」

審判の時が近づいていた。

俺でも思う。俺は最低な事をした。それに対して、言い残した事などあるはずもなかった。

「んなもん、ねぇよ」

ギロチンの窪みに首を乗せる。

昔から、感情が抜け落ちたような男だったらしい。俺は結局人間らしいところ一つなく死んでいくんだろうな。別にそれでも構わないけど。


もしも、生まれ変わる事が出来るなら、今度また人間は嫌だな。


風を切る音はした。でも、痛みはなかった。






綺麗な青い空に向って手を伸ばす。

私は一人、山小屋に居た。本当は婆さんが居たけど、それも死んでしまっていない。正真正銘私はぼっちである。

薬草を摘みに出かけたはいいが途中で飽きてしまったのだ。山が空けた所に野原が広がり、白や黄色、桃色の花が自生していた。そこへ寝転がって、手を伸ばしていた。

私には前世の記憶がチラホラある。断片的ではあるが、鋭い大きな刃で首を落とされる夢をよく見る。貴族の屋敷に火を付けた事や、人を殺す夢等よく見る。私自身は何もしていないが、前世かなりの悪人だったのだろうな。

「………そういえば」

最近、追いかけ回される夢もよく見るようになった。

綺麗な人だった。クルンクルンに巻かれたプラチナブロンドの髪に絵本で見るようなドレス。顔は美少女といえばいいのだろうか。とても美しい少女に私は追いかけ回され、挙句に押し倒されハァハァ言われていた気持ち悪い夢を見る事もある。素直に気持ち悪い。嫌悪感むき出しである。

まぁ、独りな今、私には関係のない事である。

「明日は、ダラダラするか」

選択して、街へ売る薬草を乾燥させて、選択してパンの生地も練らなきゃいけないな。なんて思っていると私の顔を覗きこむ一人のプラチナブロンドが視界に入ってくる。なんだろ。とっても嫌な予感しかしない。

「みーっけた」

何故だろう。夢の中の美少女と重なった。

「ここで食べてもいいよね」

プラチナブロンドの男はなるほど美しい容姿をしていた。癖毛なのか緩ーいパーマの掛かった長髪を後ろで括り、お綺麗な服を纏っている。

「…んっ!!?」

口を、男の艶々プルプルの唇で塞がれ、そのまま強姦された。そしてそのまま私の家にちょうどいいと勝手に入られ体を貪られた。離されたのは、三日後の事だった。

「運命だよね。私は、前世君を心の底より愛していたのに、君はそれを裏切ったんだ。国宝を奪った挙句に金に換金して、それで捕まるだなんてどれだけおまぬけさんなの。バカな人程愛しいとはよく言ったものだけど、アレはやりすぎだね」

「…な…っ…」

「声出ないの?相変わらず可愛いなぁ。キースは前世から可愛かったよね。女装も良く似合っていたし」

なんで知っているの。

確かに、女の格好ばかりしていた気はするがそれは女だからじゃなかったのか。どういう事だ。

「混乱してるの?キースは恥ずかしがり屋さんだったからね。前世の事は思い出さなくていいよ。これからは俺と住むんだから必要ないよね」

どういう事?

私はここでぼっち生活を満喫するのだ。邪魔は許さない。そう思って、声が出ない代わりに男を睨み付けるが、逆効果だった。疲れ切った私に覆い被さりまた行為を始めようとする男から目を逸らし、力を振り絞り言う。

「そういう事する人大嫌い」

ピタリと男の手が止まり、目から光が退いて行く。

なんだ。私は今、何をやらかした。

「………だい、きらい…?そんな事言うの…?」

震えた声で男は体を震わせ、私の首に手を回す。

「こんなに、私は、キースの事を愛しているのに…?どうして、キースは私を愛してくれない…」

徐々に首を絞めて行く男に抵抗見せるが如何せん。体が思うように動かない。主に腰が。

「そういえば、私の名前も呼んでくれなかった。どうして!」

「っ…!」

「キースには私だけいればいいだろう!他に何がいる!!私以外の人間がお前に必要なのか!違うだろう!!私が、私だけがキースを愛せる!」

まずい。

癇癪持ちだったのか。面倒な事上なく、首も締まってきている。このままこの男に殺されるのは勘弁してほしい。私は一人で寂しく死にたい。

「…あ、」

「…!!?」

私の首から勢いよく手が離れ、不足した酸素を取り込むのに体が必死だ。咳き込む私の背中を優しく撫でて落ち着かせようとしてくれているのか、その手つきに厭らしさはない。

「ごめんね、キース。でもね、キースが私の事を大嫌いだなんて言うから、ごめんね。もう酷い事はしないよ」

酷い事をした自覚はあるのか。

男の方を見ると、涙ぐんでいる姿が目に映った。

「大好き。愛してるんだ…」

ぎゅうっと息ができないぐらいに力強く抱き付いてくる男の背中をポンポンと軽く叩いてやる。静かに泣いているのか、たまに嗚咽が聞こえてくる。

「ね、ねぇ、」

ベッドの上、徐々に男の体が下に下がってきて、今現在男の頭は私の腕の中に居る状態である。

「何?」

「名前は?」

「え」

私の腕の中から見上げてくる顔は、何度見てもやはり整っている。

「悪いけど、私には前世の記憶を持ち合わせてはいない。たまに夢で見るぐらいなものだ。だから、アナタの事は知らない」

ポカンとした顔をして、私を見る蒼い目は見開かれている。

かなり驚いているのだろうな。私も、この男と同じように前世の記憶があるものだと思っていたのだろう。

「そうだったのか。別にいいけど。私は、前世姫だった。キースはメイドで入ってきてね。その時からとてもとても、格好良かった」

メイド服着ているのにか。

「だから、キースの居る所には必ず出くわすように罠を張っていた」

だからか!なんで色濃くあの美少女の夢を何度も何度も見ると思ったら!執拗に迫られていたんだな。前世の私超可哀想。

「まぁ、それだけじゃなくて押し倒したりもしたっけな。でも、キースは何も言い残さずに死刑にあった」

「死刑?私、かなりの悪人だったわけ?」

「物凄い悪人だったよ。人を人とも思わない殺し方や、盗み。非情だったと言われていた。その内国際手配犯になってね、おまけに城で管理していた国宝盗んだからね、死刑を免れるはずがそもそもでなかったんだ。だけど、殺す時は私がこの手で君を殺したかったな」

こいつ、精神的にかなり病んでる。

それに私は捕まったのか。絶望的だ。さて、どうやって逃げ果せるか。

「でも大丈夫。もうそんな心配はないよ。キースは私のもの。永遠に。ねぇ、次に目覚めた時はキースは私を愛しくて愛しくて仕方がなくなるんだ。だって、私しかもう見えないでしょう?」

そう言われて気付く。

意識がなんだか、遠いような。でも、この男の顔はよく見えた。目が、酷く熱くて涙が出る。

「キース」

唇に柔らかな感触。

「催眠って知ってる?」

口内を荒らされ、身体を良いようにされ、気持ち悪いはずなのに。

「これからキースは私のものになります。心は要りません。アナタだけが手に入れば私は、地獄に堕ちたっていい。アナタと共に」

最後に抱き起され、抱きしめられた。

「行きましょうか。私達の楽園へ」

一体どこに連れて行かれるのかはわからないけれど、抵抗しなければ一生どこかへ閉じ込められる気しかしない。そんなの絶対に嫌だ。こんな精神的におかしい奴。最初から碌でもねぇって思っていたけれど、そうか。あの前世の夢を見続けていたのは、警告だったんだ。故に、私は今までで一番の抵抗を見せる事にした。

「うっせぇ!!!」

ガツンとあの美麗な顔の下顎に、私の石頭がヒットした。

身体はだるいけれど、逃げ果せる力は多分残っている。多分だけど。

相手が油断し、スタっと地面に着地する。私の人生でこんな事初めてな気がするけど、頭は初めてではないのだろう。もしもの事があればと思い、用意していた逃走用荷物。なぜいつもこんなものを用意していたのか理解に苦しんでいたが、前世の私が極悪だったからだろう。

「わあああああ!!!!!」

「キース!」

痛みに身悶えている美形は何をしても美形なのだろう。逃げようとした私をあっという間に掴まえて、まさか外で致し、気絶した後、城の地下に幽閉されるまで後、5時間を切っていた。


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