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ゆやの物語  作者: ゆや
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静かに結婚させてください

ゴールイン間近のカップルは、その日雰囲気の良い喫茶店でプロポーズをし、それを受ける気満々で居た。居たのだが、それを邪魔し、あまつさえ二人の仲を引き裂こうとしたのは、両脇で別れ話をしていた二組の男女のカップルだった。

ラブコメディ全開短編。

女性の名は田辺真琴(たなべ まこと)。今年、25歳の中小企業に勤めるOLの女性。

男性の名は廣川圭太(ひろかわ けいた)。今年、26歳の大企業に勤めるサラリーマン。

二人の出会いはベタに、真琴が仕事で圭太が勤める会社に来た時にお互いに「良いな」と思って、連絡を交わし、何度かデートをしたり、仕事帰りに飲みに行ったりして、付き合い始め、そしてプロポーズして結婚。という所まで行く所である。

プロポーズする場所は、こじんまりとしつつもどこか上品な雰囲気のある喫茶店。圭太は真琴にプロポーズする為に、これまたベタに給料三か月分の結婚指輪を購入して、真剣な表情で真琴と対面していた。

店に来て、早一時間。本来ならもうすでにプロポーズして、真琴が「はい」と言ってめでたくゴールインのはずだった。真琴もそのつもりでこの喫茶店に居るのだが、雰囲気が雰囲気で、プロポーズするに出来ない。

原因は、真琴と圭太が座っている席の両方側にあった。先ほどから別れる別れないと言い合っている二組のカップルに挟まれてしまったゴールイン間近のカップルは空気を読んで、言うに言えない状況にあった。

二人は内心、どうしよう…と冷や汗をタラタラ掻きながら困惑していた。

「私の他に女が出来たって事!!?答えなさいよ、流星(りゅうせい)!」

「別れるってなんだよ!俺のどこに不満があるって言うんだよ!!星奈(せいな)!」

「「うるさい。そういうとこが嫌だ。別れるって言ってるんだから、別れる以外の選択肢は持ち合わせていない」」

別れを切り出していると思わしき男女は息ぴったり、発音ぴったりに言葉を紡がれる声は聊か不機嫌そうである。

「「それに、」」

これまた同じタイミングで、圭太と真琴に手が伸びてきた。

華奢な腕が、圭太の腕に絡みつき、真琴の肩には男らしい骨ばった手が置かれ、そして男女は言う。

「「この人、新しい恋人」」

ゴールイン間近のカップルである、圭太と真琴は目を点にした後、内心で絶叫した。

((はああああぁぁぁああっっっ!!!!!!!?))

「あら、これ私に?ありがと、大切にするわ!」

「え?」

「ほら、これ君に。将来誓い合った仲だものね?」

「え?」

気付けば、女の美しい左手の薬指には結婚指輪が填められ、それよりも高そうな指輪が、真琴の左手の薬指に填められていた。

「愛してるわ。子供は何人欲しい?私、頑張って生むわ」

「君の事、一生大事にするよ。なんたってこれから夫婦になるんだからね」

圭太と真琴はお互い見合って、ぶんぶんと首を横に激しく振った。違う巻き込まれただけなんだ。という意味を込めて。二人は必至だった。圭太の腕にべったりと張り付いて離れない、美しい女性と、真琴をしっかりと横から抱きしめる美しい男性を交互に見やりながら、二人は、今度は弱々しく首を振った。

自分にはあり得ないから。という意味で。










固まる二人の男女を置いて、喫茶店を後にした後、「じゃあ」というこれから帰るかという意味合いで別れる時に、圭太と真琴はハッと我に返った。

「ま、待った!!ゆ、指輪、返してくれ!」

「と、とりあえずこの指輪返します!」

「「なんで?」」

いや、なんでじゃないし。二人の麗しい男女が至極不思議そうにそう返してきた事に二人は焦った。このままでは最愛の人と結婚出来ないではないか。その前に誤解解かねば…。という二人の焦りを丸々無視して、帰ろうとするよく似た男女を引き留めて、近くの公園のベンチで事情を聞き出す。

「あの男、束縛酷くて、私が女友達と遊び行くって言った時も「ダメ」って言うの。だから別れようと思って、あの喫茶店で別れ切り出したら怒るんだもの。何がダメって、今までの行い全部振り返ってから言ってほしいわ!」

「あの女も。束縛酷い癖に、浮気しててさ。俺の気を引かせたい為なのか、それとも俺も浮気相手の一人なのかどうか知らないけどさ、言ってる事全部矛盾ばっかで凄くウザかったんだよね。だからあそこの喫茶店で別れ切り出したんだけど、癇癪起こされてね」

巻き込まれた。瞬時に思った二人は、ため息を吐き出した。事情は分かったし、二人のこの容姿ならそういう事に巻き込まれてもおかしくはないだろう。

男女共に彫りが深い端整な顔立ち。女性の方は、腰までの美しい黒髪を揺らし、華奢な割に、豊な胸と、思わず抱き寄せたくなるような細腰と、セクシーに伸びた美脚。女として、真琴は完璧に負けている。

一方、男性の方は、前髪は長く、襟足まで伸びた美しい黒髪を掻き上げる。肩幅が広いのに、腰は細く、足はスラリと長い。服の上からじゃわからないだろうが、きっと脱いだら凄いのだろうと、想像はつく。こちらも男として、圭太は完璧に負けている。

だからこそ、平々凡々な十人に一人は居るような容姿の二人は、この美麗な二人の隣を歩くなんて、どんな拷問だよと内心ツッコミを入れた。

「と、とにかく、名前も知らない君とは結婚できない。そもそも、俺が結婚する予定だったのは、真琴なんだ」

「ふーん」

「だ、だから、私も圭太以外考えられなくて…」

「へぇー」

話半分しか聞いてないのか、曖昧な相槌を打ちながら、ベンチに座る二人はどこかへ電話を掛けていた。

「あ、あのー」

「あ、もしもし?俺だけど、結婚式の日取りなるべく早い方がいいんだけど」

「もしもしー?わ・た・し。結婚式会場なんだけど、雰囲気のあるチャペルでやりたいのよねぇ」

なんだ。ちゃんと結婚する相手が居るじゃないか。ホッと安堵のため息を零す二人は、改めてどこか場所を移してこれからの家族設計を話そうかな、と考えていた矢先の事だった。

「「え、相手の名前?」」

どうやらこれまたタイミングよく聞かれたらしい。何をやるのか知らないが、もう巻き込まないでくれと、切に願った瞬間。

「真琴」

「圭太」

計ったように全く同時に言われた名前に度肝を抜かれた。

「「こらあああああああ!!!!」」

その時の二人の行動は早かった。瞬時に携帯を奪い、通話を切った。

「だから結婚しないってば!俺の結婚相手は真琴!」

「私だって、圭太以外とは結婚しないってば!」

「結婚がドタキャンになったからって、そんなに焦らないで」

「勝手にドタキャンにしないで!」

ニコやかに笑う女性に噛みつく真琴は、その女性を敵と認知した。

「これから幸せになろうとする相手に茶々入れると碌な目に合わないよ」

「茶々入れてんのそっちだろ!!」

ニコやかに笑う男性に噛みつく圭太は、その男性を敵と認知した。

「「まぁ、とりあえず帰ろうか」」

女性は圭太の腕に自分の腕を絡ませ、男性は真琴の肩に腕を回し、それぞれに帰路に着こうとする所をどんな手を使っても逃げ切れなかった二人は結局その日お持ち帰りされた。


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