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満月

そこから数日も経たない内の話だ。

彼女の顔は忘れたりはしない、なにせ久方ぶりに出会った人間というのというよりは、むしろ綺麗だったことがなんとも印象的だった。


彼女の事を考えていると、夜になっていたことは覚えている。

短針は1、長針は6を指した時計を眺めコンビニへと向かった。

サングラスとマスクの換えくらいある。

少し茶色で半透明のサングラスと白いマスクを着用して

家を出る。

黒色の絵の具に染められた空は果てしなく広く空に輝くオリオン座も小さく見えた。

コンビニへ着くと、話しかけてきた女性が居た。

「やっぱり来た、昨日も私ここに居たんだけどね、それとこれ」

と言って手にもった俺のサングラスを手渡してくれた

「どうも、そこまでしてくれなくっても良かったけど」

そう心にもない言葉がつい出た時だった

「あなた随分暑そうな格好よね?なにかあるの?宗教とか」

そう言われたとき何も知らないのは当然だが

聞かれて本当に不愉快になった俺は

「黙ってくれ、あんたには言いたくないし言うつもりもない」

そう怒りをあらわにしてしまった

彼女は少しうつむいて

「ごめんなさい、ただあなた本当に冷たい・・・」

そういったのは聞こえたが無視を続け家に帰った。

言い過ぎたと反省を繰り返したがどうにかできる問題でも無かった。


その日からだった、毎週木曜日にコンビニにくるのが日課になっていた俺に合わせてなのか彼女も深夜木曜日に顔を出すようになっていた。

しかし彼女は話しかけてくることも無くこちらを笑顔で見守るばかり

いつもそうしてこちらを見てばかりだった

あんな怒りを放ったというのになぜだろうか、彼女の笑顔に俺は

心洗われるような気分になった

そしてもう届くところに居ない人なのだということを悟った。

彼女の笑顔は例えるなら星、いや太陽

俺の姿を例えるならカゲロウ

要するに俺と彼女は交わってはならぬ存在

わかっていながらいつしか俺は木曜日を楽しみにしていた。


そこからいつの木曜日だっただろうか

夏も過ぎてもう涼しくなろうとしていた頃の話だ

正直この病気のおかげで寿命が短いのは悟っていた

だからこそ今のうちに彼女に思いを告げるべきだと思った

そうして俺はコンビニに向かった。

勢い込んだ顔つきで、彼女の前に立ち話かけようとしたとき

「今日、今からすこし話さない?」

そう言った彼女のその笑顔に俺は石のように固まった


話しかけようと勢い込んだ今日

その今日に彼女から話しかけてくれた

それは「偶然」なのだろうか

いやこれは「必然」だろう

考え込んでいたおかげで随分険しい顔をしていたらしく

彼女は心配そうな顔で、こちらを見た。

「話・・・聞いてた?」

そう言った彼女の声でふと我に返ると

「ごめん、俺も今日話があって」と言いたかったが

彼女の顔を見るばかりになってしまっていた

「外の公園にいこっか?」

そう言われて俺はゆっくりと彼女の横に立ちついていった

そのときの彼女の顔はなぜか印象的だった。


コンビニから約30秒

コンビニの光と周りの住宅街から漏れる光と公園を囲む街灯で

公園は光っていた、それは外から見れば

真っ暗な夜の帳に光るひとつの星にも思えた

しかし実際入ってみるとたいしたことのない公園だった

そんな中に二人は居た。

その姿はまさに、月とスッポン・太陽とカメ・木星と石

それほどに二人は対照的だった。

二人の沈黙はそれ程長く保たれることはなかった。

先に口を開いたのは、俺だった。

「木曜日いつも居たのはなにか理由があったのか?」

そういうと彼女はうつむきながらこう話した。

「私ね、昔なんだけど結婚をしたの・・・」

それから彼女は昔の話をしてくれた。

その透き通った声は今でも聞こえてくるような

そういう声だ。

その話は簡単に言うとこういう話だった。

高校卒業してすぐに結婚したという二人は

確かにはやい結婚だったけれど仲が良かったのは確からしい。

しかし彼は急な病に倒れた・・・

彼の病気は脳腫瘍

脳内に出来た腫瘍によって、体の麻痺や不自由を起こし

最後には死に至る病気だ・・・

彼は懸命な治療にも関わらず理不尽にも

彼女との死という別れすることになってしまったという。

「その彼と俺が似てる・・・のか?」

「容姿が、じゃないそうじゃなくてもっと内面的なものよ」

そういうと彼女は涙を流した

どうすることも出来ない俺はただただその場に立ちつくしただけだった

そうすると彼女は上を向いて星を指差した

それは丁度夏の大三角形の横にある名もなさそうな小さな星だった。

「あの星の名前知ってる?」

そう静かに言う彼女の問いに俺は

「いや、気にしたこともなかったよ」

と言うしかなかった彼女はそのまま話を続ける。

「私も知らないよ、でもね」

そういうと俺を見て真剣な顔でこういった。

「誰も知らない星でもあの星は光り輝いてる、誰も見てないかもしれなくてもそれでもずっと光ってる、必死に誰かに気付いて欲しげに光りを放ってるきっとそうだと思うんだ・・・変な話しちゃったね」

そう言う彼女にまじめな顔して俺も言う

「そんなことないよ、そんなこと・・・」

彼女は何かを思いついたような顔して話をはじめる

「そういえば、あなたの名前は?」

「俺は西山竜馬、あんたは?」

「あんたってのはやめてよ・・・私は瀬戸静」

彼女はそのまま会話を続けた

「ひとつ聞いてもいいかな?」

俺はなにも迷うことなくうなずいた

「聞いてなかったけれど、西山君なんでいつも暑そうな格好なの?」

不安げに聞いてくる彼女がそこにいた

それもそうだろう、一度この質問で怒られているのだから・・・

「アレルギー性コミュニケーション・・・」

そうつぶやくとその説明をはじめた

彼女はそんなうそのような病気だというのに

真剣なまなざしで話をきいてくれた・・・

「もしかして・・・話してたらまずい・・・んだよね?」

彼女はそう言ったが俺はそれを否定した

「いやいいんだ、俺が話をしたいって思ったんだから」

そう言ったのは思い出せるが次のときには目の前が歪みはじめて

俺はその場に倒れた。


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