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Ⅲ.ルビーの煌めき

「ねえリリカちゃん」


 別れ際、セレーが囁いた。


「また、遊んでくれる?」


 夕陽の橙が彼女のブロンズの髪一本一本に光を与え、また同時に、影も与えている。


 愚かな魔女。愚かで――――……可哀想な魔女。


「気が向いたらね」


 ツンとそっぽを向かれるが、セレーは知っている。口ではそう言っていても、いつもなんだかんだ、セレーの遊びに付き合ってくれることを。



 それと、あなたが少しだけ、わたしを嫌いなことも、知ってる。


 知っていても、それを離れる理由にするには、残念ながら少し足らない。


 そう、残念ながら、足らないの。だってあなた、自分で思うよりもずうっと優しいし、世話焼きなのよ。ふふ、気づいてないでしょう?


 だからわたし、リリカちゃんのそういうところが好き!



 リリカはニコニコとするセレーを訝しげに見つめた。


「どうして今の流れで笑えるのよ……。前から思ってたけど、もしかしてあんたって被虐趣味があるの……?」


 セレーは目を瞬かせた。


「ひぎゃく……? それも人の遊び?」


「あー、はいはい。今のは私が悪かったわ。お願いだから綺麗サッパリ忘れて」


「はーい」


 うん百年生きていても、知らない方がいいことがある。



「じゃ、魔法瓶はなるべく早くお願いね」


「任せてちょうだい!」


 花のように可憐に笑うセレーの姿は、リリカには少し眩しかった。


 影になるのは、本来、自分の方であるということを、リリカは知っている。


 目が潰れないうちに、そっと視線を背けた。


 小鳥の意匠が施された小さな魔法瓶を取り出す。蓋を開ければ、たちまち濃い煙がリリカを包み込み、魔法は彼女の形を、魂ごと変化させた。


 その羽根を広げ、今まさに飛び立とうとしたところで、ふと、先程言い損ねたことをリリカは思い出す。


「人形、ちゃんと作りなさいよね」


「えっ? でも、わたし」


「この私の言うことが聞けないっていうの?」


 リリカは目つきを鋭く尖らせ、セレーを睨みつける。すると珍しいことに、セレーは視線をそらし、少し身じろいだ。


 大好きな親友の言葉に、今すぐにでも頷きたい気持ちはある。


 しかし同時に、大好きな親友だからこそ、必ず守れる可能性のないことを約束するわけにはいかないという気持ちもある。



「……それじゃあ、魔法を」


 リリカは声を絞り出す。


「魔法を、使えばいいじゃない」


 彼女がそれをしたくないことは百も承知だった。


 だがそれより許せないのは、始めたことを最後までやり遂げようとしないその卑屈な精神。



 魔女ならば、一度決めたことを曲げるな。


 魔女ならば、一度手に入れたものを投げ出すな。


 なにより、おまえは『リリカ』の友人なのだ。ふさわしい振る舞いをしろ。


 ただの口実であることは百も承知だ。ただ気づかないふりをしているだけ。


 しかしそれで、それだけで彼女の生き方が少しでも変わってくれるのなら構わない。



「……、わたしがどんなにすごいものを作ったとしても、妬かないって約束できる?」


 セレーがクスッと笑った。


「…………約束するわ」


 嘘である。


「しょうがないわね。リリカちゃんのお願いだから、叶えてあげる」


「ふん。楽しみに待ってやらなくもないわ」


「その余裕はいつまでもつかしら」


 穏やかに微笑むセレーの瞳が、不意にギラッと光った。


 その様子を見て、リリカも不敵に微笑む。


「言ってなさい。いまにあんたごとき蹴落として、私がこの世界でいちばんの魔女になってみせるわ」


「ふふ、楽しみに待ってる」


 これは、本音だ。


 セレーの返答を聞き、リリカは満足そうに今度こそ飛び立っていった。


 夕陽の橙が、スポットライトのように彼女を照らしていた。




「……せっかくかっこいいことを言うなら、小鳥の姿じゃないときにすればいいのに」


 セレーから見たときのあまりにも間抜けな景色に、リリカが気づくのはまだ先のことだった。

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