表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

最強で転生したら、勝つほどレベルが下がった

――金曜の終電。

サラリーマンにとって、それは「一日が終わった」じゃなくて「一日が始まった」合図だ。


俺、ユウタ(27)。

平日は残業でHPが削られ、休日はゲームで回復するタイプの社会人だ。


「よーし、今夜はオールでゲームでもするか!」

ようやく家に帰って、缶コーヒー片手にログインした。

新作の高難度ダンジョン。初見殺しのギミック。最高。

……の、はずだった。


次に目を開けた瞬間、肺に冷たい空気が流れ込んだ。


「……は?」


天井がない。壁もない。

代わりに、背の高い木々が空を覆っている。湿った土の匂い。葉が擦れる音。遠くで鳥が鳴く――現実の質感が、ありすぎる。


「ここ、どこだよ……」


反射でポケットを探る。スマホがない。鍵もない。

その代わり、視界の端に薄い光の枠がふわりと浮かんだ。


――UI?

意識を向けると、青白い画面が広がった。


【ステータス】

名前:ユウタ(転生者)

レベル:1000(上限)

スキル:全取得


「……は?」


いや、二回目の「は?」はもっと重い。

レベル1000。上限。

そしてスキル全取得。


この世界の基準はまだ分からない。だが、ゲーム脳が一瞬で結論を出した。

チートだ。

いや、チートっていうか「セーブデータ引き継ぎ」みたいな数字だ。


「転生したら最強って……そういう、」


口にした瞬間、森の空気が変わった。

風が止まる。

鳥の声が消える。

葉の揺れる音すら、遠のく。

――静かすぎる。

背中がぞわりと粟立った。


見えない圧が、木々ごと押し潰してくるみたいな感覚。

「……来る」

木々の影が裂けたように、黒い巨体が現れた。


ドラゴン。


冗談みたいなサイズだった。馬よりでかい頭。鎧のような鱗。翼は畳んでいるのに、そこにいるだけで“空”が支配される。


白く光る目が、こちらを見下ろしていた。


序盤の森に置いていい敵じゃない。

というか、そもそも森に置いていい存在じゃない。

――逃げても追いつかれる。

――ここで詰み。

――なら、最短で終わらせる。


俺は息を吐いて、右手を上げた。武器はない。


だが、UIの端にスキル一覧が並んでいる。

大技がずらりと並ぶ中、俺は一番単純そうな名前を選んだ。

『圧壊』

魔法陣も詠唱もない。


発動した“感覚”だけが、指先から空間へ滲んだ。


次の瞬間。


ドラゴンの巨体が、見えない床に叩き付けられたように沈んだ。

森の地面が円形に割れ、土と小石が跳ね上がる。


――ワンパン。


ドラゴンは一度だけ痙攣し、白い目がゆっくりと消えた。

巨体が、ずしん、と重たい音を立てて横倒しになる。


「……え、マジで?」


自分の声が森に響いて、やっと音が戻ってきた。

鳥が一羽、慌てて飛び立つ。


強すぎる。

いくら最強でも、相手ドラゴンだぞ。

――と、思ったところで。

勝利の演出が、視界を上書きした。


【戦闘勝利】

勝利EXP:524

レベル:1000 → 988


「…………」


一瞬、理解が追いつかなかった。

レベルが――下がっている。


「いやいや、待て」


目をこする。UIを閉じて開く。

現実に戻っても、もう一度確認しても。

レベル:988。


「下がってる……?」


心臓が嫌な音を立てた。

勝った。勝利。経験値。普通なら上がる。

それなのに、下がる。しかも、12も。


「……なんだこれ。バグ? 仕様? いや、どっちでも最悪だろ」


見間違いの可能性。

UIの表示バグ。

あるいは――この世界自体のルール。


ドラゴンの死体は横たわっている。

地面は抉れ、木々は揺れている。


つまり戦闘は本物だ。勝利も本物だ。

なら、必要なのは一つ。


「……テストしよう」


近くの茂みが、もぞ、と揺れた。

小さな苔色のスライムが這い出してくる。拳ほどのサイズ。

さっきのドラゴンと比べたら、目覚まし時計みたいな存在感だ。


「お前、ちょうどいい」


スライムがプルプル震えながら突っ込んでくる。

俺は小指を弾いた。大げさなスキルは使わない。

ただの衝撃――それだけで十分だ。


ぺちん。

スライムが潰れて消えた。


【戦闘勝利】

勝利EXP:4

レベル:988 → 988


「……変わらない?」


経験値が少なすぎて、レベル変動の判定に届かないのか。

ならもう少し、試行回数を増やす。


「もう一匹」


茂みの奥から、また苔スライムがのそのそ出てくる。

同じように、ぺちん。


【戦闘勝利】

勝利EXP:4

レベル:988 → 987


「……来た」


確定だ。

――勝つたび、レベルが下がる。

血の気が引いた。


「……ちょっと待て待て待て」


勝利が罰?

戦えば戦うほど弱くなる?

つまり――

最強は、最初だけ。

戦えば戦うほど、俺は弱くなっていく。


森の中で、俺は乾いた笑いを漏らした。


「……えぐい縛りプレイだな」


俺はもう一度ステータスを開き、現実の数字を見た。


【ステータス】

レベル:987


喉の奥が、きゅっと締まる。


「……にしても、ドラゴンで下がりすぎだろ……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ