第1話 ノワルとの出会い
入道雲が窓から見える山にかかっている。なんとも蒸し暑く、とても快適とは言えない天気であるが、担任の小林ことコバセンは決して冷房を入れようとしない。
なんで冷房付けないんだよ、クラスのヤツらもコバセンも汗だらだらじゃないか…
そんな文句をぶつぶつと頭の中で唱えている今も、7限目の授業が淡々と進んでいく。
今日の学校が終わったら駅でアイスでも食うか。
そんなことを考えながら、時間が経つのを黙々と待つ。ふと、窓の外を見ると体育の授業を受けているヤツらがリレーをしているようだ。男子校であるこの学校には女子など存在しない。言い換えれば癒しがない。
はあ…せめて女子がいたら頑張れるのに。
ぼーっとしながらペンをくるくると回す。これだけは俺の特技なんだよなぁと思いながら回していると、つい机の下にペンを落としてしまった。
「上原田!!」
急にコバセンが俺の名前を叫んだ。どうやらペン落とした時に話を聞いていなかったのがバレたらしい。
「窓の外にかわいい子でもいたか?なあ?」
コバセンの詰め寄り方ウザイんだよなあ…
「…すんません。」
一応これでも平凡に生きてる俺だ。先生に目をつけられるわけにもいかないので、一応謝っておいた。
コバセンはそのあと俺を叱るでもなく、授業を再開した。
「はあ、せっかくだし真面目に授業受けるかあ…」
ぼそっと呟き、真っ白なノートを広げた。
7限まであった退屈な授業も終わり、俺は今駅に来ていた。自動販売機に売っているアイスを買い、適当に駅ビルの中を歩く。今日も退屈な1日がやっと終わる。そんなことを考えていた矢先「きゃーーーーーっ」という耳を切り裂くような悲鳴が前方聞こえた。
何事かと思い前を確認すると、そこにはパーカーのフードを深く被り、今にも倒れるんじゃないかというほど息があがっている男が、包丁を手に握りしめている。
俺はすかさず走って逃げようとしたが、あいにく学校指定のローファーは走りずらい。しかもあの男、明らかに俺だけを追いかけている。
「まじかよっ…」
俺は駅ビルの中を全力で走った。5分ほど走ったところで俺はおかしなことに気がつく。
「なんでほかの客がいないんだ…?」
そう、ほかの客の姿が見えない。なんならさっきも悲鳴は聞こえていたが悲鳴をあげた女性?の姿を俺は見ていないのだ。その事実に気がついた途端背筋が凍る。
「 これじゃあ俺とあの男の1体1の鬼ごっこじゃねえかよ…」
「そうだよ」
耳元で声がした。はあ!?っと振り返ると、そこにいたのは明らかに現実世界の生物とはかけ離れた生き物だった。
黒くて丸い、、いや細長いのか?とにかく丸くてマスコットのような形をしており、黒い体の色とは対照的に白く天使のような翼が生えている。頭にはベレー帽のようなものを被っており、そこから光り輝く花が咲いている。
なんだよこいつ、絶対に見えちゃいけないものだろ…俺は恐怖で頭がおかしくなったのか?いや、さっきから走って足は痛いしこれは現実なんだろう。俺が呆気にとられていると
「ゆーや、とりあえず逃げよう。」
黒い生物がいきなり俺の腕を掴み、そして走る。
「おいっなにしてっ」
なんて言う暇もなくエレベーター乗り場まで引っ張られた。
「おいお前、何者だよ」
黒い生物が口を開いた。
「ボクの名前はノワル。今からボクが言うことは非現実的だと思うかもしれないけど、時間がないから落ち着いて聞いてほしい。」
そう前置きをしてノワルは話を始めた。
この世には目に見えない魔力というものが存在していて、これは赤ん坊の頃から当たり前にみんな持っているものらしい。俺は特別その魔力の量が膨大で俺から漏れでた魔力によって生まれたのがこいつ、ノワルであると。
また、この世は表の世界である現世アパランスと、ノワルが生まれた裏の世界アンテルというふたつの世界が鏡のようになってできており、表の世界では魔力を使えない人間たちが、裏の世界ではいわゆるファンタジーでいう魔力を使いこなせる魔物たちが暮らしているとのこと。
今回俺のことを追っている包丁の男は魔力が暴走を起こしたこと、アパランスとアンテルの間で何らかの時空のズレが起こり魔物がアパランスに出現したことが重なって取り憑かれた結果らしい。俺を狙っているのは俺の魔力が膨大だからというくだらない理由。ノワルは本来俺には姿が見えない存在らしいのだが、俺が殺されたらノワルも消えるってことで今回仕方なく俺の魔力を消費して受肉を果たしたとのこと。
難しい話をされて俺も意味がわからないのだが、なんとなく理解はできた。
「それで俺はどうすればいいんだ?」
魔力が膨大だとか言われても俺には自覚がないしまず超能力なんて使ったこともない。俺はなにもできないのだ。
「ボクの帽子の上に咲く花は言ってしまえばキミの、ゆーやの魔力の塊なんだ。この花を1本とって、こう唱えてほー」「みーつけた。」
ノワルの言葉を遮るように包丁の男に見つかった。
「やばいっ」
そう思った瞬間、体が突然動いた。俺の意思だが俺の意思ではない。そんなイメージだ。ノワルの頭の上の花を手に取り、無意識に叫んでいた。
「フロレゾンッッッ」
なんで俺、この言葉を知っているんだろう。そんなことを考える暇もなく手に取った花が大きく咲き誇り、バンッと音を立てて散った。花びらが宙を舞い、俺の体の周りに浮いている。
「ゆーや、なんでもいいんだ。その男を攻撃するイメージでポーズをとって、ルポゼと言うんだ!!!」
急にそんなこと言われても…と思ったが、背に腹はかえられない。今はやるしかないのだ。
右手で狐をつくり、左手の人差し指と中指をくっつけ、親指を立てて銃をつくる。そして思いっきり叫んだ。
「ルポゼッッ」
その瞬間、花びらが銃の弾のように包丁を持った男を貫いた。男から黒い煙のようなものが出てくる。
「ゆーやおつかれさま、これでこの人はただの人間に戻ったよ。」
その言葉を聞き、俺は安心し膝から崩れ落ちた。
夢を見ているようだ。懐かしい景色、花の匂い。
桜の木の下で母と遊んだ記憶。母が優しい声でつぶやく。「フロレゾン」その瞬間周りの草木が一気に活気を増す。あぁ、この言葉は母の魔法の言葉だから知っていたのか…そんなことを考えながら俺の意識は現実世界へともどってきたー。




