パパはわかってくれるよね?だっておんなじ事したんだもん
ある男がいた。
自分本位でろくでなしの男が。
そんな男にも娘がいた。
そんな娘がやらかした。
だが娘のやったことは、自分のやってきたことへの因果応報となった。
現代が舞台ですが、法律とか適当なのでまぁ現代風ファンタジー?としてフィルターかけて読んでくださると幸いです。
あと父親サイドと婿サイドで書いた時期が違うので辻褄が微妙に…
場合によっては書き直すか下げるかもしれません。
父親side
「は?娘が不貞を?」
「はい」
「そんな…娘は清廉潔白で賢い子なのに…」
「お義父さんが信じたくないお気持ちはわかりますが、こちらに証拠がございます。」
いきなり話がある、会社の将来のことでもあるからと社長夫妻である私の両親と次期社長である私、役員の1人である娘を呼び出した娘婿が取り出したのは離婚届と娘の不貞の証拠。
「そんな…本当に…?」
「ええ、これだけ証拠が揃っていますから離婚一択かと」
「そんな…!」
いきなりのことで私も両親も動揺を隠せない。
目の前の彼は我が社の顧問弁護士の1人だった者で、知財についてや社内のトラブルに対して信頼をおいていた。
そのうち娘が気に入って婿となり、引き継ぎ内部の監査的なことをしてもらっていた。
優秀で公平で周りの信頼も厚かった。
その彼からの離婚宣告。
その衝撃は計り知れない。
「幸い私達の間にまだ子供はいません。なので離婚は難しくありません。もちろん不貞をした彼女の有責ですが」
「娘の有責…」
娘の不貞…有責…こんな言葉を聞くことになるとは夢にも思っていなかった。
少し甘えたなところはあるものの、それなりに優秀で可愛い娘がこんな…。
「慰謝料の支払いをお願いします。一括で」
「一括でこの金額!?」
「用意できない金額ではないでしょう?」
提示された金額は結婚していた年数や子供の有無から考えると少々高かった。
それを一括でと言われるのはそこそこにきつかった。
娘に払わせるのではなく、わざわざ我々に言ってきているあたり思った以上に彼は食わせ者だった。
「その代わりこの金額を用意してくだされば、事実を公にせずに“性格の不一致での離婚“ということに致します。どうでしょう?」
「性格の不一致…」
「ええ、信用が大事なお商売をされているのですから余計な火種はない方がいいでしょう。娘さんはお義父さんの会社の次期部長、最終的には社長になる予定ですよね?
その彼女に“不貞での離婚”という疵をつけるのは些かどうかと?」
対外的に娘の信頼を保てる方法というわけか。
彼は法律家ではあるのできちんと契約を交わせば守るだろう。
それくらいは私にもわかる。
ある意味金で解決できるなら越したことはない。
彼は収入も充分な様で金にそこまで困っていない。
娘の不貞に対する彼の怒りを金で解決できるならその方が無難だ。
「選択の余地はないと言うことですか…」
「ええ、そうですね」
呆気なく娘夫婦は離婚となった。
慰謝料は私が代わりに払って、娘の給料から一部を天引きしていく形に落ち着いた。
そんな話し合いの中、娘が場違いの様にニコニコと私に話かけてきた。
正直言ってこんなことを引き起こしてニコニコしてる娘が理解できなかったが、なぜ賢いはずの娘がこんなことをしたのかを知って私は膝から崩れ落ちた。
「パパ!パパならわかってくれるって信じてた!
だってパパも同じ様なことしておじいちゃんとおばあちゃんに慰謝料払わせたんでしょう?」
「何故それを…」
なぜ娘には言わなかった私の過去を知っているんだ。
離婚した元妻とは言わない約束だったのに。
「誰ともなしに教えてくれたわ!
あ、ママは違うわよ?ママは私のために私が傷つかない様に言わなかったもの」
「あいつじゃないのか…」
元妻ではなかったらしい。
それにしても娘がこんな話題をニコニコと恥ずかしげもなく言えることに恐怖を感じる。
自分の父親の過去の不貞とその顛末を。
「ええ!教えてくれた人の1人は私にこう言ったわ。
『不貞をしても周りが尻拭いをしてくれる恵まれた盆暗な父親から生まれた私は、必ず父親とおんなじことするに違いない!』
ですって!」
「盆暗…」
そんな風に思われていたのか。
しかも娘に伝えたのは1人じゃない様だ。
私は今更になって恥ずかしく思った。
私は若い頃仕事にも邁進したが、女にだらしなかった。
流石に娘が産まれてからは控えたし、離婚して娘を引き取ってからはそんな暇はなかった。
年齢と共にそう言った欲求も落ち着いてきたのもあったし、離婚後に業績が悪化したのでそれどころではなかった。
「やっぱり私はパパの子だよねーおんなじことしちゃったwだって寂しかったんだもん」
「寂しかった…」
そんな理由で簡単に不貞を犯したのか。
「ね、おじいちゃん、おばあちゃんもわかってくれるよね?
不倫しても不貞しても何のペナルティないよね?
役職降りないでいいよね?」
「そんなこと!」
「何を言っているんだ!」
孫である娘からそんな風に言われて、両親も咄嗟に反論したが…
「だってパパも同じことやったのに役職付きでしかも次期社長なんだよね?結局継がせるんでしょう?
何で私だけダメなの!?私のこと愛してないの!」
「そんなことは!」
孫からこう言われて咄嗟に返せる言葉が出なかったらしい。
私の過去にやらかしを盾に取られていたのも痛かった。
「ないよね?愛してるよね?大事よね?
なら私はこれからもこの会社を“背負っていく大事な人材”ってことで良いよね?大丈夫だよね?」
「それは…」
親の因果が子に報い、因果応報、自業自得という言葉が頭を通り過ぎる。
今の状況にどの言葉があっているのかすらわからないが、苦く苦しいものが競り上がってくる。
自分の過去のやらかしを、その尻拭いをした両親と共に、他でもない娘から突きつけられてショックを受ける。
しかも娘は私の過去を知っていてその上で不貞をしたというから頭を抱えるしかない。
不貞したところで問題ない、そんな風に思っていたなんて。
「いいんじゃないですか?」
娘とのやり取りを静かに聞いていた、娘婿からの言葉に動揺する。
「え?」
「ここの次期社長である貴方は不貞をやらかしても、ご両親である社長夫妻は厳しくしなかった。そのせいで少しずつ信頼や信用を失っていって、会社の業績なんかもじわじわ落ちたままで登り調子には程遠い言うのに」
「そんなまさか!」
「婿であった私には巧妙に隠されていたみたいですけど、一部では有名だったみたいで。
親切な方々が“結婚後に”わざわざ色々教えて下さいましたよ」
「は?」
私のせいで業績が落ちていたのなんて知らなかったしわかってなかった。
単純に色んな時期やタイミングが重なっただけだと思っていたが、そうか…私の。
しかもそのことを婿であった彼の方が知っていたなんて。
「私の義理のご家族がこんなにクズ人間ばかりだと知っていたら、こんな結婚しなかったと言うのに」
「君!言っていいことと悪い…」
「真正面から言われてないだけで、貴方方への周りの対応は冷ややかなものでしたよ?
気づいてなかったんですか?」
元娘婿からの冷ややかな視線に一瞬二の句が告げない。
私の両親も青ざめて俯いている。
「そんな…だから融資を断られたり、取引が減ったりしてたのに回復しないのは…」
「まぁ…それはご想像の通りかと」
社長である父が頭を抱えている。
父は業績悪化はわかっていたものの、根本原因は知らなかったのかもしれない。
自分の過去今更後悔したところで後の祭りだと改めて突きつけられて頭が真っ白になる。
そしてこの先、娘のことで更なる苦難が訪れるのは言うまでもない。
目の前の彼は公言しないと言ってくれているが、情報などどこから漏れるかわからない。
現に婿は内情を知っていたのだから。
「さて、こちらとしては払うもの払って下さったら綺麗に引きますので」
「…資金繰りが…もう少し待ってくれないか?」
「無理ですね、貴方方の誰もが信用できませんから借金してでも支払ってください」
「…わかった」
彼の言う通りにするしかなかった。
婿side
「これで良かったのかい?」
「何が?」
「自分の家族にしたこと」
「周りを大いに巻き込んでやったことだから反省はしてる、でも後悔なんてないわ」
彼女のさっぱりした答えに、ある意味憎しみの深さを感じる。
「他にもやり方があったのかもしれない。でもいくら中小企業とは言ってもある程度の大きさの企業の社長、社長夫人、その息子を引きずり下ろして社会的に“殺す”には、私はこの方法くらいしか思いつかなかったのよ」
「そうか…」
「えぇ」
そう少し寂しそうに話す彼女は私の元妻だ。
彼女は少し前まである会社の社長の孫で、その会社の役員だった。
だが今はその会社はない。
色んなことが露呈して別の会社に吸収合併されたからだ。
そして創業者一族であった彼女とその家族は、解雇されはしなかったが端役の役員に落とされて、最終的に居づらくなって父親は地方の別の子会社に出向を願い、祖父母は年齢のこともあって退職。
祖父母にはそれなりに退職金が出た様なので、まぁ後腐れない手切れ金の様な物だったのだろう。
吸収合併された会社は実力主義。
元の会社で役員をしていても簡単に降ろされてしまったりして辞める者もいた。
ただし、新しいトップは慈悲のない者ではないので、頑張ればそれなりにどうにかなるし、簡単に馘にはしない。
ただ長く居るだけの無能には用がない、ただそれだけだ。
そしてその結果彼女の祖父母の縁故採用の何人かが辞める羽目になっただけだ。
彼女は父親の所業もそれを擁護する祖父母も大嫌いだった。
しかも自分を産んでくれた母親を、産んだのが”跡取りの男じゃない“と言うだけで見下すのだ。
しかも彼女の母親は彼女の“弟”を妊娠中に、父親の愛人の1人に詰め寄られて、しかもそれを擁護した父親と祖父母に更に詰められて最終的に流産してしまったと言うのに。
その愛人とやらは妊娠騒動も起こしたがそれはただ生理が遅れていただけで、他にも男がいたことも発覚して手切れ金と共に切られている。
風の噂ではその愛人は弄んだ男か誰かに刺されたとも聞いたらしい。
彼女が様々な事実を知ったのは十代前半の時。
両親の離婚時にある程度は知っていたものの、隠されていたり濁されていたりしていた。
だが明確に色々知って理解したのがその頃のようだ。
彼女は父親に無理矢理引き取られていたが、実際には父親の妹に育てられた。
彼女の叔母はあの家族の中で唯一のマトモな人だった。
そして叔母を通じて母親とも通じていたし、流産したと言われていた少し歳の離れた弟とも交流していた。
だが母親は流産はしなかっただけで母子共に危なかったのは事実。
このままだと親子共々殺されると危惧して流産したから体調を崩して遠くの病院で入院したと言うことにして逃げたのだ。
それによって泣く泣く親権を取られて離れ離れになってしまっていた。(表向きは)
そんな風なバックボーンを持つ彼女は、好きな時にだけ勝手に可愛がる父親と祖父母ではなく、叔母(と母)に慈しみ育てられたが、次第に父親と祖父母に憎しみを抱く様になっていった。
母親も叔母も彼女に不幸になっては欲しくはなかったから、もちろん宥めたし諭しもした。
だが彼女は自分の中に流れるあの奴らの血ごと憎んだのだ。
彼女は賢かった。
勉強はできるが甘えるのも上手で祖父母に可愛がられる様に仕向けたし、父親の所業を知りながらおくびにも出さず、高校生の時からアルバイトで自社に入り、大学卒業してすぐに正式に入社して、少しして役職付きになった。
その裏で社長夫妻とその息子を貶める画策と、会社が倒産しても社員が路頭に迷わない様にするために働きかけていた。
彼女は父親と父方の祖父母は憎んでいたが、他の人を不幸にしたいとは思っていなかった。
例外は祖父母の親類くらいか。例外とは言ったがそこも別に憎むほどではなかった、どちらかと言うとどうでも良い存在だったのかもしれない。
彼女は自分の業の深さをわかっていた。でも止められなかった。
彼女の心の内を何となく理解していたのは、アルバイトいや、それより前から会社の中をうろうろしていた彼女に目をかけてくれていたベテランの職人くらいだろう。
彼女は大学で経営を学んでいたが、本当は根っからの研究者肌だった。
本当はものづくりがしたかったが、先のことを考えて経営の方に進んでいた。
経営を学びつつ法律にも着手していた。
何年も何年もかけて悲願を達成した彼女。
自分を貶めてまで父親と祖父母に復讐した彼女。
彼女の夫であった私に渡ったとされる手切れ金は、そのまま彼女から彼女の母親に渡されている。
そのお金は今後の弟の進学費用に当てられるだろう。
彼女の父親は弟の存在を知らなかったので養育費などは渡されていなかった。
代わりに彼女の養育費についても特になかったが。
まぁ弟の存在を知っていたら、あの祖父母に問答無用で取り上げられた可能性が大きかったので、彼女の母親が隠していたのは正解だったと思う。
あんな父親と祖父母に育てられればどんなクズに育つかわからなかったので。
特にあの祖父母は跡取りである男をクズにする達人であるので。
叔母は跡取りでなかったのでまともに育った。と言うより兄を反面教師にした感じか。
その叔母に育てられた彼女も本当はまともな人だったのに、復讐心から歪んでもいた。
私とは彼女の父親を恨む同士だった。
私の母は私を産んでから女扱いされない自分が嫌で他の男に走った。
その男が彼女の父親だった。
結婚する前も恋多き女だったらしいが父と結婚してからは落ち着いていたと聞いている。
結婚して数年で私を産んでしばらくは問題なかった様だが、自分の友人がキラキラして見えることが出てきたせいで、今の落ち着いた自分に物足りなさを感じる様になったらしい。
その相手にあの男を選んだことで母は転落して行った。まぁあの男の前にもちょこちょこ他の男がいた様だが。
母にいい思い出は少ない。
だがたった1人の母だった。悲しいことに。
若くして私を産んだ母はあの男と不倫していた時はまだ30代前半だった。
小学校のPTAで知り合ったらしい。
母は背徳感で楽しんでいたものの、あの男に本気で愛されたいと思ったのか今の現状に満たされない自分を想い、精神が少しずつ不安定になっていった。
だがそんな母に対して、既婚者同士の遊びと割り切っていた男からすれば、母の感情は重たくていらないものだった。
だからあの男に簡単に捨てられた。
自暴自棄になった母は男に迫ったが相手にされず、事実を知った父からも拒絶にあい、体調を崩していくようになった。
ボロボロになっていく自分の容姿に耐えかねて最終的に心を病んだ。
そのままどんどんおかしくなって、私が中学に上がる前に亡くなった。
私は父方の祖父母に育てられた。
母を哀れだとは思ったし、母に見向きもされなくなって悲しかったけど時間と共に折り合いをつけていった。
つけていくしかなかったとも言うが。
幸い父方の祖父母はまともだったし、母のことで大変だった母方の祖父母もいい人達だったので何とか歪まずに済んだのだと思う。
それでも忙しい父とはなかなか歩み寄れず、長い間2人で藻搔いていたように思う。
ちなみにだが彼女の父親は何年も前に捨てた愛人のことなど覚えていなかったようだ。
私は男ではあるが母似だったのに。
名前も変えてなかったのに。
彼女とは改めて大学で知り合った。
親の不倫のことで自分は小学校を転校せざるを得なかったし、彼女とは学年も登下校の地域も一緒じゃなかったから、別に仲が良かったわけでもなかったので、まともに対峙したのはいざこざがあった時の1回以来だった。
ただその最後に見た彼女の瞳にゆらめく激しい感情が子供心に忘れられなかった。
お互い名前は変わってなかったから、知り合ってから思い出すのにそこまで時間はかからなかった。どちらも父方の姓のままだったから。
向こうも不思議とすぐに気づいたようで、今回のことは彼女からの提案だった。
偽装結婚と偽装不倫からの祖父母の会社を潰して、彼女の父と祖父母に復讐する。
大まかにはこのような計画だった。
私も彼女も結婚に夢を見ていなかった。
私も母のことがあって自分が家族を持つことや結婚に興味があまりなかった。
彼女は父親がそのあとも定期的にしでかす何かしらのせいで、急激なストレスが溜まって病気を発病したりもしていた。
そのせいで子供ができにくい身体にもなっていた。
多分、あの男も祖父母もそれすら知らないかもしれない。基本的に面倒を見ていたのは叔母だったから。
まぁその父親も様々な女と遊んだ結果、誰かと共有してしまった性病のせいで女関係は落ちつかざるを得なかったようだが。
それでも何人かに性病をうつしたからそれでも色々あったようだが。
どうしようもない屑だ。
そう、だから今回のことは狂言だったのだ。
彼女は自分で自爆して周りを巻き込んであの男とその親を貶めるために。
そしてついでにそいつらからお金を引き出させて彼女の母と弟に渡すための計画でもあった。
彼女があの会社に高校生からアルバイトで入っていたのは、少しでも稼いで母に仕送りする為。
かわいい歳の離れた弟に何かしてあげたかったから、怒りの気持ちを鎮めて頑張っていた様だった。
そして会社の内情を把握するため。
相手が子供だと思ってついつい余計なことを言ってしまう人間はどこにでもいるものだから。
祖父母も父親も彼女が継ぐために頑張っていると思っていた様だったが、彼女はそんな気さらさらなかった。
だって会社を潰す気満々だったのだから。
今回の計画は私達2人だけではさすがに無理だった。
私の祖父母と父、彼女の母と叔母と弟もある程度計画を知っている。
そうでなければどこかで破綻する可能性は十分にあったから。
協力者であった周囲はもちろん止めた。
そんな復讐に捧げなくてもいいと。
だが彼女は止められなかった。
彼女が自暴自棄にならないために敢えて周りが協力したのだ。
下手をすると彼女はあの3人を直接手にかける可能性もあったから。
大切な人達のために自制しているだけの彼女は放っておくととても危うかったのだ。
彼女の間男役は彼女の弟が買って出てくれた。
彼女と腕を組んで普通のホテルに入るだけで、その後はラウンジで2人でパフェを食べたり、ホテルの一室に先に入っていた彼女の母親も含めてルームサービスを楽しんだりと当たり前だが健全なイベントしかなかったが。
弟と堂々と会えるのが嬉しいと無邪気に笑っていた彼女を見て悲しくなったくらいだ。
彼女の弟は彼女の父や祖父母から隠されているのでなかなか会えないし、ましてやこんな外で堂々で会うこともできない。
誰に見られるかわからないからだ。
今回の間男としての役割を彼女の弟ができたのは母親似だったのと、彼の顔は証拠品に出来る限り映らない様にしたからだ。
ちなみにこの計画のためにせっかくだから旅行も兼ねようとウキウキで計画をしていた時の彼女は本当に幸せそうだった。
家族で遠出して出かける、そんな些細なことであっても彼女にとっては特別な事だったのだった。
あの父親はそんなことしてくれない。
女遊びはなりを潜めても、家族を大事にするタイプではなかったから。
あとは計画通りに進めるために様々に画策して何とかうまくいった。
ちなみに社長であった彼女の祖父には敢えて今回のことの一部の事情をバラしてある。
もちろん彼がどうにもできないところにまで追い詰めたあと、ではあったが。
それによって彼はあの父親の代わりにお金を動かし、慰謝料という名の養育費を作った。
もちろんあの男の借金としてだが。
それと自分から幻の孫への援助として自身の資産から幾ばくかを渡すための遺言書を作った様だ。それ以外にも生前贈与として贈与税がかからない程度にも渡したそう。
それによって祖父は完全に許されてはいないが義務はなんとか果たしたとされ、孫の写真を渡され、一度だけ会うことができた。
彼女の弟が会うことを良しとしたから。
今後どうなるかは弟くん次第だろう。
ずっと祖父母と一纏めに言っていたが内情は大分違っていた。
祖父の方はこれでもまだマシな方だったから救済措置がされたが、祖母はそうでもなかった。
祖母がある意味一番の元凶だった様で、それに甘やかされてきたのがあの父親だった。
嫁いびりも結構してた模様。
祖母にとっては普通なことの様に言っていたそうなので、多分いびりをしてる意識さえなかった様だ。
だから祖母は何も知らされずただ自分の失敗だけを論われて、あの父親共々断罪された。
まぁ基本的には内々にだが。
だって結局は家庭内の問題だから。
ただそのために会社を潰すことを視野に入れたから大事になったのだ。
一般家庭なら勤めている会社などに内容証明でも送って社会的に抹殺することは容易い。
そして1社員を左遷したところで企業としてダメージも少ない。
実務が殆どない名ばかりの社長夫人の祖母相手なら知り合いや親戚にその所業を流せばある程度大人しくさせることもできる。
だが社長夫人であることをステータスに思っていた祖母をそこから引き摺り下ろすことが一番ダメージがあると踏んだのだ、彼女は。
だが企業規模はそこまで大きくなくても、家庭内のことで収まる負の情報はもみ消すこともできなくはないのだ。
実際にやってきたのだし。
まぁそれでも業績悪化したままだったのは、離婚と不貞のこともあるが、更にいうと離婚してからも取り引き先の人間や配偶者にちょっかいを何度か出していたから。
表向きは内々に処理はしたものの、どうしたって影響が出る。
あの男は仕事ができないとは言わないまでも、致命的に人の機微に弱く、何か起きても両親や周りがなんとかするという楽観があったから、自分のしでかしたことを本当の意味で理解してこなかった。
まぁ大企業ではないから次期社長が不倫や浮気してたところで、関係がない人間からすれば「ふーん」で済む問題なので、どこかで取り上げられることもなく、表向き炎上する訳でもなくのらりくらりとやってこれた。
だが、そのせいで彼女は実の父親に憎悪を抱き叩きのめすことを定めてしまった。
あの男が心から反省して周りにきちんと対応できていればここまでの憎悪を抱かなかったかもしれない。
まぁたらればの話でしかないが。
あの男は無駄に口がうまかったから、本気になった女が一人娘である彼女に色んな意味で近づいてきたことも憎悪に拍車をかけた様に思う。
普段なんの世話もしない下半身だらしないキモい実父のせいで彼女の人生に影を差してきたのも事実。
会社のことは大事だった。でも既存の状態で存続させることには反対だったのだろう。
実父を飛ばして次期社長になることもできなくはなかった。
彼女は優秀で努力家だったから。
でも実父の今までのやらかしで斜陽になっているとは言え会社を残しておくと、あの男が何を仕出かすか不透明だった。
ならば無用なモノを排除しつつ会社、いや技術を残すためには吸収合併の方が良かった。
それと実は斜陽に拍車をかけているのが後継者不足。
社長ではなく技術者の。
新規採用の募集をかけてもそこまで応募がなく、あってもあの実父や縁故採用の輩が余計なことをしたり、出来上がった輪の中に入れず(馴染めず)に辞めていくことも多く、なかなか定着しないせいで今後の会社の存続がじわじわと…と言った状況だった。
彼女はこっそりと長年勤めてくれている社員に突然形態が変わることを謝っていた。
まぁ経営者が変われば方針が変わるのは普通なことではあっても、長く同じ状態が続いていれば突然の方向転換についていけない人間もいなくはないから。
正直言ってあの男が経営者となった未来の方が不安だったという声も多く、それと彼女が吸収する側の会社への交渉したことによって悪くない条件になっていたので反発は少なかった。
ふとした時に彼女は、『家族のいざこざに巻き込まれる形の社員には謝っても謝りきれない』と零していた。
『罪悪感を埋めるためにがむしゃらだった』と後に言っていたのも印象的だった。
あの男の人望のなさも浮き彫りになったが。
まぁだからこそうまくいったのかもしれない。
全てが終わった後の彼女はしばらくは茫然自失と言った様子だった。
年単位の復讐をやり遂げた達成感よりも穴が空いた様な寂寥感があった様に思う。
それほどまでに長年、心を消費し摩耗していたのだろう。
後悔はしていないと言っていたのも強がりもあったと思う。
でもそれでも止まれなかった、ただそれだけ。
一番近くで見ていた自分は復讐が終われば、勢いそのままに自殺するんじゃないかとも思っていた。
一応、ブレーキとなる彼女の家族がいるが、それでも魔が差した時に人間どうなるかはわからないものだ。
そんな彼女を繋ぎ止めたのは小さな命だった。
人ではなく猫の。
私達は復讐の名の下に繋がる関係だったので、基本的に触れ合いをして来なかった。
なので子供はもちろんできない。
歪な家族関係で育っているので、子供を持つ勇気もなかった。
彼女の弟は今まで家庭環境的に猫を飼う余裕はなかったが、近所の保護ねこカフェでのボランティア活動に時折参加していた。
今回のことで言い方は悪いが大きなお金が入ってきたので、カフェで一番懐いてくれていた子を譲渡してもらっていたのだ。
そしてその猫の姉妹猫を姉に勧めていたのだ。
初めは否定していたが弟の熱心さに絆され、実際に見に行って陥落した。
彼女は猫との優しい交流で少しずつ人としての何かを埋めていっている様に思う。
正式に譲渡してもらった子は賢く穏やかで程よい距離感を保つ子だった。
弟から色々教わりながら生活している。
そして私達は離婚は
しなかった。
ケジメだと離婚届を持ってきた彼女を留めることには苦労したが、そこも彼女の猫が鎹になってくれた。
歪な関係ではあったものの、彼女との生活は嫌いではなかった。
今でも過去を思い出すと辛い気持ちや苦い気持ちも湧いてくるが、お互いを一番理解し合える相手である彼女といることで乗り越えることができる様に思えるのだ。
完全には難しいかもしれないし、彼女の父と祖父母にしたことは多くの人も巻き込んで褒められたことではないし、時折良心の呵責に苛まれるが、それでも彼女と離れたいとは思わなかった。
彼女もまたそうなのだろう。
今後はどうなるかわからない。
だが少しずつ未来を見ていきたいと思う。
娘とその婿による実父と祖父母への復讐譚でした。
会社が大事だったけど、大事にしてしまったと言った感じでしょうか。