第62話
拍手の音が鳴り止むと、待っていたかのように楽団が演奏を始めました。
すると、殿下は私に熱い眼差しを向け、手を差し出しました。
「レディ、私と一曲踊っていただけないでしょうか?」
私はお伽噺のお姫様にでもなったようで、うまく思考もできないまま殿下の手をとって言いました。
「はい。」
殿下に連れられ、私たちはダンススペースの中央に歩いて行きます。
全ての参加者が注目するなか、殿下のリードで踊り出しました。
頭がフワフワしていて、地に足がついていないというのはこういうことだと思います。
途中で殿下が、「このまま時が止まってしまえばいいと思うのは罪だろうか?」なんて耳元で囁くものだから、顔は火のように熱くなって記憶も曖昧なまま踊り続けました。
我に返ったのは、踊りを終えて拍手が鳴り響いたことに驚いたときでした。
私たちはお互いに会釈して離れると、会場ではダンスの申し込み合戦が始まりました。
これって、『私はあなたのことが一番気になっています』と相手に伝えているようなものだから、大告白大会みたいなものでは…?
私はアニーやシェリーが誰と踊るのか、ものすごく気になってしまい、会場を見渡しました。
婚約済みの生徒は当然のように婚約相手とペアになっているから、今の段階で相手に申し込んでいるのは婚約が済んでいない人ということよね。
最初に発見した顔見知りはメローナ先輩でした。果敢に侯爵家次男の2年生にアタックしにいったけど、なんか断られたみたいでぐったりしているのだけど。
うーん、メローナ先輩は子爵令嬢だから伯爵家の令息あたりにしたほうがいいかも…。
広い庭園のある貴族家が結婚の条件に入っているけど、家格の差は結構厳しいかもしれないです。
次に注目したのはレイリー様とオーウェン様です。
レイリー様から歩み寄って声をかけたみたい。
オーウェン様、レイリー様はお勧めですよ!家格も公爵令息と父親が宰相の侯爵令嬢でバッチリだし、レイリー様は貴族の鏡のような私の憧れの人だからね。
それに2人が上手くいってくれたら私の悩みの種も一つ解消されるから最高なのだけど。
そう思っていたら、オーウェン様が断ったみたいでレイリー様のもとを離れていきました。
何してくれてるのよ!
レイリー様に恥をかかせるなんて、最悪だよ。
もうオーウェン様のことなんて嫌いです。
シェリーには多くの貴族令息が群がっていました。シェリー自身は準男爵という立場だけど、聖女を妻に迎えることができたら社交界での立ち位置も上がるだろうから、この人気もわかるけど、なんか面白くない…。
変な男に騙されないか、お姉さんは心配なのです。
困っている様子なので助けに行こうかと思ったら、カインが人垣をかき分けてシェリーの前に立ち、手を差し出しました。
シェリーは少し迷った様子を見せたけど、結局手をとりました。
うーん、どうなんだろう?
カインは困っているシェリーを助けたようにも見えたし、シェリーも収拾がつかないから生徒会で顔見知りのカインの手をとったようにも見えるけど。
でもまぁ、助けられたことでシェリーがカインに好意をもったなら、それはそれでいいかもしれない。カインならシェリーを大切にしてくれると思うしね。
アニーはどうしているか必死に探してみると、壁の花になっているではないですか。
誰にも申し込まれてない!?
そんな馬鹿な…。あんなにいい子を放っておくなんて、世の男どもの目は節穴なの?
貴族視点でいえば、小さい領地をもらったばかりで税収もほとんどない名ばかり男爵の令嬢だから結婚の旨みがないと思うかもしれないけど、とっても悔しいです。
それに一緒にダンスの練習をしてきた私は、アニーがこの催しに対して真摯に向き合ってきたことを知っているから、余計にイライラしてしまいました。
いっそ、私がダンスを誘ってしまおうかと思ったけど、令嬢同士で踊って悪目立ちしたらアニーにとってマイナスかもしれないし…。
そんなことをアレコレと悩んでいると、アニーの前に一人の男性が優雅に歩いて行き、手を差し出しました。
あれって、オーウェン様!?
レイリー様を断って、アニーを誘うの?
確かにアニーやシェリーとも仲良くなりたいとか言ってはいたけど、もし『将を射んとする者はまず馬を射よ』的な発想でアニーを誘っているなら許せないのだけど。
実際、アニーも驚いちゃってるじゃない…。
公爵令息から誘われたら無理もないよ。
動揺しつつもアニーはオーウェン様の手をとったけど、アニーが断れるはずもないし、モヤモヤするんですけど…。
私の気持ちを置き去りにして、楽団による演奏が始まってしまいました。
私と殿下は、今回はお休みです。
この後は、相手を変えたりしながらダンスパーティーは続いていくみたい。
3曲目からは婚約者以外とも踊ったりするらしいので、私のところも聖女とお近づきになりたい男子がいっぱい来ちゃいそうなのよね。エリエスは美人さんだしなぁ。
私は生徒達の様子をなんとなく眺めていました。
シェリーはダンス慣れしてなくて、ぎこちないけど一生懸命なところが微笑ましいです。
アニーは頬を赤らめて踊りに集中しています。あのオーウェン様の顔が目の前にあったら緊張するよね…。
メローナ先輩が早くも食事に手を出していて、本格的に誰か紹介することを考えてあげないといけないように思いました。
そして、レイリー様が会場に見当たらないことに気づきました。
断られてショックだったのかなぁ…。
私は気になってしまって、気持ちが沈んでいきました。




