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第60話

「そういうことだったのですね。また別の人格になるのかと思って焦ってしまいました。」

それは焦るよね…。それにしても、安堵の表情を浮かべるアニーは可愛いなぁ。

「もう一人の私とは仲良くなれそう?」

「はい、楽しかったですし、またお会いしたいです。」

私は『よかったね』とエリエスに話しかけると、トクンと鼓動が返ってきました。


「あの、このマナの木の枝ですけど、本当にもらっていいのでしょうか?」

伝説級のアイテムをもらって、アニーは困惑しているのかな。

「初めての友達だから、何かプレゼントしたかったのよ。遠慮せずに貰っておいて。でも、他の人には内緒よ。」

「はい、絶対に言いません。言っても信じて貰えなさそうですけど…。」

そうね、今を生きる人々にとって魔法なんて空想上のものだという認識だから、おかしな事を言い出したと思われそう…。


「魔法を使うには、この枝と魔石が必要みたい。他にも必要な条件があるかはわからないのだけど、もし方法がわかったら共有しましょう。」

「はい、一人でいるときに試してみますね。」

アニーのワクワクしている様子が微笑ましいです。

なんとなく、真面目なアニーのほうが先に魔法の使い方を解明しそうな気がします。


それからは私も魔石を握って枝を振ってみたり、「風よ、吹け!」とか言いながらポーズをとってみたりと、絶対に人に見られたくない試行錯誤をしてみたのですけど、何も起きなくて諦めてしまいました。

他にも条件があるかもしれないし、なんか恥ずかしくなってきちゃって。


そうして日々は過ぎ、魔法のことを忘れた頃にアニーから朗報が届きました。

アニーは私が諦めた後も、いろいろ試してくれていたみたいで、ついに魔法の使用方法の第一歩となる発見をしたのです。


マナの木の枝に水の魔石を布で巻き付け、枝の先から水が出るイメージを強く心に描くと、枝の先端から実際に水が出るということでした。

侯爵家に来て実演してくれたのですが、確かに少しだけ水がでたのですが、正直『これだけ?』と思ってしまいました。


私のガッカリ感が伝わってしまったのか、アニーは今後の可能性について熱弁します。

「見てください。この水の魔石、枝に触れていた一部分だけ水色から無色に変わっていますよね。このままだと、もう一度水を出す事はできないのですが、接する位置を変えると、また水を出せますが、やはり無色に変わります。つまりですね、接する部分が多ければ、もっと大量の水をだせると思うんです。ただ、魔石は使い捨てになってしまいそうですが。」


「なるほどね、確かに高価な魔石を使い捨てにして実験を重ねるのは難しいわね。」

「あとは、大ぶりの枝の一部をくり抜くとか、魔石と接する部分を増やす工夫をどうするかが問題ですね…。」

私なんかより、ずっと真剣にアニーは魔法の復活に情熱を傾けているようです。

前世でいうところの中二病を思い出しましたが、実際に魔法が使えてしまっているので、やる気が衰えることはないかもしれません。


「エリエス様、貴重な物ということは重々承知しているのですが、枝を少し加工してみてもいいでしょうか?持ち手のところの太い部分を下からくり抜いて空洞をつくって、端材で蓋をするようにして、中に魔石を入れるという方法を試してみたいんです。接する部分を増やすのは、魔石によって大きさも異なるので難しいですから、枝に内包させてみたらどうかと考えてみました。」

早口で説明するアニーに、やや気圧されつつも、面白い発想だなと思いました。


「是非、やってみて。そうだ、私から魔石を一つプレゼントするわね。アニーにばかり負担はかけられないもの。」

「ありがとうございます。正直なところ、私の自由に使えるお金では、もう魔石を買うことができなかったので助かります。」

帰り際に、私は自室に保管している火の魔石を一つもってきて、アニーに渡しました。


火の魔石は、過去の火山噴火で流れ出たマグマが固まったものの中から多く発見されるので、流通量も多くて比較的安価なほうなのです。温かいと感じる程度の熱を放出し続けるので、冬場の寒いときに握ったりして暖をとるのに使用しています。

まぁ、貴族の財力があるからできることではあるけどね。


アニーは喜んで帰っていったのですが、ここで渡したのが火の魔石だったことを後に後悔することになりました。


加工を終えたアニーが火が吹き出るイメージをしたところ、想像を超える炎を吹き出して、レイモン家の納屋の一つを焼き尽くしてしまったのです。

魔法のことは秘密なので、アニーはお父様に火遊びをしていたと言うしかなく、こっぴどく叱られて暫く自宅謹慎となってしまいました。

因みに魔石は無色のガラスの粉みたいになってしまったそうです。


謹慎が解けて侯爵家に来たアニーから当時の状況を聞いて、私も魔法の可能性に興奮しましたが、逆にアニーは心を折られてしまったようで落ち込んでいました。

なんか、アニーに申し訳ない気持ちになっちゃったよ。


アニーのやる気も落ちてしまったので、私たちはしばらく魔法のことは忘れようと約束しました。

もうすぐ夏季休暇が終わるので、気持ちを切り替えようということになったのです。

また、夏季休暇の最終日には王立学校の講堂でダンスパーティーがあるので、そちらに興味が移ってしまったというのもあるのですが。


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