第59話
設定だと、魔法は失われた技術だけど魔石を利用すれば使えるという世界のはず。
どうして失われたのかはわからないけど、『マナの木』なんて図鑑にも載ってないのだから、その枝が魔法を使うのに必要だとしたら、何らかの影響で『マナの木』が絶滅したら魔法技術も失われていくかもしれない。
これはあくまで仮説だけど、辻褄は合っているよね。
じゃあ、なんで侯爵家に『マナの木』が生えているのかって話になるよね。
原作ではエリエスが王子毒殺未遂事件の毒を作ったと認めたけど、性格からして殺人を企てるタイプではない。あと不自然に冷血草を保管していたことを考えると、もしかしたら解熱剤を作ろうとしたのが毒として使われたということはないだろうか?
ポタージュスープに入っていても効果は失われなかったことから、熱に強い性質をもっていることになる。煮沸して水分をとばして濃度を上げたら、解熱剤から毒薬に早変わりしてしまうのでは?
冷血草も図鑑に載っていない植物だから、本来は絶滅しているかもしれない。『マナの木』の根元に生えているなら、『マナの木』の絶滅と冷血草の絶滅はイコールの関係だよね。
闇ギルドが冷血草の葉を所有していた理由はわからないけど、原作に忠実にオーウェン様が殺害されるためには、何かしら入手する方法がある世界設定になっているはず。
同じように、エリエスも原作に忠実に毒を作成するためには冷血草を入手する方法がないと辻褄が合わなくなる。エリエスはほぼ引き籠もりだから冷血草を入手するには、侯爵家に自生している必要があるのだけど、冷血草が自生するためには『マナの木』が存在していることも必要になってしまう。
私の仮説が正しいとするなら、この世界は原作者の考えたストーリーに辻褄があうようにするため、歪な部分が存在してしまうわけで、その最たるものが侯爵家に自生する『マナの木』と冷血草なのかもしれない。
私の思考の裏では、エリエスとアニーの会話が続いていました。
「この木は確かに見たことがないですね。下草も知らないものが多く混じっているみたいです。」
「これはね、『マナの木』というのよ。周囲のマナを集めるんですって。その影響で下草も特殊な植物が育つのだと思うわ。」
「すごい場所ですね。教えていただき、ありがとうございます。ところで、『マナ』とは何のことでしょうか?」
「詳しくはわからないけど、魔法に関係しているみたいだから魔力というものかしら?」
「魔法!?確かに古い文献には『遠い昔、国王は特別な杖を用いて魔法を行使した。』と記述されていました。王家の神性を高めるための誇張だと思っていましたが、魔法は本当に存在するのですね。ギフトで得た知識なのであれば間違いは無いでしょうし…。」
「その杖は、『マナの木』の枝なのかもしれないわね。枝が魔法の触媒になるみたいですし。」
しばらく、アニーは驚きで言葉を失っていました。
「私は歴史的大発見に立ち会ってしまったのかもしれません…。」
「青い薔薇のお礼に、アニー様に一本あげるわ。」
そう言うと、エリエスは『マナの木』の細い枝を一本ポキリと折ってアニーに差し出しました。
「い、いいのですか!?」
「いいの、たくさんあるのだから。それに…友達だから特別よ。」
『友達』と言うときにエリエスは緊張していたけど、なんとか言えたのはよかったです。
よかったけど、そんな凄いものを簡単にあげてはいけないような…。
アニーなら悪いようにはしないと思うけど。
「ありがとうございます。家宝にしますね。」
おずおずと受け取りながら、アニーは緊張して言いました。
私は思わず『エリエス、私も一本ほしいのだけど』と強く念じると、エリエスは『うん』と返してくれて、もう一本枝をポキリと折って自分で持ちました。
その後、エリエスとアニーは庭園を歩きながら、お互いの植物知識を披露しあい楽しそうに過ごしていました。
一通り庭園を巡ると、ガゼボに戻ってきて向かい合って座りました。
「アニー様、今日は本当に楽しかったです。こんなに楽しかったのは生まれて初めてです。」
誇張した表現に聞こえるかもしれないけど、エリエスの人生を考えたら嘘ではないように思えました。
「私も、こんなに植物のことを深く語り合ったのは初めてでして、とても楽しい時間でした。」
まぁ、私と一緒のときも植物の話が中心ではあるけど、そこまで深い話にはなっていなかったかも。
「また、お話しましょうね。」
お、自分から誘えた。凄いよ、エリエス!
「はい、是非お願いします。」
アニーも無理してる感じはなく、心から望んでいるみたい。
よかった、よかった。お姉さんは嬉しいよ。
「それでは、エリコに戻るわ。」
「え、エリコとは??」
何のことかわからないアニーが混乱するなか、私は自分の意思で体を動かせるようになりました。
「アニー、いつもの私に戻ったわ。えっと、もう一人のエリエスは私のことをエリコって呼んでいるの。あまり気にしないでね。」
私は焦って取り繕いましたが、いつか、うっかりエリエスが私の秘密を喋ってしまいそうで怖くなりました。




