第57話
今日も、いつも通りにアニーは侯爵邸にやってきました。
午前中の淑女教育のときには、ちゃんと理解してもらえるか心配でソワソワしてしまって、久しぶりに先生から「集中しなさい」と注意されてしまい、アニーの前で恥をかいてしまいました…。
昼食後には、庭園のガゼボで簡単なお茶会をセッティングしてアニーを誘いました。
夏の日差しはまだ健在で、暑い日が続いているけれど、ガゼボの中は日陰なので吹き抜ける風もあいまって心地よいです。
シエナに冷やしてもらっていたハーブティーを煎れてもらい、いよいよ多重人格について説明をしようと思います。
「シエナ、アニーと2人きりで話をしたいので、席を外してくれる?」
この事実を知る人は極力少ない状態にしたいので、シエナにそうお願いすると、露骨に拗ねた表情になりました。
「また、私は抜けものなのですね。」
でちゃったよ、シエナの『仲間はずれは嫌』状態…。
「今から話すことは、お母様も知らない重要なことなの。いつかシエナにも話すときがくると思うけど、そのときまで信じて待っていてほしいの。絶対にシエナの助力が必要になることだから。」
エリエスと頻繁に入れ替わるようになるなら、いつも側にいてくれるシエナのフォローは必要だもの。だから、真剣にお願いしました。
私の気持ちが伝わったようで、「わかりました。そのときが来るのをお待ちしています。」と言い残して離れていきました。
なんか、侍女としても貴族令嬢としても、あんなに露骨に表情に出ちゃうのはどうかと思うけど、裏表がないからこそ私も安心感を得られる存在なのよね。
「あの、エリエス様。重要な話とは、また神託に関することでしょうか?」
アニーは以前の疫病事件のことを思い出したのか、神妙な面持ちで聞いてきました。
「そういうのではないのだけど、絶対に他の人には知られたくない私の秘密をアニーに知ってほしくて…。」
私はアニーに頭がおかしくなったと思われないか心配で緊張してきました。
「私を頼っていただけるのは、とても嬉しいです。私がそれを知ることで何かエリエス様の助けになるのであれば、精一杯ご協力いたします。」
アニーの優しい笑顔に勇気をもらって、いよいよ覚悟を決めました。
「今から話すことは、嘘偽りないことだから、親友であるアニーには知っておいてほしいし、信じてほしいの。」
「エリエス様の言葉を私は疑ったりしません。」
真剣なその言葉が、私の心を落ち着かせてくれました。
「私ね、実は多重人格なの。今までアニーと接した来たのは私で間違いないんだけど、もう一人の人格ともアニーには仲良くなってほしくて。」
こんな荒唐無稽な内容だけど、アニーは笑ったり疑ったりすることなく、真剣に考えているようでした。
「医学書に多重人格についての記載はありました。正直なところエリエス様のもう一人の人格にお会いしたことがないので、信じていますがピンときません。」
さすが、アニーは博識だね。
それに、馬鹿にしたりしないでちゃんと受け止めてくれているのが何より嬉しい。
「昔の私が他の令嬢と交流をもたないことで、『冷酷姫』って呼ばれてたことは知らない?」
「噂は聞きましたが、信用していませんでした。あまりにも私の知っているエリエス様と印象が異なるので…。」
「そのときの私が、もう一人の人格だったの。」
アニーは驚いたようだけど、腑に落ちたのかすぐに落ち着きを取り戻しました。
「お母様や、シエナ、殿下に聞いても、私は別人のように変わったと言うと思うわ。」
「少し理解できた気がします。それで、そのもう一人の人格のエリエス様とは、よく自我が入れ替わったりするのですか?」
「ここ一年半くらいは、ほぼ私だったよ。でもね、もう一人のエリエスがアニーと仲良くなりたいって言っているの。」
「エリエス様はもう一人の人格と意思疎通ができているのですか?」
「いつもではないけど、たまにできることがあるわ。」
「そうなのですね。相変わらずエリエス様は私の想像を超えてきますね。」
褒め言葉ではないと思うけど、アニーは何やら感心しているようでした。
「もう一人のエリエスも植物が大好きでね。アニーと植物の話をしたいのだと思うわ。」
「植物の話であれば、私でもお役に立てると思います。」
「役にたつとかじゃなくて、純粋にお喋りを楽しんでもらえたら嬉しいわ。友達になるって、そういう感じでしょ?」
「わかりました。意識しないでお喋りを楽しめばいいのですね。」
アニーが受け入れてくれて安心しました。
私は朝からずっと不安だったので、すごく解放された気分です。
「それでは、今からもう一人のエリエスと替わるから、よろしくね。」
私が笑顔でお願いすると、急なことにアニーは動揺しました。
「え、今ここで入れ替わるのですか!?」




