第55話
会場となる広場は、王都南門から王城に向かう一本道の貴族街にさしかかる場所にあります。ここから放射線状に大通りが延びていく形で商人街や職人街などが広がっています。
告知は早朝に行われ、街には号外が配られ、それはそれは大騒ぎです。
私たちは貴族街側に設置された休憩所用の大きなテントの中で待機しています。
昨日は王城にそのまま泊まったため、お父様とお母様もいてくれるのが心強いです。
他には陛下、王妃様、殿下、宰相様、近衛騎士数名とメイドさん数名がいます。
テントの入り口から外の様子を覗いてみると、熱気に包まれた人の群れに圧倒されてしまい、血の気がひいてしまいます。
緊張する私を心配して殿下が声をかけてくれました。
「エリエス、何も特別な言い回しは必要ない。昨日語ってくれた調子で大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。確かに聖女らしくしないといけないと難しく考えすぎていたかもしれません。」
私は殿下の言葉で少し緊張が緩和しました。
私の様子をみて、まだ緊張が残っているのを感じとった殿下は、私に顔を近づけたかとおもうと、私の前髪を左手で掬い上げ、おもむろに額に口づけをしました。
「成功するおまじないだよ。」と慈しむように言うのです。
お父様の咳払いが響き、王妃様は「あら、あら。」と嬉しそうな声をあげています。
お母様は私を殿下から引き剥がし、「殿下、まだ婚約の段階ですから、そのような行為はお控えください!」と殿下を威嚇しています。
私はというと、胸がドキドキしすぎて頭が真っ白になっちゃいました。
群衆の前に立つ緊張を超えたショックです。
しかも両親の前でキスって…。恥ずかしすぎるのだけど。
お母様が私を守るように抱きしめてくれていたので、少しずつ心臓のバクバクがおさまってきて、平常心を取り戻した頃にはショック療法が効いたのか緊張はなくなっていました。
その代わりに殿下の顔を見ることはできなくなっていましたけどね…。
そしてついに、正午を告げる鐘が鳴り響き、聖女による神託伝達の儀が始まる時間となりました。
テントを出る前に呼吸を整えようと深呼吸していると、私の右手をシェリーが左手で握りました。
「以前、アニー様にこうしてもらって心強かったので。」
シェリーだって緊張しているだろうに、私を精一杯励ましてくれている。
シャキッとしろ、23歳、大人の女性でしょう!
15歳の少女に心配かけている場合じゃないでしょ。
私は自分に気合いを入れると、トクンと鼓動があり『エリコ、がんばって。』と聞こえた気がした。
なんか、すごい背中押された気分。やるよ、エリエス!見守っててね。
私はシェリーに「行こう。」と力強く声をかけ、テントをでました。
私たちが広場に設置されたひな壇に立つと、喧騒が嘘のようにひいていき、広場は静寂に包まれました。誰もが、言葉一つ聞き逃すまいと集中しているようでした。
私は群衆をゆっくりと眺め、最後に一呼吸して話し始めました。
「エルネシア様は人々が不安に喘いでいることを憂いておいででした。そのため、人々が再び安寧の時を取り戻せるよう、今この世界に起きた真実を私に伝えてくださいました。この度の異変は、この世界をお造りになられた創造神様が新たな世界を創造するためにこの世界から旅立ったことが発端です。(作者は次の作品を執筆しているだろうし嘘ではないよね)
創造神様の軛から解き放たれ、天地創造に関わった精霊が自由を得たため、闇の精霊が暴走したのが先の異変です。しかし、今後夜が長くなっていくようなことはなく、世界の終末が近づいているというようなことはないと断言されました。エルネシア様はこの世界の行く末を見守るために創造神様によって生み出された存在であり、創造神様によってこの世界に残された我々の希望なのです。どうか皆様、平穏な日常を取り戻してください。それこそがエルネシア様の慈愛に応えるために我々が為すべきことなのです。」
一つのザワつきが瞬く間に伝播し、大きな喝采へと変わっていきました。
私は、集まった人々の安堵や喜びの表情を呆然と眺めていました。
「エリエス様、すごいです。」声につられて振り返ると、シェリーが涙ぐんでいました。
やりきった。そう思ったとき、群衆の中にいた一人の男が声をあげた。
「天地を想像されたのはエルネシア様だ!聖女が聖典を否定するのか!?」
せっかく広がった安堵の気持ちに水をさされました。
「あなたはエルネシア様の言葉より聖典の記述を信じるのですか?」
弱気は見せない。私は堂々と言い放ちました。
「エルネシア様の言葉を聞いたって証拠があるのか?このペテン師め!」
ペテン師と言われて怒りが込み上げてきました。たしかにチョイチョイ嘘ついてきたし、私の脚色も入ってるけど、ほぼエルネシア様に聞いた通りなんだからね!
私の言葉に信憑性をもたせるために、私はポタージュスープ食材鑑定のときに掴んだ、祝福の力の放出を披露しようと思いました。
シェリーがカインを助けたとき、私はその光を神聖で美しいと感じたもの。
疑うなら見せてやりますとも。
光れ、私の体よ!
いちゃもんをつけてきた男を黙らせようとした私の行動は、予想外の光景を生み出してしまい、あまりの光景に私も黙ってしまいました。
私を中心にしていると思うのだけど、見渡す限りが光の膜に覆われているのです。
どういうこと?なんか、力が抜けるよりも注がれている量が多いような感じなんだけど…。
エルネシア様が、大盤振る舞いしているみたい…。
これは、やりすぎだよぉぉ…。
しばらくして光がおさまると、群衆から歓声があがりました。
「聖女様が闇を払ってくれたぞ!」
その言葉を皮切りに、群衆の盛り上がること、際限がありません。
振り返ると、シェリーがとんでもない奇跡を目撃してしまったような表情で唖然として私を見ています…。
「えっと、これからも友達でいてね…。」
私は動揺して変な言葉を掛けてしまいました。
「は、はい。勿論です。」
なんか気を遣わせているような…。




