第50話
あの日からオーウェン様からのアプローチは控えめになりました。
また、例の噂をしていたグループに対して堂々と威圧していたのを見てしまいました。
「エリエス嬢は私の命の恩人だからね、今度は私が守ってやりたいと思うのは当然だろう?そう、おまえ達のような碌でもない噂を撒き散らす害虫からね。」
目が全然笑ってなくて、震え上がった貴族子息たちは「すいませんでした。」と即謝罪して逃げていきました。
それからは、オーウェン様は恩を返すためにエリエス嬢の近くに侍っているのだという共通認識が広まりましたが、近くにいることは変わらないのよね…。
前みたいに私たちと4人で食事しようとしたり、無理矢理話に参加しようとしたりっていうのは無くなってよかったのだけど。
まぁ、そういうのも含めて日常みたいになって日々が過ぎていったのですが、あの事件は起きてしまいました。
カンサス男爵領キナン村で疫病発生。
王家を狙った黒幕は暫く大人しくするだろうと思っていたけど、関係なかったか。
もしかして、また別の勢力だったりするのかな…?
対策は立てていたので、私はすぐに動き出しました。
陛下に謁見を申し出て、調査に向かいたいと願い出ました。
陛下は渋りましたが、また植物の毒が関係しているかもしれないと私が食い下がると、熟考の末に了承してくれました。
私はアニーの功績を高めるために、調査隊に同行するようにアニーを誘いましたが、ここで予定が少しくるいました。
「私が調査隊に同行するのは不自然ですから、エリエス様が疫病の原因と対策を発見して戻られるのを王都でお待ちしています。」と笑顔で辞退されてしまいました。
「でも、一緒に発見したほうがアニーの評価もあがるし、陞爵にもつながると思うのだけど。」
「エリエス様、レイモン家の陞爵より王国民の命を救うことが大事なのです。私は国の大事を解決することに助力できるだけで十分です。」
その言葉は、何を為すべきかを悟り粛々と善を遂行する聖女のようでした。
私は多くの人命がかかった場面で自分の欲も叶えようとしていたことに恥ずかしくなってしまいました。
「アニーこそが救国の聖女ね。」
私の無意識に零れた言葉にも、アニーの毅然とした姿が揺らぐことはありませんでした。
調査は私とシェリーと医師団に騎士数名が帯同しました。
これにあたって、王家から正式に私のギフトが公表されました。
そして、王家を狙った2つの事件を私がギフトで解決に導いたことも公表され、巷では『救国の聖女の再来だ』と騒ぐ声が広がりました。
シェリーだってカインを救った聖女なのに、私ばかり注目されてしまいモヤモヤしますが、今は人命を救うことが最優先です。
アニーが私の背中を押してくれていると感じるのです。
到着するとすぐに井戸水を採取して、沸騰させ残った異物を私が鑑定して毒茸の粉末が原因だと周知し、井戸の使用を禁じました。
並行してシェリーと医師団が人命救助に奔走しています。
その後、無事だった孤児の兄妹に話を聞き、わずかに採取できたエントラという植物を患者に与えて効果があることを実証しました。
そして、騎士の一人に早馬を出させ、陛下に報告するとともに、レイモン家のアニー嬢が趣味で育てている野草のなかにエントラもあったので、至急採取してきてほしいと依頼しました。
数日後にはエントラが届き、多くの命が救われました。
勿論、全ての命を救えたわけではないけど、原作で語られた惨事を考えたら被害は最小限に抑えられたといってもいいと思います。
原作では、その後も近隣の町や村に疫病が広がっていくのですが、解決策が公表されたからか、そういう展開にはなりませんでした。
事件解決から暫くして、私は陛下に呼ばれ恩賞を授けたいと言われました。
「私よりも、シェリー嬢や帯同した医師団や騎士、エントラを提供したアニー嬢に恩賞を与えていただけませんか?」
私はアニーの崇高さに影響されているのか、こんな言葉が自然とでました。
陛下は眩しそうに私を見て「わかった」とおっしゃいました。
王国では、救国の聖女が自らの功績を他者に譲ったと美談として噂が広まってしまったのが、なんか悔しかったです。
恩賞はどうなったのかというと、騎士の方々には勲章が与えられました。医師団の方々には特別俸給が支払われました。また、シェリーは準男爵の位を与えられ、アニーのレイモン家は男爵に陞爵され、王都付近に小さな土地の権利を得ました。
陛下の心遣いには感謝しかありません。
私はこの事件を機に、小説の世界にいるという幻想を捨てようと思いました。
この世界には人々が必死に生きているのだと、私はエリエスが受けたエルネシア様の加護で少なからず人々を救うことができるのだと、改めて実感し、アニーやシェリーに恥ずかしくない自分でいようと決意するのでした。




