第45話
当日は殿下が王家の馬車で迎えに来てくれました。
馬車の中で2人きり、向かい合って座ると自然と目と目があうわけで、私はどうしても意識してしまいます。
「エリエス、顔が赤いようだけど体調が悪いのかい?もしそうなら日を改めるよ。」
殿下が心配して優しい言葉をかけてくれました。
どうしよう…。もう素直に言っちゃう?
思い悩んでいると、ふと初めてのお茶会のことを思い出しました。
あれ、私そのときに調子にのって『お慕いしている』って告白みたいなことしてたじゃない。
なんだ、1年も前から殿下は相思相愛だと思って接してくれていたのに、私だけうじうじ悩んでいただけじゃない。
急に気が楽になり、私は大事な確認をエリエスにすることにしました。
『ねぇ、エリエス。私は殿下のことが好きで結婚したいって思っているの。エリエスは殿下のこと好き?』
少し時間をおいて、小さくトクンと鼓動が返ってきました。
『結婚してもいい?』
すると、またトクンと返事があってドキドキしてきました。
これはエリエスのドキドキだね。
恋愛について自己表現したから、エリエスは恥ずかしいのかな?
私の好きな気持ちを共感するうちに殿下を好きになったのかもしれないし、優しく守ってくれる殿下を私の中から見続けてきて心が動いたのかもしれない。
ただ事実として、私たちは殿下との結婚に2人の意思を重ね合わせることができました。
いつかエリエスと殿下の魅力について語り合える日が来るといいな。
しばらく黙っていた私は、殿下に素直な気持ちを伝えました。
「最近、殿下をお慕いする気持ちが以前よりも強くなっておりまして、こうして目を合わせていると顔が火照ってしまうのです…。」
殿下は顔を真っ赤にして固まったかと思うと、恥ずかしくも嬉しい言葉をくれました。
「私もエリエスを好きだという気持ちが日増し強くなっているんだ。だから、絶対にエリエスを幸せにするよ。」
私たちはお互いに真っ赤な顔で見つめ合いました。
これは、キスの流れな気がする。
恋愛経験のない私でもなんとなくわかる…。
でも、15歳のエリエスにはまだ早いと、変な保護者っぽい意識が邪魔をしてしまい、私は話題を変えることにしてしまいました。
「殿下、オーウェン様の病状について教えてください。」
でも、私はわかっています。
エリエスのせいにして、恋愛に臆病な私が逃げただけだということを…。
殿下のお話では、オーウェン様は1年ほど前から徐々に体温が下がっており、食欲も低下し体を動かすのも辛いようです。意識はあるけれど、かなり衰弱されていて、原因がわからず医者も手をこまねいている状態とのこと。
また、殿下は従兄弟であるオーウェン様とは幼なじみで、幼少期は殿下とオーウェン様とカインでよく遊んだという思い出話をしてくれました。
聞いているうちに、殿下にとってのオーウェン様とカインは、私にとってのアニーとシェリーのような感じなのだと思いました。
そう思うと、オーウェン様の死が殿下に与える心の痛みは、私が原作を読んで考えたものを遙かに超える大きなものだっただろうと感じました。
何とかしてあげたいという私の気持ちは、より強くなるのでした。
リネット公爵家に到着すると、ロマンスグレーの渋い老執事が出迎えてくれました。
公爵家は敷地も広く庭園も立派で宮殿のようで、さすが王弟殿下の住まわれているお屋敷だなと圧倒されました。
私たちは、メイドさんに案内されて、さっそくオーウェン様の寝室に向かいます。
メイドさんが「アーランド殿下が到着なさいました。」と声を掛けると、「中に入ってもらってくれ。」と力ない声が返ってきました。
部屋の中に入ると、オーウェン様はベッドの上で上半身を起こして出迎えてくれました。
部屋はカーテンがひかれて薄暗く、花なども飾られておらず殺風景でした。
オーウェン様の笑顔が無理をしているようで、痛ましかったです。
「ランディ、よく来てくれたね。それに、エリエス嬢も。」
オーウェン様は殿下と同じで金髪に緑の瞳という王家の特徴を有していながら、今は病気の影響から儚い印象も加わり、なんというか空想上の妖精みたいです。
あぁ、これはどのご令嬢も心を奪われちゃうよ。
なんか殿下が心配したのを少し納得してしまいました。
「具合はどうだい?オーウェン。」と殿下が心配そうに声をかけました。
「正直なところ、よくなる兆しがないね。でも今日はランディがついに婚約者を紹介してくれるというので、久しぶりに朝からワクワクして過ごせたよ。」
力なく笑って、オーウェン様は私をじっと見つめてきました。
「それにしてもエリエス嬢は綺麗だね。ランディが隠したくなる気持ちがわかったよ。」
直球の褒め言葉を受けて、私は赤面してしまいました。
「オーウェン、お願いだから私の婚約者を誘惑するのはやめてくれないか。」
殿下が慣れた感じでオーウェン様を諫めました。
「素直な感想を言っただけさ。そうだよね、エリエス嬢。」
そう言って私にウィンクしてくるオーウェン様。
これは…。今まで多くのご令嬢を勘違いさせてきたに違いありません。
私は苦笑いをして「ええ。」とだけ答えました。




