第43話
その日の放課後、私は生徒会役員であるシェリーを通じて、殿下に2人でお話しする機会を設けてほしいと伝えることにしました。
殿下もお忙しいから数日後くらいになってしまうかなと思っていたけど、緑化委員の仕事で水やりをしていると、その日のうちに殿下自ら私に会いに来てくれました。
殿下お一人で人の居ない中庭にいらっしゃって、少し心配になります。
「こんにちは。殿下、学校内とはいえ、お一人で行動するのは危険ですので、どうかお供の方を連れてご移動ください。」
「エリエス嬢に心配をかけてすまなかった。カインが念のため数日療養することになってね、これからは気をつけるよ。」
「お願いいたします。」
私が本気で心配しているのが伝わったようで、殿下も真剣な顔つきになりました。
「エリエス嬢、アニー嬢、いつも学校の景観を美しく保ってくれてありがとう。こういった作業を貴族子女は嫌うので、緑化委員のなり手が少ないのも課題になっていたんだ。2人には本当に感謝しているよ。」
殿下は中庭を彩る美しい花々に目を移しながら、私たちに感謝の気持ちを伝えてくれました。
「もったいないお言葉です。草花の世話をするのは私の趣味みたいなものですので、お気になさらずに。」
アニーは謙虚だよね。まぁ、趣味なのはその通りだし、私も草花に触れる活動はエリエスが喜ぶから頼まれなくても続けたいからね。
ただ、実際のところ、なり手不足は深刻で、緑化委員のメンバーは2年生1人に1年生が私たち2人という衰退ぶり。
2年生の先輩であるメローナ・グラス子爵令嬢は気さくでいい方ですが、私たちのように実地活動までは行っていません。
庭園デザインが趣味とのことで、立派な庭園をお持ちの貴族令息と結婚して、自分好みの庭園をつくるのが夢だそうです。
会うたびに「いい人がいたら紹介してね」と頼まれるのは少し困っています…。
「それにしても、エリエス嬢のほうから2人で話したいと誘ってもらえるなんて嬉しくてね。急いで駆けつけた次第だよ。」
殿下の笑顔がまっすぐ私に向いていて、言葉も甘いし顔が赤くなってしまいます。
「それで中庭まで迎えに来ていただいたのですね。ありがとうございます。」
「アニー嬢、大切な活動中にすまないが、エリエス嬢を少しおかりしてもいいだろうか?」
「勿論でございます。」
アニーは何故か嬉しそうです。これはアニーなりの恋の応援なのかな?
私は殿下に恋していると思われているのね。
恋しているのかなぁ。恋している気もするし、憧れている状態な気もする。
私は前世でも、(恋人いない歴=年齢)という人生を送ってきたので、恋という感情に疎いのかもしれません。
それでも、誰と結婚したいかと問われれば、婚約がなかったとしても殿下だと答えると思うので、慕っているのは間違いないはず。
エリエスも恋愛には疎いけど、私もそうとうだよね…。
するとトクンとYesの鼓動があったので驚きました。これには、ちょっとショックです。
殿下は私を校内にある小会議室に案内してくれました。
存在は知っていたけど入るのは初めてです。
中には簡素な長机と椅子が設置されているものの、無駄な物は何もなく殺風景でした。
問題行動とか起こすと、こういう部屋で先生に叱られるのかな…。
殿下に促されて向かい合わせで席に着くと、殿下のほうから話しかけてくれました。
「エリエス、昨日は大変だったね。心労がたまっているようだけど、大丈夫かい?」
実際に心も体も疲弊しているので、優しい言葉が胸に染み入ります。
「ありがとうございます、ランディ。昨日は本当に驚いてしまって、なかなか眠ることができませんでした。」
ちょっとこそばゆいけれど、ちゃんと愛称で呼びました。
こういうことの積み重ねが、恋を自覚させていくのだと思う。
「辛いときはしっかり休んでほしい。」と殿下からは私を心配する言葉をいただきました。
「昨日の毒花については調査中だけれど、エリエスが聖女であったことは明日にも王家から発表することになるよ。私の婚約者でもあるから王家が後見することも併せて発表する。エリエスには教会から後見の誘いがあると思うけど、それは断ってほしい。」
殿下は真剣な顔で私に頼みました。
「シェリーは教会が後見となっているようですけど、何か問題があるのですか?」
私は昨夜のラノベ展開の予想もあり、心配になって質問しました。
「今の教皇は権力欲が強い人物でね。聖女2人の後見となれば、王家に無理難題を突きつけてくる可能性があるんだ。シェリー嬢については、教会の運営する市井の学校で見いだされた経緯もあって王家としても口を出せなかったのだよ。」
なるほど、私に優しくしてくれる殿下や王妃様、陛下を困らせているなんて、教会は私にとっても敵みたいなものですね。私の教会への疑いが強まりました。
「では、教会とは関わりを断ったほうがよいですか?」
「そうしてもらいたいのが素直な気持ちだが、国教でもあるので、聖女の立場で完全に無視するわけにはいかないな。」
「でしたら、最低限の接触にしておきます。こういうときは過去の私の『冷酷姫』という肩書きが役に立つかもしれないですね。」
「全く納得のできない蔑称だよ。エリエスはこんなにも優しく愛らしいのに。」
殿下は怒っているようですが、その言葉に私は赤面してしまいました。
「あの、話は変わりますが、オーウェン様のことをお聞きしてもいいでしょうか?」
オーウェン様の名前を聞くと、殿下は表情を曇らせました。




