第42話
侯爵家に戻った私たちは、遅めの夕食をとり就寝することになりました。
私はベッドに横になったものの、不安が拭えずなかなか眠れなかったので、状況を整理してみました。
今回、王妃様の命が狙われた。
原作には書かれていなかったことだけど、未遂に終わって気づかれることもなかったのかもしれない。
次に、これから起きる予定の事件として疫病の蔓延。
これは実際には毒を使った人災だと予想している。
この事件で多くの王国民が命を落とした場合、国力の低下もさることながら、うまく対応できなかった王家への批判は免れないだろう。
そして、エリエスが関わる王子毒殺未遂事件。
これが成功していたとしたら、皇太子が空位になる。
こうして考えてみると、狙いは王家の失墜または国家の転覆?
王家の失墜なら、その権力の座を狙う有力貴族とか教会勢力がラノベではあるあるの展開だよね。
国家の転覆となると、他国がグランデ王国の支配を狙っているとか。
どっちもありそうで、どっちの証拠も今のところはない。
私は『細腕聖女の奮闘記』のストーリーに何かヒントがないか、思い返してみました。
すると、あるエピソードの中で気になる点がありました。
それは、落ち込んでいる殿下を聖女が慰めるシーンで、何があったのか聖女に問われた殿下が、原因不明の病気で療養していた従兄弟が亡くなってしまったことで心を痛めていることを打ち明ける。聖女は献身的に殿下を支え、励ましていくことで殿下は立ち直っていくのだけど、それが噂になって一部生徒から聖女が婚約者から殿下を奪おうとしていると疑われることになる。聖女は誤解を解こうとエリエスに謝罪にいくが、エリエスは聖女を冷たくあしらう。
ここでスポットを当てたいのが、原因不明の病気で亡くなった従兄弟の存在。
その方の情報は原作にはなかったけど今ならわかる。
陛下の弟にあたるリネット公爵の一人息子であり、殿下と同年齢のオーウェン・リネット様のことだろう。
王位継承順位は、アーランド殿下が1位、リネット公爵様が2位、オーウェン様が3位だから、殿下とオーウェン様が亡くなると王国の次代の正当な後継者が存在しないことになる。
これって、本当に病気が原因なのだろうか?
王妃様が献上された花で亡くなられた場合、呼吸器疾患の病気だったということにされていたと思うと、王族の病死というのはどれも疑わしくなってくるよね。
私は殿下にオーウェン様のことを聞いてみようと決意するのでした。
翌朝、私は寝不足でしたが王立学校に登校することにしました。
お母様は心配して休んでもいいと言ってくれましたが、シェリーとの別れ方が気になってしまって休む気にもなれませんでした。
登校中の馬車では、アニーやシエナが元気のない私を気遣ってくれましたが、王妃様の暗殺未遂については話せないので、「大丈夫よ」と言うしかなかったです。
でも、親身になって心配してくれる人が近くにいてくれることが本当に嬉しかった。
学校に到着すると、他の生徒は私のほうを見てヒソヒソ話しているのが気になります。
私が本当に聖女なのか聞きたいのだろうと予想はつくけど、王家からの公式な発表があるまで放っておいてほしいというのが本音です。
アニーとシェリー以外に懇意にしている友人もいないし、私も侯爵令嬢なので気軽に話しかけられるような存在ではないのがせめてもの救いかな。
教室に入ると、先に着いていたシェリーが不安そうに私に話しかけてきました。
「エリエス様、おはようございます。あの、昨日は突然帰られてしまいましたが、私が気を悪くするようなことを言ってしまったのでしたら謝りますので、どうか、」
「まって、シェリー。」
私は慌ててシェリーの話を遮りました。
急にシェリーをおいて帰ったから、いらぬ心配をさせてしまったことを反省しました。
「シェリーは何も悪いことなんて言ってないわ。それより、カインを助けてくれて本当に感謝しているの。それなのに気が動転してしまって、シェリーにお礼も言わずに去ってしまって本当にごめんなさい。」
私は頭を下げ、申し訳ない気持ちを伝えようとしました。
「そんな、頭をあげてください。私はエリエス様のお役にたてたのなら、それだけで嬉しいです。」
シェリーは目を潤ませているものの、安心したようでした。
侯爵令嬢が平民のシェリーに頭を下げるのを目撃した生徒たちのザワザワが鬱陶しいと思っていたら、すくっと立ちあがったレイリー様が眼鏡の位置を調整しながら教室中に響く声で皆を諫めました。
「皆さん、この学校では上下の関係はありません。悪いと思うことがあれば誰が誰に頭を下げようと当然のことでしてよ。それに、私たちがここでしなければならないことは学業を修めることです。いらぬ噂話で気もそぞろになっていては授業に身が入らないのではなくて。」
レイリー様の言葉で教室内は静けさを取り戻しました。
私はレイリー様への感謝の気持ちがあふれて、深く頭を下げました。
レイリー様は『当然のことを言ったまでです』という感じで、軽く右手で私を制する仕草をとっただけでした。
それがまた、格好いいんです。




