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第32話

それからは、慌ただしく日々が過ぎていきました。


お母様と共同名義で王都に化粧水とお風呂用香油のお店を出店するため、物件探しや従業員募集、製品の量産化に向けた仕入れ先確保や設備拡張、商業ギルドとの折衝などなど、もう目が回りそうな忙しさでした。

それでも、お母様と一緒に過ごす時間は嬉しくて、なんだかんだ楽しく進めることができました。

お父様も法律の専門家なので、わからないことを質問すれば、ちゃんと手助けしてくれたことも、私とお母様を嬉しい気持ちにさせてくれました。

お店の名前は『アロマショップ ラベンダー』という捻りのない名前に落ち着きました。

お母様が私に命名してほしいと言うので一生懸命考えたんだけど、ネーミングセンスの無さに落ちこみましたよ…。


エリエスが保存していたという毒草は、思ったより簡単にみつけることができました。

最近ではエリエスに語りかけると、Yesならトクンと返してくれるので、概ね意思疎通できるという状況です。

『こっちのほうにある?』などと聞いていくと自然と場所が絞られていくわけで、結局は宝石箱が二段底になっていて下の段に隠してありました。

恐る恐る触れてみると、なんで保存していたのかがわかりました。


(冷血草 体内に蓄積された量に応じて摂取者の体温を下げる 少量であれば解熱剤となるが大量に摂取すると致死性の毒となる)


なるほど、薬にもなるのね。

捨てようと思っていたけど、『捨てていい?』と聞いたら返事がなかったので、もとに戻しておきました。

いつか役に立つときがくるかもしれないもんね。


あと、毒草探しをしているときに、エリエスが我慢できなくて触った花のことを思い返してみました。

『水精花』という名前だったけど、『水の精霊の祝福を受けた花』という情報が驚きなのよね。

この世界にはファンタジーなのに魔法がない。だから神様から与えられた聖女の『生命力強化』やエリエスの『植物鑑定』は正に奇跡の力ということになる。

神様として信仰されているのが創造神にして唯一神の『エルネシア様』。

エルネシア様は世界を創造なさるとき、その助けとなるように数多の精霊を生み出したと聖典には記されている。

でも、誰も精霊を見たことはないし、実在するのかも定かではなかったのに。


実在しているじゃないですか!?


あの湖に住まわれているのかな?

今度、お祈りに行こうかな…。


あと、『根には巨大な水の魔石を宿す』とあったよね。

水の魔石は大変貴重なもので、稀に水棲の魔物から採取されるんだけど、無限に魔石から水がしみ出してくるらしい。

魔石自体が小さい物しか発見されてなかったから水の量も微量だったけど、巨大となると日照り対策とかになっちゃうのでは?

もう、国宝級でしょう、それって…。

精霊様が怒りそうだから、魔石の採取は考えないでおくけどね。


もう一つ、大きなイベントがありました。

私が発見した『太陽の魔石』が魔石研究所の調査の結果、新種の魔石であることが認定されたんだよね。

今まで熱を発する『火の魔石』は存在が確認されていたけど、光を発するものはなかったみたい。

現状、サイズが小さくてサンプルが1つしかないので、採取方法を秘匿せず、以後利権を主張しないことを条件に、男爵位と小領地を下賜するという提案を陛下からいただいたのよね。


これには本当に驚いたけど、私が爵位を一つもっているということは、後にアニーのことや最悪お母様が離婚した場合など、何かと助けになると思うので、ありがたくいただくことにしました。

まぁ離婚はもうないと思うけど…。


ちょっと後悔したのは、叙爵式なる格式張った儀式に出席しないといけないことを後で知ったときです。

叙爵式は緊張しすぎて心臓止まるかと思ったけど、後に義理の父となるであろう陛下が優しく対応してくれたので、何とか無事に終えることができました。

私の結婚後は安泰かもしれません…。


領地の管理は、お父様に丸投げしちゃっています。仕事増やしてごめんなさい。


叙爵後にカインがニヤニヤしながら寄ってきて、恭しく「グリーンウッズ男爵にご挨拶申し上げます」と言ってきたときは、イラっとしました。


ちなみに、太陽の魔石が今まで発見されてこなかった理由は、アニーのところで栽培されているサンズグレイスでわかりました。

宿っているものがないか見に行ったときに、確かに1つ宿っていたのだけど、もう少し大きくなるんじゃないかと数日様子をみることにしたら、サンズグレイスが成長限界に達したところで太陽の魔石を内包していたはずの種が、普通の種になっていたのです。


成長するためのエネルギーに使われちゃうのかな?

なんにしても欲張ったらダメということだよね。

アニーがサンズグレイスの前で膝を抱えて泣いていたのが忘れられません…。


いろいろなことがあって、季節は巡っていき、気づけば王立学校入学の時期になってしまいました。

いよいよ、私の読んだ原作の時間軸がスタートします。


この一年間、私は結構頑張ったと思う。

家族関係、殿下との関係、アニーとの友情、そしてエリエスとの心の交流。

どれも上手くいっているように思う。


社会人を経験した私ですけど、それでも入学というのは緊張とワクワクが入り交じる特別な節目です。


『いい思い出つくろうね』

私がエリエスに呼びかけると、トクンと鼓動が返ってくるのでした。


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