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第27話

最初に動き出したのはお母様でした。

「殿下、娘達の準備にもう少々時間がかかりますので、馬車でお待ちいただけますか?」

お母様の有無を言わさぬ迫力に、殿下とカインは了承してすごすごと馬車に乗り込んでいきます。

視線は私たちの足に釘付けになり、顔を赤らめていたようです。


なんでそんなに丈の短さに注目するかなぁ。

確かに淑女はドレスで踝まで覆い隠して、素足を見せないのが流儀ではあるけど、タイツで素肌は見えてないし、そもそもパーティー用ドレスでは胸の谷間が見えるような大胆なものも多いのに…。

みんな足フェチですか?

うーん、普段見慣れないものだから気になっちゃうのかな…。


私が疑問に思っていると、怖い顔をしたお母様がズンズンと私たちのもとに突き進んできたかと思うと、そのまま屋敷の中まで私たちを押し込みました。


「エリエス、どうしてそのような服装で殿下とお会いしようとしたのです?」

お母様の叱るような声に、私は心が締めつけられるような感覚を覚えました。

そして、エリエスの感情の乱れから目が潤んでいきます。


エリエスにとって、お母様は唯一の『大切』を感じることができた人間関係なのだと思う。だから、お母様が悲しんだり、怒ったりすると、感情が噴出するのだろう。


「あの、ボートに乗るというので、動きやすい服装がいいと思ったので…。」

無言もよくないので、何とか理由を伝えました。

「だからと言って、平民のような服装で足を晒していいという理由にはなりません!」

お母様がピシャリと言い切りました。


あ、ダメ…。ポロリと涙が頬をつたって一筋流れ落ちてしまいました。

母親に叱られるという経験をしたことがなかった私は、このまま嫌われてしまうのではないかという不安がどんどん大きくなって情緒不安定になってしまいました。

泣き出したら止まらなくなって、何かを話す余裕はありません。


しばらく私を見つめていたお母様は、大きく息を吐くと私は優しく包み込んでくれました。

「そういうところは変わっていないのね。急に大人になってしまったと思っていたけど、突飛な行動でお母様を困らせたり、泣き出したら止まらないのも昔のエリエスのままだわ。」

お母様の優しい声にも心は落ち着かず、ギューっと強く抱きついてしまいました。

「あらあら、エリエスったらまだまだ甘えんぼさんね。」

しばらくの間、お母様は私の背中を優しく撫でてくれました。


「アニー嬢もよく聞いてください。貴族の令嬢たるもの、結婚した殿方以外には足を晒さないものです。はしたない女だと噂が広まっては、払拭するのは難しいのですよ。それにね、同じ服装をするのも貴族令嬢としては失格です。市販品を着ていると公言しているようなものです。」

お母様は私とアニーに貴族令嬢としてのあり方を丁寧に教えてくれました。


アニーは真剣な顔で聞いて頷いていました。

シエナは青い顔をして黙っていました。自分が服を選んだとは言わないのね…。

私も抱きついていた手を離し、「ごめんなさい」と言えました。


「謝らないでいいのよ。今までエリエスと話す機会が少なかったのはお母様の落ち度だもの。アニー嬢も貴族となって日も浅いのだから知らなかったことも多いでしょう。今後は何かあればお母様に相談してね。」

笑顔でそう言ってくれたので、やっと私とエリエスの感情は落ち着いていきました。


「シエナ、2人にロングブーツを用意なさい。せめて足だけでも隠しましょう。」

お母様の指示を受けたシエナは「はい!」と勢いよく返事をすると私の部屋のほうに駆けていきました。

その姿にお母様は溜息を一つ。

シエナも貴族令嬢だったよね…。お母様からのシエナの評価が下がって不安なのだけど。


私たちもシエナの後を追って部屋に向かい、ロングブーツを着用しました。

アニーは私のブーツを借りることに恐縮していたけど、私が「アニーになら、嫌なことなんてないわ。」というと恥ずかしそうに頷いて受け取ってくれました。


ブーツを着用しながら、私は不満を口にします。

「シエナ、なんで庇ってくれなかったの?」

「勘弁してください。奥様が怒ってらっしゃるのに、私が服を選んだなどと言ったら、クビにされてしまうかもしれないのですよ。お嬢様は私がクビになってもいいのですか…。」

本気で泣き出しそうだったので、今は追求するのをやめておくけど。

「この話は、またにしましょう。それにシエナがクビになるのは私も嫌だしね。」

するとシエナは感極まったように私に抱きついてきました。

「お嬢様~、一生ついていきます!」


これ以上、お母様や殿下たちを待たせる訳にはいかないので、シエナを引き剥がして玄関に向かいました。


待ってくれていたお母様に服装をチェックしてもらいます。特に足の露出がないかをね…。

「まぁ、いいでしょう。殿下との初めてのお出かけですからね、楽しんでいらっしゃい。」

お母様の笑顔に見送られ、やっと出発することになりました。

「お母様、行って参ります!」


さっきまで泣いていたというのに、私は殿下やアニーと遊びに行くことに胸を膨らませるのでした。

あ、カインもいたね…。


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