第22話
殿下の趣味を『女々しい』と言った犯人はカインだったのか。
殿下の言った『女々しい趣味と馬鹿にしないのかい?』の言葉を思いだし、胸が痛くなった。
カインは殿下の友であり側近であるにも関わらず、殿下の心を傷つけたのだ。
私の推しランキング2位から圏外に降格です。『様』もつけません。
イライラしているのを悟られないよう気をつけつつ、お灸を据えてやろうと決めました。
「ご存じないようですが、私は殿下と刺繍を一緒にする仲ですよ。」
「知っている。殿下自身がエリエス嬢と刺繍をしてハンカチを交換したと、嬉しそうにハンカチを見せてきたからな。」
ギャー!私の黒歴史ハンカチが晒し者にされている…。
早急に手紙を出して、他の人に見せないで欲しいとお願いしないと。
コホンと咳払いし気持ちを整えました。
「殿下が喜んでいるのに、どうして刺繍をやめさせる必要があるのですか?」
「殿下はいずれ王となる人だ。そのときに刺繍が趣味などと噂が広まれば、威厳を保つこともできないし、他国の王から女のようだと舐められるだろう。」
カインは、そんなこともわからないのかと言わんばかりの顔で言いました。
なるほど、カインは前世でいうなら『男らしくしろ』的なジェンダー問題に発展しかねないことを普通に言ってしまうタイプなのね。
まぁ、理解できなくはないですよ。
ここは私の暮らしてきた世界とは価値観も違うのだから。
だからといって、私にも譲れない価値観はあるのだ。
なんで殿下が唯一の趣味を諦めなければならないのよ。
人は仕事のために生きているのではない。幸福を得るために生きるのだ。
「殿下が王族だから刺繍をすべきでないとお考えなのですね?」
「そうだ。」
「でしたら殿下は可哀想ですね。」
「殿下は王族に生まれたのだぞ。誉れ高いことだろう。」
カインは何を言っているのか理解できないという顔をしています。
「あなたは騎士を目指しているそうですが、それはご自身の意思ですか?」
「そうだ、俺は騎士団長である父上を尊敬しているからな。父上のような立派な騎士になりたい。」
カイン、鼻息あらいよ。言葉遣いも素が出始めたね。貴族失格です。
「もし、あなたが剣を振るようなことを好まず文官を希望したとしても、ロードナイト伯爵は反対しなかったのではないですか?」
カインは少し考えて「そうかもしれないが。」と応えた。
「あなたには職業を選択する自由があります。ですが殿下にはそれがありません。」
「だから何だというのだ。国王だぞ、望んでなれるものではないんだ。」
「殿下は王族だからと特例で生徒会長にされたことを不満に思っていましたよ。殿下は国王になることを望んでいるのですか?」
「望むとかの問題じゃないだろう。」
「だから可哀想だと言ったのです。望まなくても国王という重責を担わなくてはならないのですから。」
「なぜ、望んでいないと決めつけるんだ?」
「なぜ、望んでいると決めつけるのですか?側近である前に友人なのですから、一度くらい腹を割って聞いてみてはいかがですか?」
怒ってるのが顔にでちゃってますよ…。
少し話を変えてあげようか。
「カインの趣味はなんですか?」
「年上の男性を許可も無く呼び捨てるのは失礼だろう。」
「先に私を『無表情な人形』と失礼に例えたのはカインです。それで、趣味はなんですか?」
プルプル震えてるけど、暴力を振るわれたりしないよね?
シエナも心配そうに私のすぐ横にピタリと位置取りました。
いざという時は私を庇うつもりかな…。
もしそんなことになったら絶対に許さない。
シエナの動きを見てか、カインは深呼吸し、とりあえず冷静さを取り戻したようです。
「趣味といえるか知らんが、剣術の稽古だ。」
「では、趣味と実益を兼ねているのですね。殿下から見たら羨ましいでしょうね。」
「殿下も国王になる者として相応しい趣味をもてばいいだろう。」
「帝王学を趣味にしろということですか?」
「そうは言っていない。乗馬とか、それらしいのがあるだろう。」
「そういったものは全て、必要なこととして学んでいらっしゃるかと。カインは殿下にやりたいことを我慢して、王族らしいことだけやれと考えているようですが、それでは殿下の心が壊れてしまいますよ。」
カインは反論しようとしたけど、適切な言葉を思いつかず黙ったようだった。
「殿下の心のケアも、側近の仕事と私は考えます。」
沈黙が続いたけど、カインが考え込んでいるようだったので待ってみました。
「俺の負けだ。エリエス嬢は本当に変わったな。今日はこれで失礼する。」
そう言うと、カインは立ちあがり貴族の礼儀に則った礼をして退出していった。
その顔は、私の予想と違い清々しいものでした。




