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第20話

ずいぶん長い時間、お母様は泣き続けていました。

我慢し続けるより、たくさん泣いたほうがいい。

失った涙の分だけ、次に進む勇気を取り込めるのだ。


お母様の嗚咽が止まったのを確認して私は言いました。

「今日のディナーで、私がお父様に真相を確認します。お母様は、ただ聞いていてくれるだけで大丈夫です。もし、その場に居ることが辛くなったら、我慢せずに退席してください。」


「もし、もしもよ、お父様がエリエスの言うように人の感情が理解できない人だったとして、これからエリエスのように優しい人に変わることがあるかしら…。」

お母様はお父様に一縷の希望を見いだそうとしている。


真実は残酷だけど、覚悟があれば未知は道になり、先に進むことができる。

だからちゃんと伝えます。

「それはないと思います。」


お母様は絶望に顔を歪ませる。

「それなら、確認することに何の意味もないじゃない。私の苦しさは変わらないのでしょう。」


それは違う!

「意味はあります!お母様が愛されていたという事実は、お母様の心を救うはずです。」


しばらく自分の胸に手をあて、お母様は自問自答しているようでした。

「そうね、私はずっと私を愛してくれる人を欲していたと思う。今はエリエスが私を愛してくれるから幸せよ。」


「私もお母様が愛してくれるから幸せです。」

私は両手でお母様の手を包み込みました。


「お母様、勇気をだしてお父様のことを知りましょう。知れば求めるものも変わります。求めても手に入らないものを求め続けたら、お母様の心がいつか壊れてしまいます。私はそれが怖いのです。」


「わかったわ。」

私の必死な想いに、お母様は応えてくれました。



その日のディナータイム。

私の正面にはお母様が座っていて、顔を強ばらせています。

お父様は私の左手側、主人が座るべき最奥にいて、いつものようにポーカーフェイス。

今日も無言の重苦しいディナータイムがスタートしました。

黙々と食べ進み、食べ終わる。

お父様が立ち上がる前に私は話しかけました。


「お父様、お聞きしたいことがあるのですが…。」


「この後は絵を描く時間だが、少しならいいだろう。」

娘のお願いより絵を描くほうが大事なの!?

おっといけない…。こうやってお母様は心を病んでいったのだ…。

お父様はきっと、決まったスケジュール通りに生活したいのだろう。


「お父様は婚約ではなかったと聞きましたが、お母様とはどのように知り合ったのですか?」

少ししか時間をくれないみたいだし、もう全部直球でいきます。


「ふむ、レリア(お母様のお名前です)と初めて出会ったのは、レリアのデビュタントのときだな。私は人が多いのは苦手で、すぐにテラスに出て時間を潰していたんだが、ほどなくしてレリアもテラスに出てきた。」

お母様は、『えっ?』という言葉が聞こえてきそうな驚いた顔をした。


「そこでお話しして好意をもったのですか?」


「いや、一瞬目があっただけで、お互い距離をとって時間を潰していたな。」

お母様は何かを思い出したような顔をした。


「お父様の一目惚れですか?」


「一目惚れとは違うが、同じ空間にいてもお互いに干渉しないで過ごせたのが、心地よかったのは確かだ。」

もう、一目惚れだって言っちゃえばいいのに…。


「では、お母様の容姿には興味をもたなかったのですか?」

お母様は気になってお父様のほうをチラチラ見ています。


「いや、素朴で可愛らしいご令嬢だと思ったよ。だからパーティーに参加したときはレリアを探すようになったが、レリアを見かけることは無かった。勇気をだして名前くらい聞いておけばよかったと後悔したものさ。」

お母様、嬉しそう。何歳になっても嬉しいものですよね。


「お父様、それは一目惚れしています。」

ちゃんと留めをさしておこうと思ったら、お父様はあっさり認めました。

「そうかもしれないな。」


「それで、どうやってお母様と再開したのですか?」


「法務省の役人になったことで、あらゆる記録を照会できるようになったのでね、あの日デビュタントに出席した令嬢を一通り調べて、レリアがローレント子爵家の令嬢だとわかった。」


「それで結婚を申し込んだのですか?」


「そうだな、結婚するなら心地よく過ごせる女性がいいからな。」

なんか、ひっかかる言い方するなぁ。


ちょっと意地悪して言ってやりました。

「初恋の相手と結ばれてよかったですね。」


少し間があって、お父様は言いました。

「そうだな。」


ふと見ると、お母様は泣いていた。でもその顔は決して悲しいものではなかった。

よかった、本当によかった。お母様の心が少し救われたもの。


「レリア、どうかしたのか?」

涙に気づいてお父様がお母様に声をかけました。


「なんでもありません…。でも、これからは『好き』とか『かわいい』とか私にちゃんと言ってくださいね。」

お母様は涙を拭いながら、乙女のように笑って言いました。


『かわいい』は年齢的にどうかなぁと思っていたら、お父様が素敵な訂正をしました。

「今は『かわいい』ではなく『きれい』だ。」

無自覚にそういうこと言うなんて、お母様だけでなく私まで顔が赤くなっちゃいました。

ヒューヒューだよ、もう。


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