第2話
まさか私にラノベみたいな展開が訪れようとは…。
しばらく呆然としていましたが、転生しちゃったものはしょうがない。
人と会う前にやるべきことはやっておかないとと思い、流れ込んできたエリエスの今までの記憶と過去に読んだ小説のストーリーを照合していきます。
現在、エリエスは14歳。小説スタートの王立学校に入学する15歳より一年前。
これなら最悪の結末にならないよう、いろいろやり直せるはず。
相手の気持ちを読むのが苦手で、友達と呼べるご令嬢もいない一匹オオカミさん。
過去に参加したお茶会では、その爵位からお近づきになろうと声をかけてくるご令嬢を半ば無視して庭園のお花に夢中。お喋り苦手なASDっ子だもんなぁ。
表情筋が半分死んでいるような無表情と綺麗な顔立ちから『冷酷姫』と影で呼ばれるようになる。
これは後にエリエスの専属侍女シエナが憤慨して教えてくれたけど、それを聞いても興味なさそうに「そう。」と返しただけ。
そんな応対しかしないから、シエナともだんだんと距離感が…。
植物が大好きで、知らない植物をみつけると触って確認しないと気が済まないため、毒草で手がかぶれたりして、母親からお庭出禁にされて落ち込む。
ん!?エリエスって『ギフテッド』なの!?
あ、ギフテッドというのは、生まれたときに神様からの祝福で特殊能力をもった人のことなんだけど、小説の登場人物でも『ギフテッド』は聖女だけだった。
エリエスのギフトは植物に触れると、その特性(食用の可否、薬草としての効能、毒草としての効果などなど)が頭に浮かんでくる。地味だけど結構なチート能力。
それは植物触りたくなるよね。
それにしても、なんで内緒にしてるのよー!
もう少し記憶を探ってみると、それがギフトと思っていなかった幼少期に、母親や侍女に怒濤のごとく植物のことを話しているうちに、母親から「草の話なんて、もうたくさん!」と叱られ、自分の心の中だけで楽しむようになってしまったようだ。
エリエス、コミュ症だしなぁ。
続いて、婚約者は小説通りアーランド・イルグランデ王太子殿下。1歳年上の超絶美男子。実際に会ってみたい!推しだったしね…。
一年ほど前に婚約が決まり、月に一度の二人きりのお茶会には参加しているが、気を遣っていろいろ話題を振ってくれる殿下に対して、いつもの無表情で興味なさそうな反応を繰り返したあげく、視線はソワソワと庭園のお花へ。
まぁ、殿下も勘違いするよね。これは結婚を嫌がってるのかなって。
次のお茶会で挽回できるだろうか…。
家族との関係性はどうかな?小説では語られてないから興味津々。
母親のことは『お母様』と呼んでいるのね。エリエスの社交性のなさに悩んでお父様に相談するも、すれ違いを繰り返し、今では部屋に引きこもって塞ぎ込みがちになっていると。
これってカサンドラ症候群では?
それというのも、お父様もASDっぽいのよね。
お父様は法務大臣で法律や過去の判例を完璧に覚えており、情状酌量の余地とか無しにバッサリ判決を言い渡すことで『鉄仮面』と噂されるできる男ではあるものの、お屋敷に戻れば作業部屋に直行し、絵画制作のため長時間籠もるという生活習慣。
お母様のお悩み相談にも、素っ気ない返答しかしないし…。
執事やメイド長は、もともと侯爵邸の人だから、お父様のことは悪く言わない訳で、お母様が孤立するのは自明の理というもの。
エリエスもお母様からしたら、話の通じない娘だったろうし…。
なんか、お母様かわいそうだな。
私は強がっていたものの、母親の愛情に飢えていた前世を思いだし、お母様を癒してあげたいと強く思い始めました。
私からしたら、降ってわいたような関係の母ではあるけれど、これから関係を改善して、ちゃんとした親子の愛情を育みたい。
そして甘えたい。22歳で『甘えたい』は恥ずかしいけど本心だし。
記憶の整理を中断して、私はお母様に会ってみようと決心しました。
すると、部屋にノックの音が響き、「お嬢様、もう起きられましたか?」とシエナが扉越しに声をかけてきました。