第1話
私は父子家庭で育ちました。
お父さんの話では、お母さんは私が3歳のときに他の男と駆け落ちしてしまい、以降連絡もとれないらしい。
まぁ、お母さんのことは薄ら記憶に面影がある程度で、正直あまり覚えてない。
子供の頃は、恨んだこともあるし、居てくれたらよかったのにと思うことも多かったですけどね。
貧乏だし愛に飢えた幼少期を過ごしましたが、不良少女なんかになることはなく、それなりに地味に成長し、地元の公立高校を卒業し、奨学金をもらって大学も卒業できました。
そして、この春から夢を実現させて学校の先生として勤務することになりました。
採用前の面接時に、『特別支援教育も可能か』と質問され、やる気を見せねばと、深く考えずに『はい』と答えたのが問題だった。
私は通級指導教室の先生として採用されることになったのです。
通級って何??と思っているうちに、担当生徒の保護者面談をしないといけないらしいことをベテランの通級の先生から教えてもらい、焦りましたとも…。
通級に関する書籍を買い、発達障害に関する書籍を買いと、必死に知識をつけて面談に臨みました。
実際に指導が始まると、これでいいのかな?と不安を抱えつつ通級の授業を進める日々。
不安は尽きることはなかったけど、実際に子供達と接して、笑顔に励まされ、通級の先生でよかったかもと思い始めた矢先のことです。
私の人生が幕を降ろしたのは…。
仕事を終えて駅に向かう途中の道で信号待ちをしていたとき、私の横をすり抜けるように道に飛び出した子供がいた。
えっ?と驚いた次には、トラックのクラクションの音が耳をつんざき、その音に驚き体を硬直させる子供。
自然と私の体は動いていました。子供を突き飛ばすようにトラックの進路の外へ押し出せましたが、直後経験したことのない衝撃が走り、自分がトラックにはねられたことを悟りました。
声も出ず、意識は遠のいていきます。
あぁ、これ死ぬやつだ。
ドラマみたいな最後。
『学校の先生、子供の命を助け死亡』のニュースは話題になるだろうな。
私らしくない最後だ。
誇らしい。でも死にたくないなぁ…。
奨学金も返してないし。
お父さん、先に死んじゃってごめん。
お母さん、どうして私たちを見捨てたのよ、愛してほしかったのに…。
それを最後に意識は途切れました。
目を覚ますと、私は天蓋付きのフカフカなベッドに横になっていた。
あれ、死んでない?
私は慌てて上半身を起こし、自分の体を確認します。
手は動く、足も動く。奇跡的に助かったの?
少し冷静になってくると、私の手にしては綺麗すぎない?
それにシルクなのかな。こんな豪華なパジャマ持ってないし。
そもそも、ここは何処なの?
なんかマンガやラノベにでてくる貴族の部屋みたいだけど…。
カーテンの隙間から差し込む日差しから朝なのかなと思いつつ、私はベッドを降りて目に入った豪華な化粧台の鏡を覗き込みました。
そこには無表情ながら綺麗な顔立ちのご令嬢が映り込んでいました。
え?私じゃない!?
そう思った瞬間、頭が割れるような激痛が走り、経験していない記憶が雪崩のように飛び込んできました。
しばらく頭を抱えて激痛に耐えていると、思考できる余裕が生まれてきました。
この令嬢は、エリエス・グリーンウッズ侯爵令嬢。
記憶をたどるうちに私は気づいてしまいました。
この子、ASDだ。
それに、この名前って、私が大学生のときに愛読していた『細腕聖女の奮闘記』の悪役令嬢の名前と一緒だし、顔も挿絵で見たのと瓜二つ。
もとの私とは似ても似つかぬ、銀髪に青い瞳の美少女。
あぁ、私、小説の中の悪役令嬢に転生しちゃったんだ…。
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