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7 他の聖女と対面

「もうそろそろ聖女様達の体調が良くなってきたということで、新人聖女達の顔合わせがあります」


 食事が一汁一菜になり、部屋以外の場所もあちこち動き回ることが出来るようになったある日、エルさんはそう告げた。


「他の新人聖女もいるんですよね」


「そうです」


「どんな人達ですか?」


「それが分からないんです」


 エルさんはどんな人が聖女に選ばれたのか、生きることをできたのか知らないみたいだ。


 薬を飲む前に話した王女様がいらっしゃるといいのだけど、そう願いつつ、準備をする。


 今回は正式な集まりということで、今までの白いワンピースではなくて、青色のドレスだ。フリル、レース、リボンがあしらわれた、豪華で公式な場所に着ていってもいいデザイン。これは男爵様が送ってきた物らしい。


 聖女様は特別な存在だからどんな服を着ても良いらしいけど、今日は初仕事なので、ちゃんとした服にしたんだ。


 髪にドレスと同色のリボンをつけてもらってから、私はエルさんに案内されてとある部屋に向かう。


「失礼します」


 エルさんと別れて、一人だけでその部屋に入る。そこにはもうすでに一人だけ椅子に座っていた。


 金髪でショートカット、どこかの学園の男子制服みたいなファッションをしているから、聖女には見えない。


 今日は新人聖女の顔合わせをするのだから、聖女のはずなんだけど。


「リリック様、カエデ様。皆さまお揃いですね」


 いかにも偉そうな人がやってきたので、私は近くにあった席に座る。この様子だと既にいた人は新人聖女だろう、カラフルな髪色をした聖女候補の中で唯一いた金髪さん。その人のはずだ。


「では今年の新人聖女の顔合わせを始めましょう。今年の新人聖女はあなた方二人だけです」


 偉そうな人はドアを閉めてから、いきなりそんなことを言い出した。


「うそだろっ。他にも何人か候補がいたじゃねーか」


「そうです。王女様とか庶民っぽい女子とかいましたよ」


 もう一人が荒っぽく抗議するのに続いて、私も反論する。


 だって聖女候補は十人くらいいたんだよ。そのうち二人しか聖女になれなかった、となると残りの人は亡くなったということになる。


「残念ながらあなた方以外は薬に合わなかったのです」


「薬に合わなかったですか・・・・・・」


 絶句する。そんな簡単な事実で済まして良いのか、これだけたくさんの人が亡くなっているのに。


「どうしてですか? そんなたくさんの人の命を無駄にしてまで、聖女は必要なんですか?」


「仕方ないのです。聖女様は治癒魔法を使う、奇跡を起こすことが出来る存在です。そのためには多少の犠牲も仕方ありません」


 その偉そうな人は悔いがあるようにではなく、きっぱりと言いはった。


「私は聖女のことを知らずに今まで生きてきました。そんな知らなくても大丈夫な存在のために、命を無駄にするなんてひどいです」


「いえ聖女様は大事です。国のために日々頑張っていいらっしゃいます」


 私はこの偉そうな人の言っていることをどうしても理解したくなかった。


 王女様の顔がふと浮かんだ。花売り娘という底辺の売春している私に対して、ごくごく普通に話しかけてくれた優しい人。


 どうしてあの人が亡くならないといけなかったのだろうか? 聖女になりやすい髪色じゃないことは最初から分かっていたのだから、薬なんて飲まなければ良かったのに、聖女候補にもならなければ良かったのに。


「とにかくカエデ様、リリック様、よろしくお願いします。二人はこれから聖女となります。前世の記憶に振り回されることがありましょうが、この世界のルールを大事にして、頑張ってください」


 偉そうな人はその言葉を残して、部屋から立ち去ってしまった。これは逃げたに違いない、絶対そうだ。


 後に残されたのは私ともう一人の聖女だけだった。もう一人は周りをざっと見渡すと、私のことを気にしないでさっさと部屋を出て行ってしまった。


 残された私はすることがないので、部屋から出る。そこにはエルさんがいた。


「顔合わせはどうでしたか?」


「他の聖女はカエデ様しかいらっしゃらなかった。他の方はお亡くなりになったそうです」


「それは誠に残念です。特にウスベニ王女は小さい頃から聖女になるべく育てられたので、私もお話ししたことがあります。優しくて他人の傷を思いやることができる方でした。そのような方がお亡くなりになったなんて・・・・・・」


 エルさんは悲しそうに話す。エルさんが知っているほど王女様は聖女になるため頑張っていたんだ、髪色が不利になることを知っていたのに。


 私と違って聖女になりたいと強く願っていたのに、この結果。この世界の冷たさを改めて感じる。


「そうそう。そこでカエデ様ってどんな人が知っていますか? 同期ですから、どういう人か知っておきたくて」


 この重い雰囲気を変えるために、別の話題を振る。


「カエデ様はリリック様と同じく貴族のご令嬢です。ただし自分から教会に来て聖女候補になりたいと立候補してきたのです。普通貴族のご令嬢は親に連れてこられることが多いので、珍しかったです」


「そうだったのですか・・・・・・。聖女になって、やりたいことがあったんですかね」


「そうだと思います。聖女になれば治癒魔法を使うことができますから、苦しんでいる人を自分で助けることができます。あと普通は貴族のご令嬢は、学校を卒業してからは結婚することが普通ですが、聖女となれば結婚しなくても良くなりますから」


「結婚から逃げるため、それはありえそうです」


 なんせカエデ様は男性っぽい格好をしていたのだから。この世界で女性がああいう格好をすることに対してどう思われているか私には分からないけど、まさか推奨はされていないはず。


 そんな変わった人と一緒に聖女として活動していく。性的少数者である攻略対象者達と関わっていくという大変な状況に問題が一つ加わってしまったようで、気分が更に重くなった。

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