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5 前世のことを思い出した

 シンプルだけど高そうな天井、肌触りの良い汚したくないシーツ。


 わけが分からない夢が終わって、すぐ気づいたのはこれだった。後は服が変わっていることも分かった。ドレスではなく、着心地の良い飾りが全く無く白いワンピースになっている。


「お目覚めですか?」


「はい、そうです」


「一日ずっと眠っていらっしゃったから心配していたのです。では他の者を呼びに行きます」


 その人は私の側から離れていく。キリスト教のシスターみたいな格好をしているから、お手伝いさんじゃなくて聖職者なんだろうな。ということはこれからお手伝いさんみたいな人を呼ぶのかな。


 私は身体を起こして、ベッドからそっと降りる。


 部屋の中は物が少ないというよりもほとんどない。小さなタンスと、私が今まで寝ていたベッド。それから小さなテーブルと椅子があるくらいだ。それ以外の、本とか漫画とか、鏡なんかが一切無い。


 今までこれよりももっと物が少なくて狭い部屋しか見たことがなかったのだから、これで十分なはず。それなのになぜ質素でつまらない部屋と感じてしまうのだろうか? 私には分からない。


 その時ベッドの側に靴と靴下が揃えられていることに気づいた。私はベッドに座り、靴下と靴を慌てて履く。


 部屋の中で靴を履くなんて、まるでホテルみたい。さっき来た人も靴を履いていたし、ここではそれが普通なんだ、洋風的な生活様式なんだなって、ちょっと待って。ホテルなんて今まで聞いたことないし、そもそも靴自体今まで使っていなかったから部屋の中で履くことに対して特別な感情を抱くわけないし、洋風的な生活様式って何? 


 自分の中から出てきた言葉達なのに、それらの意味がちょっと分からない。全く分からない、そんなことはないけど、今までの人生とは無縁の言葉達だから引っ掛かってしまう。


 他の者が来る気配はないし、頭の中は混乱している。気分転換に窓の外を見ることにした。そこではさっき来た人と同じ格好をした人達がおしゃべりをしながら歩いている。


 その様子からここが教会である事をしみじみと改めて感じる。キリスト教なんだろうな、これでイスラム教、ましてや仏教や神道なんてオチであったら、それはおかしい。ってキリスト教やイスラム教って何だっけ? 仏教や神道のこともあんまり覚えていない。


 これ以上何かを考えると混乱しか起こさない。よし今の状況を整理しよう、なんで今私がここにいるのか思い出すんだ。


 私は下級娼館などへ行く人に花を売ったり花を全部売ることで売春をしていたりと花売り娘として生活していた。ひょんなことからラベンダー男爵家の養女となり、この教会へ連れてこられた。ここで私が聖女候補である事を知り、副作用で前世のことを思い出す薬を飲んだ。その結果幸いなことに一日寝込んだだけで今生きている。


 そう私は聖女になったんだ。治癒魔法を使い、それ以外にも前世の記憶を生かして、人々の生活に貢献することが私にできるようになった。


 聖女が何をすることができるのか、それも私は知っている。治癒魔法だって使えるはずだ。私はベッドに座り、靴と靴下を脱ぐ。


「ヒール」


 細かい傷や傷跡が残る足に、手をかざして呪文を唱える。


 足が光に包まれて、気がつけば傷や傷跡が消えて真っ白な肌になっていた。治癒魔法が成功したんだ。


「えっおかしいな。私は今まで魔法なんて使ったこと無いのに」


 単なる花売り娘で、聖女のことすら今まで知らなかった。それでなぜ治癒魔法の使い方を知っていて、使い方を聞かなくても使いこなすことができるのだろうか?


 私は靴下と靴を履きなおしながら、深く考える。


 王女様は前世の記憶を思い出すこととは言っていたけど、その影響で自然と治癒魔法が使えるようになるとはいっていなかった気がする。


 うーんこれじゃあ、今私に起きている現象は何だろうか?


「そうだ『異世界転生』だ。私は『異世界転生』したことになっているんだ」


 その言葉を私は思いだした。『異世界転生』、王女様も言っていたし、その影響で今治癒魔法が使えるんだ。


 前世の記憶、私がリリック・ラベンダーではなくて別人だった時に得た情報や知識を思い出すことが出来て、今までの記憶と違うことがあって混乱しちゃってるんだ。


 落ち着いてゆっくりと、この世界について思い出すことを意識する。


「この世界は『レインボー王国聖女物語』。それのゲームの世界に私は転生したんだ。それで私は治癒魔法を使うことが出来るんだ」


 さっきのわけが分からない夢とも関係していた、というよりもこの世界に転生してきたからあの夢を見たのかもしれない。


 確かこの『レインボー王国聖女物語』は感動ポルノゲームで、性的少数者と呼ばれる人達が辛い目にあうという内容だった。それ以外のことは一切覚えていない。夢の中で出てきたルートという言葉は当然、それ以外に攻略対象となる人の名前や容姿ですら一切覚えていない。


 この世界で性的少数者のことが存在自体知られていないのは、前世の記憶がなくても今までの経験から分かっている。そんな状況で性的少数者である攻略対象者と関わって生きていくなんて、うんざりするほどめんどくさそうだ。


 異世界転生や異世界転移を扱った小説や漫画では前世の記憶を生かして、今世で人々に尊敬や注目されつつ生きていくというのが鉄板だ。だけど前世だって性的少数者のことは知られていたけど、そういう人達が差別されたり排除されたりすることの方が多くて、必ずしも幸せに生きていると断言できなかった。


 これでどうやって性的少数者である攻略対象者達と関わっていけば良いんだ? その関わり方が全く思いつかず、今までよりも辛い生活が待ってそうな気がして、げんなりとしてきた。

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