とある少女と少年の夢の話
ならなんちゃらFMがどーのこーのという話題がされている、さわがしい教室。その中で私は本を読んでいる。
「××、何読んでいるの?」
金髪のショートカットでいつもジャージ姿のクラスメイトが話しかけてきた。
「『レインボー王国聖女物語』のノベライズ版だよ」
「あーあの感動ポルノゲームのノベライズねー。主人公は花を売ると同時に売春もしていて、性的少数者の登場人物が辛い目にあうゲーム」
「そうそう。西洋ファンタジー風の世界観で、当然性的少数者のことなんて存在すら知られていない。そんな状況で同性愛者やトランスジェンダーなどの攻略対象者達と貴族の養女になった聖女が関わっていくゲームだよね」
「メインヒロインが処女じゃなくて売春していたっていう点が斬新だし、それよりも性的少数者のことが認められなくて、シスヘテロに偽装して生きなくちゃいけないというエンドしかないのが残念だし。それがあるから感動ポルノなんだろーな」
「それもあるし、聖女の中に異世界転生者がいて、主人公と攻略対象者の一人がそうっていう設定も斬新。まあ最近異世界転生ものが流行っているから、それを取り入れたのかもしれないけど」
「腐女子のレズビアンもいるしな。そいつは異世界転生者の子供で、母親からこの世界がゲームである事を聞いて、攻略対象者達のBLを妄想するのが好きって、普通そんな設定ありえないって」
「同人ゲームなのにこうやって同人誌でノベライズが出ているから、人気があるんだろうけど」
リスセクシャル、百合、異性愛、少しだけBLなどなど。たくさんの恋愛要素があり、そこに性別違和の話と異世界転生要素が加わった、感動ポルノと言われることが多いゲーム。
同人ゲームだから知名度は低いのに、このクラスメイトが知っていて私は驚いた。
「そうだな。オレも好きだな、あのゲーム。そりゃあ感動ポルノだろうけど、リアルでもあんな感じなハッピーエンドしか存在しないかもしれねーし」
「それはそうかもしれない」
「個人的には黄ルートが一番好きで、その次がオレンジルートだな。その二つだけ何度もやりこんだんだ。××は何が好き?」
「私はピンクルートかな。これだけ恋愛全く関係ないから」
「へーそうなんだ。確かピンクは唯一の友情ルートだったはず」
「そうそう。赤の友情結婚じゃなくて、純粋な友情なんだ。あんな風に友達と仲が良いのに、憧れる」
話しながら空を見ると、青く所々に白い雲が浮かんでいた。
教室とは違って落ち着いた感じで、私の気持ちはやすらぐ。
「友達は良いよな。オレも友達といるときが一番楽しいし」
金髪の人は屈託なく笑い、それを見て私も笑った。
どこから見ても誰から見ても、幸せそうなある日の夢。
もう取り戻すことができない、平穏な時間だった。