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4 教会の礼拝堂にて 2

「ここから逃げることって、できると思いますか?」


 誰も来ないし何をしたらいいのか分からず、私は会話を続ける。本当は王女様なんてお偉いさんと、花売り娘である私は話したらいけないのかもしれないけど、今私は貴族のご令嬢なので良いことにする。


「それは難しいわ。逃げられることを警戒して、教会のあちこちに見張りかいるらしいの。それに娼館から足抜けした子もいるらしく、そういう子が連れ戻されないように、外にも見張りがいるらしいの」


「そりゃそうですよね、逃げられたら困りますから」


 ここから逃げ出して、どこか別の場所で生きていく。それはできないらしい。


 死ぬかもしれないことを考えると逃げたくなる人が出てくるし連れ戻したい人だっていそうなことを考えると、それは当然の処置になるかもしれない。


「大丈夫だわ。神はきっと私達のことを見捨てないの。しっかりお祈りすれば、立派な聖女になれるわ」


「そうですかね?」


「そうよ。聖女は聖なる存在、真摯にお祈りすればきっとなれるわ」


「そうですね」


 髪が黒いからすんなりと聖女になれると、私はこれまでの話だけで信じることが出来ない。それほど聖女のことを知っているわけじゃないので、ここでは祈る以外は何もできることはなさそうだ。


 今まで私は祈った事なんてない。王女様が祈る様子を見て、それを真似してみる。何の神に祈るかそれすら分からないけど、生き残れるよう真剣に祈った。


「失礼します。お時間です。あら、あなたはラベンダー男爵令嬢でしょうか?」


 しばらくの間祈っていると、黒いワンピースを着た女性が、たくさんの少女達を連れて中に入ってきた。この様子からすると女性がまとめ役で、少女達が私と同じ聖女候補かな? もしかしたら女性も聖女候補かもしれないけど、そんな感じには見えない。


「そうです。ラベンダー男爵の養女です」


「そうでしたか。では皆さま、お好きな席にお座りください。この後薬を飲むことになります。大丈夫です、なんとかなりますよ」


 その女性は私に詳しい説明をせずに、連れてきた少女達置いてさっさと出て行ってしまった。この感じからすると少女達を連れてくる役目の人で、私達と同じ聖女候補ではなかったみたいだ。


 それにしても薬はここで飲むんだ。死ぬかもしれないのだからベッドのある場所でした方が良いのに、何か意味でもあるのだろうか。


「もうすぐだわ。もうすぐ薬を飲む時間・・・・・・」


 王女様が祈るのを辞めて、緊張したようにつぶやく。


「薬に合うといいなー」


「聖女にならなきゃ、未来ないし」


「あーそうなれたらいいなー」


 わいわいとフリルやレースが少しつけられている綺麗な色をしたドレスを着た少女達が話しながら、席に座る。その少女達は淡い緑色や濃いオレンジ色などとカラフルで、黒髪や茶髪は一人もいない。


 貴族というよりは庶民で、新しそうなドレスを着ているので、ごくごく普通に街で暮らしているような子が着飾ってやってきたように見える。彼女たちがどういう理由で聖女になろうとしているのか分からないけど、かなり必死そう。


 そんな人達から離れた席に私は座り、周りを見渡してみた。王女様、庶民の少女達、それ以外にどんな人が聖女候補なのか気になったから。


「あらあなたも来たの?」


「ウスベニ様こそ、なぜこちらに」


「私は王の娘として、庶民の少女に身代わりを頼むことはしません」


 ここから少し離れたところで、王女様が他の人と話していた。話しかけられた人は紺色の飾りが一切なさそうなドレスを着て、長い金髪をさらっと腰に流している。


「そうなの。お互い無事聖女になれるよう、祈りましょう」


「そうですね。ウスベニ様がよりよき聖女になれるようお祈りします」


 二人の話を聞きながら、私は首をひねる。話しかけられた人を見て何か引っ掛かるところがあるんだ。かつて会ったことがあるような、いや私は花売り娘なんだから貴族とは会ったことがないはずだ。


「では皆さま、薬を配ります。大丈夫です。皆さま立派な聖女になれますよ」


 さっき来た女性よりも年上の人が現れて、王女様と話しかけられた人は話すのをやめて席に座った。これから薬を飲むことになるからか、さっきまで楽しげにおしゃべりしていた庶民の少女達も黙る。


「そうです。不安になることはありません」


 全員が席に座ったのを確認すると、もう一人若い女性が部屋に入ってきて、その人がとある飲み物を配り始めた。


 薄い汚れや欠けが一切無いようなガラスのコップに入った、きらきらとした透明な色をした飲み物。これが薬、聖女になることと前世を思い出すことができて、死んでしまうかもしれない物だ。


 私は躊躇わずに一息で薬を飲んだ。飲み終わった瞬間、ひどい頭痛がし始める。


「皆さま恐がってはいけません。これは試練なのです。国のために大事です」


 まだ薬を飲まない人がいるからか、そうさっきの人が呼びかけている。後ろの方からたくさんの人達が入ってくるような音も聞こえる。呼びかける声、入ってくるような音。それらが頭に響いて、とても痛い。


「さっさとお飲み下さい」


「大丈夫です。あなたならいけます」


 あちこちからこんな声が聞こえる。まだ薬を飲まない人がいるんだろうな、そんなこと私には関係ないけど。


 もう私は薬を飲んでしまって、薬を飲む前には戻れない。今はひどい頭痛に耐えながら、椅子の上でうずくまる。この痛さは今までにないレベルだ、死んでしまうのかもしれないと思うほどに痛い。


 『異世界転生』という言葉が頭の中に出てきて、その言葉と共に意識が途切れた。

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