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喪失の灰狼に愛の手を  作者: 宵月碧
番犬の約束
8/8

prologue.


 一輪の真っ赤なバラを手に、アズライトは夜明けの魔女の墓石を前に座った。


 首には銀のネックレス。

 手にしたバラは、近くの町でビオラと買い物に出掛けたときに見つけたものだ。


 魔女との使い魔契約が解除され、重く不調だった身体はすっかり今まで通り元気になった。不思議なほどに身体は軽くなり、病んでいた心も穏やかに凪いでいる。


 契約が解除されたときは、魂が引き裂かれるような痛みに苦しんだ。シレネが生きているうちに解放されていたら、見捨てられたような気分になって、きっとシレネを困らせることになっていただろう。


 悲しみが消えたわけではない。

 思い出に涙が溢れる夜もある。



「ビオラがさ、ずっと俺のこと心配してくれてたらしい。俺、自分のことばかりで、全然気付いてやれなかった」


 契約が解除された日、屋敷に戻ったアズライトとジルを見て、ビオラは微かに微笑んだ。その顔を見て初めて、彼女の心を知ったのだ。

 あまりの情けなさに、溜め息が漏れる。だからこそ今日は、シレネに誓いを聴いてほしい。



「これからは、ビオラと一緒に庭の手入れをするよ」

「シレネの庭は枯らさない」

「シレネの好きな花の名前も覚えてみる」

「飯はちゃんと食べるよ」

「昼寝もするし、たまには狩りにも行く」

「うさぎを土産にしたら、また怒るかな?」

「屋敷は大事にする」

「もちろんビオラのことも」

「墓参りには、もう毎日来ないけど」

「でも、シレネはずっと俺の中にいるよ」

「あと──……」



 ささやかな約束を口にして、アズライトは躊躇いがちに頭を掻いた。



「アイツ──ジル……とは、まあ……少しは仲良くしてやってもいいよ」


 後頭部を掻いていた手が、自然と首に下りていく。


「つーか、なんなんだよアイツ。なんでシレネはあんな奴と知り合いなんだよ。何度も何度も噛み付きやがって、痛えし、変なとこ触るし、昨日なんて──……」


 そこまで言って、アズライトは口を噤んだ。次第に熱くなった頬を誤魔化すように、首を摩る。


「いや、なんでもない。もう帰るから、うん。また来るよ、シレネ」


 アズライトは慌てて立ち上がると、手にしていたバラを墓石にそっと置いた。


「ありがとう、俺を見つけてくれて。俺、大丈夫だから。安心してゆっくり眠ってほしい」


 輝く太陽の下で、アズライトは晴れやかな笑顔を浮かべて墓石に背を向けた。



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