サツキナの決心
その日の夕食は大広間で食事だった。シャーク宰相やマヤ夫人、シャーク宰相の子供達、ステラ王妃、カラミス王子など大勢で食卓を囲んだ。だがシンジノアの姿は無かった。
シャーク宰相にはステラ王女の他に25歳の息子と16歳の娘がいた。長男はすでにシャーク宰相の仕事を手伝っている。妹はブルーナーガの貴族の為の学園に通っているという。
学園の話になった。
「学園で高等教育を施してくれるのですね。それは素晴らしい」
カラミスはそう言った。16歳の娘はカラミスのイケメン振りにぼーとしている。
瞳に星を宿してカラミス王子を見ている。
「レッドアイランドには学校は無いのですか?」
兄が言った。
「勿論ありますが……。しかし高等教育とまでは行きません。精々中等教育程度です。その後は自分で学ぶしかないのです」
「そうですか。それでは是非カラミス王子が教育改革を起こして」
「そうですね。私もそれは我が国の重要課題だと考えておるのですが……」
「サツキナ姫のブラックフォレスト王国では如何ですか?」
「……」
「?」
「サツキナ姫?」
「……」
カラミスがサツキナを肘で突っつく。
サツキナははっとする。
「あ、はい。何か?」
「ブラックフォレスト王国の教育事情について尋ねられているのですよ」
カラミス王子が囁く。
「ああ、申し訳が有りませんでした。ちょっとぼーとしてしまって。きっとワインのせいですわ。そうですね。ブラックフォレスト王国では……」
サツキナは笑顔でブラックフォレスト王国の事を話した。
そんな風にして楽しく会食が進む中、サツキナは今夜の事を考えて食事の味も何を話したかも覚えていない程だった。
食事を終えて部屋に帰って来た。
部屋の中をうろうろと歩く。シンジノア様の部屋へ行けば、私は彼の妻になる。
自分の髪に薔薇を差してくれた彼の優しい眼差しを思い出す。同時に昨日見た恐ろしくも哀れな顔を。
サツキナはじっと座って考えた。
どちらにしろ、私は真司さんとは添い遂げる事は出来ないのだから……。あの方を心から愛して慰めてあげる事が出来たなら、それはきっとそれで……。
それで良いのでは?
そう思った。
サツキナは意を決した様に立ち上がった。食事を終えてもう1ルワンは過ぎているだろう。
洗面所で歯を磨いて化粧を直した。髪を整えてドレスをチェックする。今日のドレスは母のドレスだ。サツキナはドアを開けるとそこにいたオダッチに言った。
「オダッチ、今からシンジノア様の御部屋へ行きます」
「えっ?今からですか?」
オダッチは驚いてサツキナを見る。
「約束をしているの」
サツキナとオダッチは廊下を歩いてシンジノアの部屋に向かう。
シンジノアの部屋はサツキナの部屋の一つ上の階にある。衛兵がサツキナを見て頭を下げた。
サツキナは立ち止まる。そしてふうっと吐いた。
「サツキナ様。あのう……」
オダッチが恐る恐る声を掛ける。
「何?」
「あのう、今夜はずっとここで過ごされるのです……か?」
サツキナはオダッチの顔を見詰める。
「もしかしたらそうなるかも知れない」
「……」
オダッチは口を開けてサツキナをガン見する。
「ちょっと、何なの!その顔は!失礼じゃないの!オダッチ!」
サツキナはオダッチを一喝するとその勢いをかってずんずんとドアの前に行った。
オダッチは慌てて後を追う。
「シンジノア様とお約束をしております。サツキナが参ったとお伝えください」
サツキナは衛兵にそう言った。
衛兵はすぐにドアをノックして部屋に入る。
すぐに戻って来るとサツキナに「どうぞ。お入りください」と言った。そしてオダッチを見ると
「ブラックフォレスト王国の騎士殿はどうぞお戻りくださいと我が主が言っております。サツキナ姫様は今宵はここで過ごされるという事であります」と告げた。
「そんな事を仰られても……サツキナ様を御守りするのが私の使命ですから、私は朝までここで待たせて頂きます」
オダッチはそう言ってサツキナを見た。
「いいから。部屋に戻って寝なさい」
サツキナはそう言うと部屋の中へ入って行った。




