薔薇の庭園
「サツキナ姫。昨日の花火はとても綺麗でしたね」
庭を散策しながらカラミス王子は言った。
「……」
「サツキナ姫。シンジノア様との夕食はどうでしたか? 楽しかったですか?」
「……」
「サツキナ姫。今日の若草色のドレスもとても美しいです。サツキナ姫は何を着ても」
サツキナは立ち止まってカラミス王子を睨む。
「あれ? 何か怒っています?」
カラミス王子は首を傾げた。
「昨日、何かシンジノア様に言われたのですか? こんなお転婆は嫁に出来ないとか?
角があるから第二夫人だとか?」
サツキナはむっとして低い声で言った。
「少し黙ってくださらないかしら。私は考え事をしているのだから」
カラミス王子はぷっと噴き出す。
「サツキナ姫が考え事……。何を考えるんですか?その可愛いおつむで。サツキナ姫。大丈夫です。シンジノア様が駄目だったら私がいつでもサツキナ姫を受け入れますから。私は太陽の様な広い心で……あれ、サツキナ姫? ちょっと待ってください。まだ、話が途中です。サツキナ姫~」
カラミスが追って来る。
いっその事あの減らず口をアンジェ・リリカちゃんの髪で縫い付けてやりたい。
サツキナはプンプンしながら歩く。
「サツキナ姫―!待ってください」
カラミス王子は足早に追い掛ける。
サツキナはドレスを持って走り出した。
後ろを振り返りながら走っていたから前に人がいるのに気が付かなかった。
「おっと。危ない」
目の前にシンジノアが現われた。
彼の逞しい腕がサツキナを抱き抱えた。
シンジノアの隣に女性がいる。
庭園の薔薇を切り取って腕に抱えている。
サツキナは慌ててお辞儀をした。
「シンジノア様。これは失礼致しました。……あの、ご機嫌麗しゅう」
シンジノアはくすくすと笑った。
「追いかけっこですか?」
サツキナは赤くなって口籠った。
「違います。カラミス王子がしつこく話しかけるから」
隣にいた女性がにっこりと笑う。
「仲良しなのね」
そう言った口調には皮肉も何も含まれていなかったけれどサツキナは青くなった。
「あの……。違います。違うのです。ただの友達です」
おどおどと言う。
「ステラ」
シンジノアは咎める様に隣の女性に声を掛ける。
「あ、御免なさい。ただ言っただけなの。お気になさらないで」
女性はおっとりと返す。
「サツキナ姫、こちらはシャーク宰相の一番上の娘、即ち私の姉ですが。ステラです」
「まあ……。シンジノア様のお姉様ですの? ステラ様。初めてお目に掛かります。ブラックフォレスト王国のサツキナで御座います。お見知り置きを……」
サツキナは礼をする。
ステラ王女も美しい礼をする。
「ブラックフォレスト王国のサツキナ姫? ああ、あなた様がシンジノアのご結婚相手なのね。……羨ましいわ。若くて綺麗で。その可愛らしい角もとてもチャーミング」
ステラはにっこりと笑って言った。そして薔薇の花を一つ取るとその茎を切り「その綺麗な髪に飾りましょう。宜しいかしら?」と言って差し出した。
「シンジノア。あなたが飾ってあげて頂戴」
シンジノアは薔薇を受け取るとサツキナの髪にそれを指した。微笑んでサツキナを見る。
サツキナは顔を赤くしてシンジノアとステラを見る。
「あなたがシンジノアと結婚したら私とあなたは姉妹になるわ。こんな可愛い妹が出来るなんて嬉しいわ」
ステラがそう言ってサツキナは顔を輝かせた。
「私もです。私もとても嬉しいです。ステラ」
カラミス王子がやって来た。
シンジノアはカラミスをステラに紹介して、暫くそこで4人は立ち話をする。
その後、ステラはシンジノアの腕に手を掛け、2人は庭を後にした。
「ステラ様はブルーナーガのイール国に嫁ごうとして、結婚式の数日前に婚約者が事故死してしまったと記憶しています。それ以来、ご結婚相手が見付からなくて……ずっと独身でいるのですね。多分、私の姉のミランダと同じ位の年だったかと……」
カラミスはシンジノアの後ろ姿を見て言った。
「まあ……。気の毒な方ね」
「しかし、シンジノア殿は落ち着いていてすごく大人と言う感じがしますね。穏やかで物腰も上品だし、何よりも包容力がある。悔しいけれど……。でも、若さで言うと私の方が勝っている。いつも頭巾を身に着けているけれど、何故だろうか? サツキナ姫。理由を聞いてみましたか? 夕食の時は流石に頭巾は……あれ? サツキナ姫?」
サツキナはさっさと先に歩いていた。
後ろを振り向くと「私は今から部屋で休みます。声を掛けないでくださいね」と言った。




