シンジノア・シャーク侯 2
その夜、サツキナは眠れなかった。シンジノアの恐ろしい顔が目に浮かんだ。
だが、彼は私の角など気にしないと言ってくれた。サツキナは悶々として悩んだ。
ルイスは当然シンジノア様のあの顔を知っていて私に婚姻を薦めたのだろう。あんな風にいい男だと私に言って。凛々しくて逞しくて賢くてって……。確かにそうだ。顔の事を除けば。
あの顔を見たら身分の高い女性達は失神してしまうかも知れない。中身がどんなに良い人であっても結婚などしようとは思わないだろう。あんなにいい方なのに……。
ルイスは私が角を持つ女だから彼に釣り合うと思ったのだろうか……。
サツキナはそう思うとずぅぅぅんと落ち込む。
ルイスはシンジノア様と私はお似合いだと言った……。
夜が明けて、辺りが明るくなる。結局、一睡も出来なかった。
サツキナは窓の外を見る。
オルカ国は明るくて緑が綺麗だ。美しい花も沢山咲いている。ダッカ杉に覆われた寒いブラックフォレスト王国とは全然違う。
魔族に偏見を持たないこの国ならブラックフォレスト王国をずっと支えてくれるだろう。
シンジノアの寂しそうな目がとても気の毒だった。彼は運が悪かっただけなのに……。
「何か不都合があるのかも知れない」
カラミス王子の言葉が蘇る。
「魔族と結婚しようとする人はそんな人かも知れない」
自分はカラミス王子にそう返した。
蓋を開けてみたらその言葉通りの結果となった。
サツキナは心を決めた。
顔なんて見慣れれば何とかなる。それよりもブラックフォレスト王国の後ろ盾になる国が必要だ。イエローフォレストにこれ以上見縊られない様に。
彼は誠実でそして優しい人だ。逞しくて、ユーモアがあって賢くて、そしてとても気の毒な人だ。人柄は私には勿体無い程の人物だ。
そう思いながらも何故か涙が零れた。何がショックだったのか分かっている。
ルイスが彼の顔の事を何一つ言わないで私に結婚を勧めた事がショックなのだ。いい男だと言って。
まるでだまし討ちに遭ったみたいな気分だった。
サツキナは頭から布団を被ってしくしくと泣いた。




